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The Lost Universe 古代の巨鯨⑤古代クジラと未確認生物

今回はクジラ類の進化と栄華の歴史を追ってきましたが、最後に締め括りとして、古代クジラの生き残り説について考察していきます。
霊長類シリーズの最終回(下記リンク参照)と同様、UMAこと未確認生物のお話となりますので、サブカルチャーのような感覚で楽しく読んでいただければ幸いです。


海の未確認生物とクジラの関係

海の怪物モビィ・ディックは実在した!?

文豪ハーマン・メルヴィルの代表作にして、超弩級の海洋冒険小説スペクタクル『白鯨』。エイハブ船長率いるクジラハンターたちと、強大な白いマッコウクジラーーモビィ・ディックとの激闘を描いた一大海洋ロマンです。
古代のマッコウクジラの近縁種につきましては前回の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください(下記リンク参照)。

「モビィ・ディックなんてフィクションの中だけのホラーモンスターだ」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
実は、この怪物にはモデルとなった個体がいます。それこそ、小説に出てくるモビィ・ディックと同じように白鯨だったのです。

その名は『モカ・ディック』。
アルビノか白化個体か定かではありませんが、体色の白いマッコウクジラです。19世紀のチリ沖で暴れ回っていた強力なオスの個体で、通常のマッコウクジラを上回るパワーと知性があったと言われています。

モカ・ディックは船乗りと激闘を繰り広げ、持ち前の超パワーで船舶を何隻も破壊してきました。クジラハンターたちとの戦いを100回以上も乗り越えてきたとの記録があり、彼の強さは経験値に裏打ちされたものだったと思われます。
そんな彼も、やはり人間の追撃からは逃れられませんでした。情が仇となったのか、仲間の幼体を助けようとした隙を狙われ、ついにモカ・ディックはハンターの銛を受けて絶命してしまいます。その死体はオスの平均全長を軽く凌いでおり、100バレルにも及ぶ鯨油が取れたと報告されています。

マッコウクジラの骨格標本(千葉県立中央博物館にて撮影)。写真中央が成体、手前が幼体になります。獰猛な個体も存在し、過去の船乗りにとってはまさしく怪物でした。

このように、現実の世界にも、怪物級と称されるクジラは存在します。多くの民族の伝説上に記される海の怪物も、クジラがモチーフになっているものは多いと考えられます。

そして現在において、クジラは再び怪物のモデルになりつつあります。
そう。未確認生物、UMAとして。

世界各地で目撃される謎の水棲UMA

未確認生物の王様と言えば、やはりネス湖のネッシーでしょう。その名は一般にも広く知れ渡っていて、今ではUMAの代名詞のように扱われています。
未知の水棲生物は、霊長類系や飛行系のUMAよりもはるかに多く報告されています。ネッシーと同様の目撃例は世界中にゴマンとあり、その出現場所は海洋・湖沼・河川を問いません。

「これだけたくさん目撃されてるのなら、もしかしたら実在するのでは?」と思う人もいるかもしれません。水中環境は陸上よりも探索が難しいため、深淵には見たこともない生き物がいそうな気になります。もちろん、明らかに疑わしいケースが圧倒的に多いのですが……。

正体の仮説としてはいろいろあり、特に古生物が候補にあげられる傾向にあります。その中には、なんと古代クジラも含まれます。
ただ、水棲UMAの多くは、フォルムが典型的なクジラ型とは異なっています。首の長いネッシー型か、胴体の細長いウミヘビ型の形態をしていることがほとんどのようです。後者の場合、よく正体候補にされるのが、過去の記事で紹介した古鯨類のバシロサウルスです(下記リンク参照)。

通説によると、バシロサウルスは約3400万年前(始新世末期)には絶滅したと言われています。それでは、各地で目撃される水棲UMAの正体は、いったいどんな生き物なのでしょうか。

