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The Lost Universe 巨大竜脚類恐竜②超巨大真竜脚類

三畳紀後期に誕生したと思われる竜脚類は、特殊な呼吸システムと骨格構造を活かして、瞬く間に地上最大の動物となりました。彼らは世界中で繁栄し、恐竜たちの王朝は揺るぎないものとなります。
時代はジュラ紀へ! 現代のスケールでは計り知れないほどの超巨大生物の楽園が、地球上の至るところで存在していたのです。


恐竜時代の最後まで続いた超巨大恐竜の楽園

栄光のジュラ紀と苦難の白亜紀

数々の化石証拠から、竜脚類の全盛期はジュラ紀だと考えられています。気嚢システム(前回の記事を参照)の恩恵を受けて巨大化した竜脚類は、ジュラ紀(約2億130万~約1億4500万年前)の中頃にはすでに全長30 mクラスの超大型種を生み出していました。竜脚類は世界のほぼ全域で繁栄を成し遂げており、日本を含めたあらゆる地域で化石が発見されています。

ジュラ紀後期に栄えた竜脚類カマラサウルスとディプロドクス(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。これほど巨大な動物たちが世界中に生きていたジュラ紀では、毎日のように恐竜たちが大地を揺るがしていたことでしょう。

なぜ、竜脚類はジュラ紀にこれほど栄えていたのでしょうか?
圧倒的な巨体と、摂食に有利な長い首を備えていたという身体的特徴が大きな要因だと思われますが、当時には彼らに比肩しうるライバルがいなかったことも一因だったと考えられます。ジュラ紀の初期では鳥盤目の植物食恐竜はそれほど勢力を広げておらず、食糧資源や生息場所を巡る競争で竜脚類は優位に立っていました。原竜脚類より大きく首の長い竜脚類は、同じ特性を有する他の競争相手を引き離し、大型植物食動物としては類を見ないほど大繁栄できたのかもしれません。

棍棒状の尾を振り回し、肉食恐竜と戦う竜脚類シュノサウルス(福井県立恐竜博物館にて撮影)。竜脚類としては初期の種類ですが、全長は10 mに達しており、未来の巨大竜脚類の王朝を暗示しているように思えます。
剣竜類の植物食恐竜へスペロサウルス(福井県立恐竜博物館にて撮影)。彼ら鳥盤目の恐竜たちが高度に進化してきたのはジュラ紀中盤以降であり、一歩早くスタートを切った竜脚類はライバルの少ない環境で大繁栄できたのかもしれません。

しかしながら、白亜紀(約1億4500万~約6600万年前)になると情勢は大きく変わってきます。
高度に進化した鳥盤目の植物食恐竜(イグアノドンやトリケラトプスの仲間)が次々と登場し、竜脚類の生態的地位は脅かされることになります。繁殖戦略や植物の摂食において高い能力を秘める鳥盤目の恐竜たちは、各地で多様化を極め、徐々に竜脚類は衰退していきます。

ただ、地域によっては白亜紀の真っ只中でも竜脚類は繁栄を続けており、南半球のゴンドワナ大陸ではティタノサウルス類が多様化していました。また、北半球のローラシア大陸にも進出していった種類が知られており、竜脚類は最後まで中生代をたくましく生き抜いたと判明しています。
時代が変わっても、想像を絶するタフネスで生き続けた竜脚類。巨体とパワーのみならず、種族全体のしたたかさも含めて「最強」と呼べるのかもしれません。

やや小型の竜脚類ネウケンサウルス(徳島県立博物館にて撮影)。白亜紀になっても竜脚類は生き続けますが、多様化する他の植物食恐竜との生存競争により、ジュラ紀ほどの大繁栄は再来しなかったと思われます。

複雑化する竜脚類の分類

恐竜に限らず、DNA分析がなかなかできない化石動物の分類は、かなり困難を極めます。解剖学的な研究の発展により、竜脚類の系統分類は数十年前とは比べものにならないほど複雑化しています。
首が極端に長い種類もいれば、装甲状の皮膚を備える種類もいたり、背中に長い突起を装備する種類もいます。また、大半の種類とは異なり、著しく首の短い竜脚類までもが存在しており、彼らの進化と分類を一様に語ることはできません。形態的な特徴や古代の地理的研究を勘案しながら、古生物学者は慎重な姿勢で竜脚類の進化を解き明かしています。

