The Lost Universe 古代の巨大ネコ②巨大ライオン
ライオンは力強さとロマンあふれる大型ネコ科動物です。百獣の王たる凛々しい姿には、大人も子供も、男の子も女の子も強く憧れます。
ネコ科肉食動物の中でも、トップクラスの戦闘力を秘めるライオン。驚くべきことに、古代には現生ライオンよりもはるかに強大な「真なる百獣の王」が存在していたのです。
ライオンとは何者か?
大型ネコ科動物の代表種にして頂点
エジプトやローマの古代文明時代から現代に至るまで、ライオンの強さと凛々しさに人々は憧れてきました。ライオンは多くの権力者に権威の象徴として崇められ、紋章や家紋に使用されました。動物図鑑では表紙の中央を飾るほどの大人気スターであり、百獣の王としての地位は確固たるものです。
彼らは現在のアフリカのサバンナにおいて食物連鎖の頂点に君臨しており、名実共に動物の王様と言えます。さすがに成体のゾウにはかないませんが、多くの野生動物たちにとっては大きな脅威であると言えます。
ライオンはネコ科動物としては珍しく、「プライド」と呼ばれる群れを形成し、社会的な集団生活を営んでいます。強いオスの個体を中心にメスたちが集まり、プライドの仲間たちで協力して狩りを行います。集団の力は恐るべきものがあり、キリンや若いゾウすらも倒した記録があります。
オスの子供は2~3歳頃になると群れから出て、成熟すると他のプライドへとやってきます。そして、リーダーのオスと決闘して、己の力で群れと王者の地位を勝ち取るのです。この生態は種内の近親交配を避けると共に、オスそのものをたくましく成長させる効果を秘めています。
重ねる試練が百獣の王を生む。困難な道を往くからこそ、ライオンは最強なのです。
ライオンとトラ、どっちが強い?
動物好きなら誰もが考える対決。
ライオンとトラ、特大ネコ科動物の双璧をなす2大スター。どちらが強いのかという論争は、今なお熱く議論が交わされています。
ちなみに、両者は非常に近い種類であり、分類学的には属のレベルで共通しています。ライオン・トラ・ヒョウは全て同じパンテラ属(Panthera)のネコ科動物であり、この3種は交配することさえできます。ただし、異種間交配によって生まれた子孫には生殖能力はありません。
現生種に限っては、ライオンとトラの戦闘力は互角と言われています。体格ではトラの方が大きいのですが、ライオンには首を保護するタテガミがあります。噛み合いになったら、トラの牙はなかなかライオンの喉笛に届かないでしょう。
両者とも、噛む力は約400 kgで互角。後は個体の戦闘経験や闘争心の強さで決まるものと思われます。ひとまず、現生種のネコ科の王者決定戦については「ライオンとトラ、両者とも互角」としておきたいと思います。
ただ、古代種を含めるとライオンの方が強いです。
古代ライオンは現生ライオンと系統的に近い種類であり、結論的には、最強はライオンということになります。現在のトラで最も大きな種類は特大個体で体重300 kg近くなると言われていますが、古代ライオンには体重400 kg以上もの最強王者がいました。
想像してみてください。太古の草原には、クマよりも大きなライオンが存在していたのです!
阪神タイガースファンの皆様には申し訳ありません。もはや疑いようがなく、ライオンとトラでは、ライオンの方が強いのです。
古代のライオンこそ、本当の百獣の王。その圧倒的な強さとパワーを吟味していきたいと思います。
古代の巨大ライオン
ホラアナライオン ~雪の大地を統べる北方の百獣の王~
ユーラシア大陸とアメリカ大陸で隆盛を極めた究極のネコ科動物。アジア最強を誇る彼らは、ホラアナライオン(Panthera spelaea)と呼ばれています。文献によっては、ケイブライオン、ドウクツライオン、ステップライオンとも呼ばれます。ホラアナライオンは、バーバリライオンやシベリアトラよりもずっと大きな巨体を備えており、現生種・古代種を含めてベスト3にランクインする大型種です。
彼らは約60万年〜約1万年前(更新世後期)において、ヨーロッパ・シベリア・アメリカ北部までの広大地域な地域に分布していました。乾燥した冷涼な草原を好み、雪に覆われる氷期には洞窟に棲んでいたと考えられています。現生のライオンとは異なり、トラやヒョウのように単独生活を営んでいました。
成体の体重は約350〜400 kgあったと推定されており、ヒグマの平均体重を上回っています。寒冷地に生息するライオンでしたので、分厚い毛皮を備えていた可能性もあります。近縁種のヨーロッパホラアナライオンがタテガミを有していたことから、もしかしたら本種にも短いタテガミがあったのかもしれません。
ホラアナライオンには貴重な標本の発見報告がいくつかあります。成獣だけでなく1〜2歳の幼体の骨格が発見されているうえに、シベリアの永久凍土の中から冷凍状態のホラアナライオンの幼体が複数発見されています。肉や毛皮が保存されているため、体の組織やDNAの分析が可能であり、大いなる研究の躍進が期待されます。
これだけ大きければ、戦闘能力もトップクラスです。強力なパワーを有する前足から繰り出されるネコパンチは、ウシやウマを一撃でノックアウトできた可能性があります。同じ時代にはヒグマも生息していましたが、大きさではホラアナライオンも十分張り合えるので、もしかすると、ホラアナライオンがヒグマを捕食していたかもしれません。
なお、ホラアナライオンも無敵ではありませんでした。ネコ科では最強クラスとはいえ、成体のマンモスに単独で挑むことは無謀であったと思われます。ただし、老いた個体や赤ちゃんマンモスならば、ホラアナライオンの捕食対象になったことでしょう。
ホラアナライオンの大きさと強さに驚いていただけたでしょうか。しかし、恐ろしいことに、同時代には、体重400 kgのホラアナライオンよりもさらに大きなライオンが存在していました。
その中の1種類は、西方に棲んでいた近縁種ヨーロッパホラアナライオン。そして、もう1つはアメリカ大陸で猛威を振るっていた最強の超巨大ライオンです!
