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The Lost Universe 巨大翼竜②オシャレな巨大翼竜

三畳紀に誕生した翼竜はたちまち空の王者となり、その支配を盤若なものとしました。翼竜を語るうえで欠かせないのが、驚くべき多様性です。それは彼らの容姿にも現れており、食性や生息環境に応じて様々な形態的進化を遂げました。
真っ先に視線を集める部位が頭部です。翼竜の中には、派手な装飾を頭に施す種類がたくさんいました。己の美しさを誇示して飛翔する竜たちとは、いったいどのような姿をしていたのでしょうか。


多様性に花を咲かせたプテロダクティルス類

天空に敵はなし! どこまでも広がる翼竜の世界

ランフォリンクス類から派生し、多様な種類を生み出したプテロダクティルス類の翼竜たち。ジュラ紀以降の中生代の世界各地にて、彼らは爆発的に繁栄していきました。当時の空には彼らのライバルとなりうる飛行生物は存在せず、翼竜たちは天空を我が物顔で舞っていたことでしょう。

ランフォリンクスの骨格(いわき市石炭・化石館ほるるにて撮影)。高い飛行能力で三畳紀からジュラ紀にかけてランフォリンクス類は大繁栄しましたが、その地位はやがてプテロダクティルス類に台頭されていきます。

中生代の中頃になると、大規模な地殻変動が繰り返され、1つだった大陸が分かれていきます。北側にはローラシア大陸(現代の北アメリカ・アジア・ヨーロッパを含む大陸)、南側にはゴンドワナ大陸(現代のアフリカ・南アメリカ・オーストラリア・南極・インドを含む大陸)が存在し、それぞれの地域において翼竜たちが生息していました。この事実は、彼らのタフさと移動能力の高さを示唆しているのだと思われます。
多くの動物は飛行能力を有しておらず、大陸間移動や島から島への移動は極めてリスキーとなります。一方、空を飛べる翼竜たちは、地形に遮られることなく、スムーズへ新天地へと渡ることができます。翼竜の飛行様式は滑空メインであり、消費エネルギーが少ないので、長距離飛行に向いていたと考えられます。また、アホウドリに似た長い翼を備える翼竜の化石も発見されており、彼らは風を捉えて遠方まで飛行できたと考えられます。

プテラノドンの全身骨格(大阪市立自然史博物館にて撮影)。彼らの翼の形は現生のアホウドリに似ており、遠距離飛行が可能だったと思われます。

驚異的なタフネスと移動能力で他の生物を圧倒し、翼竜たちは栄え続けました。その黄金時代は永く、中生代の全時代を通じて空の頂点地位に君臨していました。世界中に広がった翼竜は、各地の空で制空権を握っていったのです。

イカしたトサカが翼竜たちのブーム?

プテロダクティルス類の翼竜を見ていくと、ランフォリンクス類とは一風違った特徴が目を引きます。その1つが、強烈なほど目立つトサカです。ランフォリンクス類で大きなトサカを備える種類は少なく、一方、プテロダクティルス類の中には頭部に装飾を施した翼竜たちが多数認められます。種類によって形態は様々であり、イカした飾り程度のオシャレなトサカもあれば、もはや派手というレベルではないほどアンバランスな大きさのトサカもあります。

独特な頭を備えるタペジャラの全身骨格(いわき市石炭・化石館ほるるにて撮影)。生きていたときには皮膚の膜が張っていたので、トサカはとても大きく派手だったことでしょう。

ここで1つ生まれる謎が、「なんのためにこんな派手な頭をしているんだ?」という疑問です。実はほとんど種類において決定打となる結論は出ておらず、今なお論争が続いています。
こういうとき、参考になるのは同様の特徴を持つ現生動物です。例えば、派手なトサカを備える鳥たちは、その美しさと立派さを異性にアピールします。人間でもイケメンや美女がモテるように、見た目の美しさは個体の魅力をアピールできる重要なファクターです。

冠状の羽を生やす鳥ヤツガシラ(我孫子市鳥の博物館にて撮影)。現生の動物と比較することにより、翼竜たちのトサカの使い道を推測できるのです。

一方、性的ディスプレイ以外にもトサカの用途が複数通り考えられている種類もいます。例えば、明らかに体に不釣り合いなほど大きなトサカを持つニクトサウルス。異性へのアピールに使われたという説の他に、飛行しながら水面下の魚を捕獲する際にエアブレーキとして機能したという意見もあります。ニクトサウルスのトサカは成体になって顕著に発達することから、性的ディスプレイ器官である可能性は高いと言えます。

大きすぎるトサカを持つ翼竜ニクトサウルス(熊本博物館にて撮影)。トサカの長さは頭部の前後長の約3倍に達しており、この器官をどのように使っていたのか、とても興味深いです。

我々の想像力を掻き立ててくれるユニークなトサカ翼竜たち。彼らの中にも、目を瞪るほどの大型種がいました。雄大で風変わりな空の竜たちの姿に、詳しく迫ってみましょう。

オシャレな巨大翼竜

ズンガリプテルス 〜中国の青天を支配した空の美丈夫〜

筆者的に、翼竜には可愛い種類とイケメンがいると思っています。総じて翼竜とはかっこいい子ばかりですが、筆者が大好きな美丈夫は中国産のトサカ翼竜ズンガリプテルス・ウェイイ(Dsungaripterus weii)です。特異な頭部を備えたプテロダクティルス類であり、約1億3300万〜約1億500万年前(白亜紀前期)に生きていました。
プテラノドンほど顕著ではありませんが、頭部の後方に突起が伸びており、トサカ状の器官があったと思われます。さらに、ズンガリプテルスは顎の形が多種の翼竜とは異なっていて、先端がピンセットのごとく尖っています。この顎は上向きに反り返っており、口の奥にはイボのような歯が並んでいます。これらの特徴を踏まえると、彼らの顎は捕食対象を捕まえやすく、歯は硬いものをすり潰しやすかったと考えられます。