古代の海洋肉食動物の全身骨格(国立科学博物館にて撮影)。古代クジラのバシロサウルス類(左)と、海棲オオトカゲのモササウルス類(右)。どちらも水棲UMAの正体候補に名前があがっています。

古代クジラの生き残り(?)とされるUMAたち

オゴポゴ ~300件以上の目撃報告! インディアンの伝説にも残る怪物~

度々、UMAは出現地域の伝承と紐づけられることがあります。それらの神話がUMAをさらに神格化させ、人々を夢中にさせる効果があると思います。カナダのオカナガン湖に棲むとされる怪物オゴポゴも、伝説から派生した未確認生物の一つです。

インディアンの間では、古来よりオカナガン湖には悪魔が棲んでいるとの伝承がありました。その怪物は「ナイタカ」と呼ばれ、湖に侵入する者たちの命を奪うと信じられていました。そのため、先住民たちは生贄として小動物をオカナガン湖に捧げたそうです。
そして、イギリス人たちが移住してきて年月が過ぎると、ナイタカはいつの間にか「オゴポゴ」という名前に変わっていました。母国イギリスでヒットした歌が由来と言われています。下記に、オゴポゴの名が用いられている箇所を記します。

「僕はオゴポゴを捜してる 変てこで小さなオゴポゴ 母親はハサミムシで父親はクジラ 頭は小さく尾はほとんどない そしてその名はオゴポゴ」

オゴポゴ目撃の最古の記録は、1872年に遡ります。蒸気船がオカナガン湖を渡っていた際、ある女性が船上から未知の生き物を見つけました。その後も続々とオゴポゴが出現したとの報告が寄せられ、トータルの目撃件数はなんと300件以上にものぼります。地元住民や観光客、さらには救助隊員までもがオゴポゴの姿を見ているのです。

あまりにも目撃件数が多いためか、オゴポゴは当地ではかなりの人気と知名度を誇り、地元アイスホッケーチームのマスコットのモデルにもなっています。
全長は10 m以上あると言われており、上下に体をくねらせて泳いでいたようです。そのためクジラの仲間なのでないかとの説が浮上し、古鯨類のバシロサウルスが正体候補にあがりました。

しかしながら、湖と古代クジラの間には年代的な矛盾が存在します。

オカナガン湖が形成されたのは最終氷期の末期(約1万年前?)!
バシロサウルスが生きていた時代は3400万年以上も前の超大昔!

そのギャップはあまりにも大きく、「バシロサウルスは3000万年以上もの間どこで何をしていたのか?」との疑問が湧いてきます。
仮に中新世まで生き残っていたとしても、現生クジラ類よりも遊泳力の低いバシロサウルスが、超強力な捕食者メガロドンやリヴィアタンとの生存競争をくぐり抜けられるとは思えませんが……。

では正体は何なのかと言われると、個人的に湖に生息する動物たちとしか言いようがないと思います。少なくとも、バシロサウルスである可能性は低いとは言わざるをえません。彼らは全長15 mの肉食動物であったと考えられており、本当にオカナガン湖に生息しているのならば、オゴポゴに食べられた人間が過去1人もいないことはあまりにもおかしいです。

バシロサウルス類ザイゴライザの頭骨(岩手県立博物館にて撮影)。見ての通り、大きく鋭い歯を備える肉食動物です。もしもオゴポゴの正体がバシロサウルス類の古代クジラならば、人間の被害者がたくさん出ているはずです。

小動物が集団で遊泳している際に、不規則な波が立ち、それがたまたま怪物に見えた可能性もあります。ウナギを追いかけていたカワウソの群れがオゴポゴの正体、というのはあまりにも皮肉がすぎるでしょうか。

ジャノ ~塩湖の中に潜む巨大な影! トルコ発の水棲未確認生物~

トルコ共和国の東部には、悠久の歴史を有する風光明媚な湖があります。強アルカリ性の水を湛えた満ちた塩湖であり、琵琶湖の5倍以上の面積を誇るトルコ最大の巨大湖ーーそれがヴァン湖です。
美しい自然の景観もさることながら、湖底には3000年前の都市遺跡が佇んでおり、はるかな時を越えて、ヴァン湖は我々に壮大なロマンを感じさせてくれます。