アメリカライオン ~最大最強のネコ科動物! 新大陸の獅子王!!~
古代のライオンこそ最強のネコ科。その真理は、アメリカ大陸にも通じていました。全ての時代を通じて最大最強のネコ科動物、その名はアメリカライオン(Panthera atrox)です。
約34万年〜約1万年前(更新世後期)の北アメリカに生息していた規格外サイズの古代ライオンであり、ホラアナライオンと遺伝子的に近縁な種類です。彼らはホラアナライオンよりも巨大であり、ヨーロッパホラアナライオンと並んで最大のネコ科動物の1つに数えられます。
アメリカライオンの大きさについては研究者によって推定値に幅があり、一説によると体重400〜500 kgに達したとも言われています。これは現生ライオンの2倍近い重さであり、アメリカライオンの巨躯はネコ科の中でも圧倒的なサイズだったのです。これほどのガタイですので、前足のパンチの破壊力や噛む力はネコ科の中でも最強クラスであったと思われます。
史上最強のネコ科であるアメリカライオン。彼らは、多種多様な動物たちを獲物にしていたと考えられます。成体のマンモスを除いて、あらゆる生き物を捕食していたことでしょう。タフな巨体を有するアメリカライオンならば、単独でバイソンなどの大型植物食動物を倒せたと思われます。
では、これほど強すぎるアメリカライオンは、なぜ絶滅してしまったのでしょうか。
原因は人類の狩猟活動であると考えられます。獲物となる大型動物の多くを狩られたことはもちろん、アメリカライオン自身も人類の食糧になっていたと思われます。旧石器時代の人類の遺跡からはアメリカライオンの骨が発見されているので、古代ライオンたちは人類の脅威にさらされていたのかもしれません。
しかしながら、名にしおう百獣の王ですので、ときには逆に古代ライオンが当時の人類を捕食することもあったでしょう。現代でも古代でも、ライオンが危険な動物であることに代わりはありません。
古代ライオンこそが最強のネコ科動物。トラ好きの皆さんには残念かもしれませんが、ライオンの方が強いというのは紛れもない事実です。やはり、百獣の王こそ最強だというわけなのです。
ですが、トラ派にはトラ派の威厳があります。古代においては、現在のトラとは別種の「猛虎」たちが栄華を極めました。
剣の牙を装備する太古の辻斬り。その名はサーベルタイガーです!
【前回の記事】
【参考文献】
Harington, C. R. (1969)Pleistocene remains of the lion-like cat (Panthera atrox) from the Yukon Territory and northern Alaska. Canadian Journal of Earth Sciences. 6 (5): 1277–1288.
著:Juliet Clutton-Brock, 訳:株式会社リリーフ・システムズ (1992)『ネコ科の動物』同朋舎出版
Anderson, E.(1984)"Who's Who in the Pleistocene: A Mammalian Bestiary". The University of Arizona Press.
Burger, J.(2004) Molecular phylogeny of the extinct cave lion Panthera leo spelaea. Molecular Phylogenetics and Evolution (Academic Press) 30 (3): 841–849.
Barnett, R., et al.(2009)Phylogeography of lions (Panthera leo ssp.) reveals three distinct taxa and a late Pleistocene reduction in genetic diversity. Molecular Ecology. 18 (8): 1668–1677.
Sotnikova, M.V., et al. (2014)First Asian record of Panthera (Leo) fossilis (Mammalia, Carnivora, Felidae) in the Early Pleistocene of Western Siberia, Russia. Integrative Zoology. 9 (4): 517–530.
著:Brian Switek, 訳:堀込泰三(2015)「シベリアで氷河期の絶滅ライオン見つかる 永久凍土から凍結状態で、保存状態はきわめて良好」NATIONAL GEOGRAPHIC
ねこの博物館の展示キャプション
特設展『マンモス展 ~その「生命」は蘇るのか~ 』の展示キャプション
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