ズンガリプテルスの全身骨格(福井県立恐竜博物館にて撮影)。頭部の短いトサカ、やや湾曲した顎が特徴的です。

ズンガリプテルスの翼開長(翼を広げたときの端から端までの長さ)は約3.5 m。これは現在の最大級の鳥である特大アホウドリ類にも負けないサイズです。なお、翼の幅3〜4 mと聞けばものすごく大きいように感じられますが、翼竜全体で見れば中型クラスです。当時の空では他の生き物より優位に立っていたと思われますが、地上に降りれば肉食恐竜に襲われることもあったでしょう。
風変わりな顎と歯の特徴から、ズンガリプテルスは水辺の貝類・甲殻類を専門に食べていたと推測されています。ピンセット型の口先で浅瀬の貝やカニを摘み上げ、頑丈な歯で殻ごとバリバリと噛み砕いていたと考えられています。彼らの噛む力が強かったのならば、天敵への対抗手段として噛みつき攻撃を繰り出したかもしれません。

翼を広げたズンガリプテルス(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。翼開長は3 m以上あり、現代の最大級の鳥よりも長い翼を備えています。

ズンガリプテルスのトサカは他種に比べて短く、ニクトサウルスで言われるような空中姿勢制御には使われなかったでしょう。可能性があるとすれば、やはり性的ディスプレイです。異性に向けて立派なトサカをアピールする行動は、多くの動物で見られます。大きく健康的なトサカは強いオスの証であり、メスにとってはパートナー選別の重要ポイントです。また、オス同士の闘争でトサカを見せつけ合い、平和的に(?)他の個体と争うこともあったかもしれません。
水辺や樹上に集まり、トサカの美しさを競うズンガリプテルスたち。想像すると、彼らをリアルな生き物として一層強くイメージできますね。

ズンガリプテルスの復元模型(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。彼らのトサカに性的ディスプレイの役割があったのならば、赤やピンクなど目立つ色をしていたかもしれません。

トゥプクスアラ 〜丸いトサカを被ったキュートな大型翼竜〜

筆者的なイケメン翼竜がズンガリプテルスに決定したところで、可愛い巨大トサカ翼竜も決めていきたいと思います。翼に比べて相対的に大きな頭とトサカが超可愛いプテロダクティルス類、その名はトゥプクスアラ属(Tupuxuara)です。ブラジルにある約1億1200万年前(白亜紀前期)の地層から発見されており、ブラジル先住民トゥピ族の伝説に登場する悪魔にちなんで学名が与えられました。

トゥプクスアラの全身骨格(いわき市石炭・化石館ほるるにて撮影)。トサカをあしらった頭部は、胴体に比してかなり大きく感じられます。

トゥプクスアラの翼開長は5~6 mあり、アンデスコンドルや大型アホウドリの翼開長の1.5倍以上に達します。これほどの大きさに加えて、さらに目を引くのが立派な頭骨です。後頭部の骨が大きく張り出しており、烏帽子のようにも見えます。
トサカの役割については、性的ディスプレイの他に、体温調節に使われたのではないかとも言われています。暑いときにゾウが耳に風を受けて体温冷却しているのと同じように、トゥプクスアラの大きなトサカも冷却器ラジエーターとして機能したのかもしれません。

木に登る姿を再現したトゥプクスアラの骨格(天草市立御所浦恐竜の島博物館にて撮影)。トサカは烏帽子のごとく立派であり、頭部のボリュームはかなりのものです。

なお、トゥプクスアラの顎には歯がありません。魚などの小動物を摂食する際は、噛まずに丸呑みしていたと考えられます。翼竜の強みは何と言っても空を飛べることであり、その特性をフルに活かして狩りをしていたと思われます。もしかすると、こっそりと地上の恐竜の巣に飛来し、卵や赤ちゃんを食べることもあったのかもしれません。
可愛いトゥプクスアラも、大型の飛行性捕食動物。捕食対象となる生物にとっては、恐ろしい脅威になったことでしょう。

中生代の地上には恐竜たちが大王朝を築き、空では鮮やかな翼竜たちが力強く飛び交っていました。それでも、まだまだ翼竜の快進撃は止まりません。大陸の空を席巻した彼らは、さらなるフロンティアを開拓していきます。
それば、無限なる海に面した海岸線地帯。スカイブルーとマリンブルーが交わる壮大な青き天空で、翼竜たちはより大きく、強力に進化していきます。

【前回の記事】

【参考文献】
Kellner, A. W. A., et al.(1988)"Sobre un Novo Pterossauro com Crista Sagital da Bacia do Araripe, Cretáceo Inferior do Nordeste do Brasil. (Pterosauria | Tupuxuara | Cretáceo | Brasil)" Anais de Academia Brasileira de Ciências, 60: 459–469.
ペーター・ヴェルンホファー(1993)『動物大百科別巻2 翼竜』平凡社
Kellner, A. W. A., et al.,(1994) "A New Species of Tupuxuara (Pterosauria, Tapejaridae) from the Early Cretaceous of Brazil" Anais de Academia Brasileira de Ciências, 66: 467–473.
BENNETT, S., C.(2003) "New crested specimens of the Late Cretaceous pterosaur Nyctosaurus" Paläontologische Zeitschrift, 77:61-75.
nature asia(2020)「古生物学:翼竜類の飛行」 https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13495
南部靖幸(2022)『熊本博物館特別展「世界の大翼竜展」展示ガイドブック』熊本市立熊本博物館

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