この優美なヴァン湖では、1990年代から怪物の目撃が報告されるようになりました。それこそが、CNNニュースを通じて話題となったUMAジャノなのです。

そして1997年、ヴァン大学で教育助手を務めていた26歳の青年が、湖で驚くべき生き物の動画を撮影します。そこには、茶褐色の水棲生物が湖面から頭を出して泳いでいる姿ーーすなわちUMAの生体映像が記録されていました。

ジャノの特徴を踏まえると、全長は15 m以上。そして体を上下に振って泳ぐという点から、クジラの仲間である可能性が提唱されました。存在肯定派によると、オゴポゴと同じく、最も正体に近いのは古代クジラのバシロサウルスということです。

バシロサウルスの全身骨格(福井県立恐竜博物館にて撮影)。UMAの正体にあげられることがあるものの、生態学的にはかなり無理があります。

ここで問題となるのは、食糧についてです。ヴァン湖で獲れる主要な魚はニシン類であり、それだけではジャノの巨体を養うには無理があります。シャチは1日に100 kg以上の食糧を食べます。大型のバシロサウルスとなると、途方もない量の餌が必要でしょう。ジャノが複数個体(群れの生存には数十頭は必要)いると仮定すれば、ヴァン湖の生物資源量では彼らを養いきれるのか疑問です。

トドメとばかりに申し上げると、ジャノの映像記録者の青年は、いつの間にか行方をくらませています。現在では、ジャノの生体記録は彼の捏造だったというのが大衆の見方のようです。
なお、現在のヴァン湖では干魃被害が深刻化していて、早急な対策が求められています。水域の縮小は他の地域でも起こっている環境問題であり、私たちが取り組むべき命題なのです。

ちなみに、ヒゲクジラ類の記事でも紹介したように、古代クジラの血はまだ絶えていません(下記リンク参照)。コセミクジラが大昔のケトテリウム類の子孫であったという事実は、生物学界に衝撃をもたらしました。

古代種・現代種を問わず、クジラたちの世界はまだまだわからないことだらけです。2019年には新種クロツチクジラが記載され、無限なる海洋には数知れぬほど多くの未知の生命が生きていることを感じさせられました。

筆者はUMA存在否定派ですが、もしかしたらUMAと呼ばれた怪物たちの中から新種のクジラが見つかるかもしれません。
今後、どのような新発見が私たちを驚かせてくれるのでしょうか。

【参考文献】
Reynolds, N. J.(1870) Mocha Dick: Or The White Whale of the Pacific. London and Glasgow: Cameron and Ferguson.
Delbanco, A.(2005) Melville, His World and Work. New York: Alfred A. Knopf.
未確認生物ミステリー研究会(2014)『UMA未確認生物図鑑』西東社
天野ミチヒロ(2016)『大迫力!世界のUMA未確認生物大百科』西東社
安藤健二(2017)『「怪獣の湖」で3000年前の城塞を発見 トルコのヴァン湖で撮影に成功 「歴史学者と考古学者が、新たに学ぶべき新発見」』HUFFPOST https://www.huffingtonpost.jp/amp/entry/lake-van_jp_5c5b71ffe4b0faa1cb67a2b9/
本城達也(2020)『カナダの巨大水棲獣「オゴポゴ」』超常現象の謎解き https://www.nazotoki.com/ogopogo.html
地球の歩き方編集室(2022)『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方―超古代文明・オーパーツ・聖地・UFO・UMA』地球の歩き方
羽仁札(2022)『カナダ・オカナガン湖に棲息する水の悪魔! UMAオゴポゴの基礎知識/ムーペディア』ムーweb https://web-mu.jp/paranormal/658/

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