背中に長い突起を備えるアマルガサウルス(巨大恐竜展2024にて撮影)。竜脚類の形態には幅広い差異があり、近年の研究で解剖学的な分類方法が発展してきました。

進化学の観点から見て、初期種よりも進んだ特徴を持つグループが「真竜脚類しんりゅうきゃくるい」です。ジュラ紀中期のやや原始的な種類や、ブラキオサウルスやディプロドクスなどの後発の種類も真竜脚類に含まれます。今回はの記事では、ディプロドクス類やティタノサウルス形類を覗いた真竜脚類の巨大種を紹介していきたいと思います

オメイサウルスの頭骨(巨大恐竜展2024にて撮影)。彼らも真竜脚類の一種であり、後述するマメンチサウルスに近い仲間です。
真竜脚類ユアンモウサウルス(豊橋市自然史博物館にて撮影)。竜脚類としては中型ですが、他の動物に比べると圧倒的に大きいので、博物館での存在感は抜群です。

初期の真竜脚類は、形態的に他の種類と大差ないように思えます。ただ、アジア産の種類にフォーカスしてみると、著しく首の長い者たちが目立ちます。後述のマメンチサウルス類のように、全長の約半分を首が占めている種類も存在します。
こういった特徴的な形態が生まれるのは、生存競争を有利に導くため、あるいは環境に適応するためだと考えられます。謎の解明には近縁種の深い研究が必要となりますし、古代の地理や気候の解明も必須です。

まだまだ謎の多い巨大恐竜たち。ジュラ紀に名を馳せた超長大真竜脚類には、どのような種類がいたのでしょうか。

スクリーンに投影されたユアンモウサウルスのCG映像(豊橋市自然史博物館にて撮影)。時代が進むにつれて、真竜脚類は大きく勢力を広げ、さらに進化していきます。

超巨大真竜脚類

マメンチサウルス 〜生物史上最も長い首? アジア最長クラスの巨大恐竜〜

竜脚類の首が長いことは周知の事実ですが、ジュラ紀の真竜脚類の中には、長さ15 m以上もの首を備える種類もいました。その驚異の巨大恐竜こそ、中国産の真竜脚類マメンチサウルス・シノカナドルム(Mamenchisaurus sinocanadorum)です。新疆ウイグル自治区のジュラ紀後期(約1億6000万年前)の地層から化石が発見されており、それまでのマメンチサウルス属の大きさをはるかに凌ぐ個体と判明しました。

マメンチサウルスの全身骨格(岩手県立博物館にて撮影)。最大級の個体は、この骨格の約1.5倍もの長さがあったと考えられてきます

最大級のマメンチサウルスの大きさは、全長35 mと推定されています。これは全時代の竜脚類を見渡してみても屈指の巨体であり、体重は30 t以上(もしかすると50 t?)あったと思われます。そして驚くべきことに、彼らは全長の半分近くにも及ぶ超長大な首を備えていました。文句なしに、地球史上最も首の長い動物なのです
マメンチサウルスの頸椎(首の骨)は19個あり、竜脚類の中では最多です。彼らは長い首を左右方向に広く動かし、広範囲の植物を効率よく食べていたと考えられます。

マメンチサウルス類の復元模型(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。相対的な首の長さにおいて、彼らは他の竜脚類を上回っています。

もはや考えるまでもないかもしれませんが、これだけ大きければ、ほぼ無敵です。大型肉食恐竜が無謀に挑んできても、特大のマメンチサウルスならばパワーの差で圧倒して踏みつぶしてしまうでしょう。ただし、いくら竜脚類が最強とはいえ幼体の頃は天敵が多く、全長30 mクラスまで成長できるマメンチサウルスはかなりの幸運の持ち主だったと思われます。

ちなみに、タイのカラシン県では、ジュラ紀後期のマメンチサウルス類の化石が発見されています。本個体は大腿骨だけで1.4 mの長さがあり、全長は30 m以上あったと推定されています。もしかすると、マメンチサウルス・シノカナドルム以上の巨大恐竜だったかもしれません。

タイ産のマメンチサウルス類の大腿骨(巨大恐竜展2024にて撮影)。推定される全身の長さは30 m以上に及び、アジア最大級の恐竜の一角であると思われます。

トゥリアサウルス ~体重50 tの超ヘビー級竜脚類がヨーロッパに降臨!~

アジアのマメンチサウルス類は、超長大な首で見る者を圧倒します。一方、ヨーロッパではがっしりとした体躯のパワフルな竜脚類が誕生していました。
彼らの名はトゥリアサウルス・リオデヴェンシス(Turiasaurus riodevensis)。全長およそ30 m、体重50 tと推定されるヨーロッパ最大級の巨大恐竜です。化石はスペインにて発見されており、ジュラ紀と白亜紀の境界付近(約1億4500万年前)の地層から骨格が出土しています。
体重50 tと言うとアフリカゾウ10頭分の重さであり、桁外れのパワーを有していたことが伺えます。他の竜脚類と同じく、力強い四肢と中空の椎骨、そして気嚢システムの効果で圧倒的な巨体を獲得できたのです。

ヨーロッパ最大クラスの竜脚類トゥリアサウルス(巨大恐竜展2024にて撮影)。力強い骨格を備えており、体重は約50 tあったと考えられています。

有名なブラキオサウルスやアパトサウルスと比べて、トゥリアサウルスは原始的な竜脚類であると考えられており、真竜脚類の中の「トゥリアサウルス類」に分類されています。ジュラ紀後期にはヨーロッパは大陸から分かれて島嶼になったと考えられており、トゥリアサウルス類は独自の進化を遂げていたと思われます。

トゥリアサウルスのたくましい巨体(巨大恐竜展2024にて撮影)。間違いなく地上で無敵の存在であり、健康な成体には敵はいなかったでしょう。

ライオンやトラは決して成獣のゾウにはかないませんし、シャチもタイマンではザトウクジラに歯が立ちません。同様に、体重50 tものトゥリアサウルスには、どんな捕食者も太刀打ちできなかったでしょう。当時のヨーロッパには大型の肉食恐竜メガロサウルス類が生息していましたが、健康な成体の竜脚類にとっては脅威ではなかったと思われます。
ただ、肉食恐竜の方がずっと素早く足も速いので、未成熟のトゥリアサウルスは捕食されることも多かったと考えられます。メガロサウルス類には全長10 mクラスの種類もいたと思われるので、幼体の竜脚類は成熟するまで危険と隣り合わせだったはずです。

肉食恐竜メガロサウルス類の下顎(巨大恐竜展2024にて撮影)。彼らが群れで束になっても、成体の竜脚類にはめったに勝てなかったと思われますが、幼体や老齢個体には恐ろしい天敵となったはずです。

真竜脚類の出現で、巨大化に拍車をかける恐竜たち。その波はまだまだ止まりません。お次は「大きい」のはもちろんのこと、驚くほど「長い」竜脚類たちを見ていきたいと思います。
生物史上屈指の長大なボディを誇る巨竜。ジュラ紀に栄華を極めたディプロドクス類の登場です!

【前回の記事】

【参考文献】
Upchurch, P.(1995)The evolutionary history of sauropod dinosaurs. Philosophical Transactions of the Royal Society of London B, 349: 365-390.
公式図録『世界の巨大恐竜博2006 生命と環境─進化のふしぎ』日本経済新聞社
Paul, G.S.(2010)The Princeton Field Guide to Dinosaurs, Princeton University Press.
川崎悟司(2011)『絶滅したふしぎな巨大生物』PHP研究所
Hendrickx, C. et al.(2014)Torvosaurus gurneyi n. sp., the Largest Terrestrial Predator from Europe, and a Proposed Terminology of the Maxilla Anatomy in Nonavian Theropods. PLoS ONE 9 (3): e88905.
公式図録『巨大恐竜展2024』読売新聞社

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