The Lost Universe 古代の巨大水鳥④巨大ペンギン
ペンギン。彼らに魅せられた人間は数えきれぬほどいると思います。よちよち歩く可愛い姿、水中で巧みに泳ぐ美しい姿に、大人も子供もメロメロです。
当然ながら、彼らは人間のために可愛い見た目をしているのではなく、環境適応の末に現在の形態を獲得したのです。ペンギンたちもまた、力強く生きる地球の生命。はるか太古のペンギンたちは、どのような環境の中でどのように暮らしていたのでしょうか。
ペンギンとは何者か?
水の中を飛ぶ究極の遊泳適応鳥類
一言でペンギンを表すならば、「南半球の沿岸部に生息する非飛行性の遊泳型海鳥」です。たまに「ペンギンは南極で暮らしている鳥だ」という意見も耳にしますが、ペンギンは南極だけに棲んでいるわけではなく、南アメリカやオセアニアやアフリカにもペンギンが分布しています。つまりペンギンにも寒さに強い種類と暖かい海が好きな種類が存在しており、南極に棲むペンギンと暖海性のペンギンを同じ空間で飼育することはほぼありません。
周知の通り、ペンギンは子育てや繁殖活動を陸上で行い、食糧調達の際に海へと繰り出して水棲生物を捕獲します。陸上での緩慢な印象とは打ってかわり、水中での彼らの躍動は超スピーディーでダイナミックです。ジェンツーペンギンの遊泳速度は時速35 km以上とも言われており、アザラシやアシカよりもずっと速く泳げます。さらに、ペンギンたちは小回りが効くきくうえに急な方向転換も得意なので、海洋哺乳類にとってペンギンを捕まえるのは至難の技なのです。
なぜペンギンたちは、これほどまでに高度な遊泳ができるのでしょうか。その秘密は、彼らの骨にあります。
多くの鳥たちは、空を飛ぶために体を軽量化せねばならず、骨格は中空構造となっており非常に繊細です。一方、潜水・遊泳行動を行うペンギンにとって、軽すぎる骨格はデメリットとなります。
ペンギンの骨は内部の骨密度が高く(空洞にならず中身が詰まっている)、非常に頑強なのです。重くて密度が高い骨は水に浮きにくく、なおかつ深い海の水圧にも耐えられるので、潜水活動を行うペンギンの理にかなった適応と言えます。また、彼らの前足は飛行性の鳥に比べて相対的に短いですが、骨の関節が固まって硬い板状になっているので、力強く水をかいて推進することができます。
いかがでしたでしょうか?
よちよち歩きのペンギンたちは、実はとっても強くてかっこいいダイバーなのです。最高のギャップ萌えですね!
新生代の初期から急速進化したペンギンたち
それでは、ペンギンはいったいどのような経緯で誕生したのでしょうか。
実は、ペンギンはミズナギドリ類に近縁な分類群なのです。現生のコガタペンギンは鼻孔の構造にミズナギドリ類との共通点が認められるうえに、遺伝子の解析でもペンギンとミズナギドリが兄弟筋であると証明されました。つまり、空を飛ぶ海鳥の中から遊泳特化型の種類が派生し、そこからペンギン類へと進化していったのです。
ペンギン類とミズナギドリ類の共通祖先は、約7000万~約6800万年前(中生代白亜紀後期)に存在していました。ペンギン類の明確な発生時期は今のところ定かではありませんが、新生代に突入する前に、ミズナギドリ類と分化した可能性があります。もしかすると、恐竜王朝の末期には原始的なペンギンが生きていたかもしれないのです。
化石証拠において、約6200万年前(新生代)に最古のペンギンの存在が確認されています。彼らは天敵の少ない孤島などの環境に暮らしていたので、空を飛んで逃げる必要がなくなり、飛行能力を喪失したと考えられます。代わりにペンギンたちは遊泳生活を極め、海洋哺乳類に勝るとも劣らぬスピードを獲得したのです。
ミズナギドリ類に近縁であることは判明したものの、彼らの進化史には多くの謎が残っています。古代のペンギンたちは当然ながらペンギン目に属していますが、現生のペンギン科とは異なる特徴を持つ種類が多く、分類学上の地位を定めることは困難なのです。系統関係の解明には、さらなる化石の発見と研究が必要となります。
なお、現代のペンギン科の系統もかなり複雑に分化しています。世界には18種類のペンギンが生息しており、形態や遺伝子的な差異によってエンペラーペンギン属・コガタペンギン属・フンボルトペンギン属・キガシラペンギン属・アデリーペンギン属・マカロニペンギン属の6属に分けられています。
はるか太古に地球上に誕生し、様々な種類を生み出しながら現代まで生き続けてきたペンギンたち。彼らの多様な系統には、我々の常識からは考えられない大型種が存在していました。太古の海を泳ぎ回った巨大ペンギンの正体に、最新研究をもとに迫ってみたいと思います。
古代の巨大ペンギン
クミマヌ ~ダチョウより重い? ヘビー級の巨大ペンギン!~
中生代の終焉からほどなくして、ペンギンたちは地球上に誕生しました。実は大型種もかなり早い段階から登場していたと考えられており、約6000万~約5500万年前(暁新世後期)には人間よりも大きな巨大ペンギンが存在していました。彼らこそ、ニュージーランドから化石が発見された大型種クミマヌ属(Kumimanu)なのです。
本属の中でも2023年に新種記載されたクミマヌ・フォルディケイ(Kumimanu fordycei)は極めて大きく、体重150 kg以上もあったと推定されています。おそらく、背丈も人間より高かったことでしょう。
最大級の巨大ペンギンとはいえ、生態行動には現生種と大きな違いはなかったと思われます。クミマヌも地上で繁殖活動を行い、狩りの際は沿岸部の海に入ってダイナミックに泳ぎ回っていたことでしょう。現生ペンギンの多くは小柄なので比較的小さな魚を専門に狩っていますが、体重150 kgのクミマヌならば大型魚類を捕食できた可能性があります。
なお、多くの鳥類と同様に、ペンギン類は基本的にオスとメスが協力して仲睦まじく子育てします。つがいで交互に卵やヒナを抱いて、我が子を大切に育む姿からは、彼らの強さと愛情の深さが伺えます。きっと古代の巨大ペンギンたちも、夫婦協同でかいがいしく幼体をお世話したことでしょう。
アンスロポルニス ~永く続いた巨大ペンギンたちの血統~
最大級のペンギンの候補は複数知られており、トップ争いに必ず名乗りをあげるのがアンスロポルニス属(Anthropornis)です。本属は約4500万~約3300万年前(始新世後期~漸新世前期)に生きていた巨大ペンギンであり、南極とオーストラリアから化石が発見されています。
全長は約1.8 mと見積もられていますが、研究結果によっては全長2 m以上とも推定されています。後者の場合、体重は100 kgをはるかに超えていたでしょう。間違いなく、古今含めて最大級のペンギン類の一角です。
特筆すべきは、暁新世から存在していた巨大ペンギンが、2500万年以上もの永きにわたって生態的地位を維持していたことです。強力なライバルが少なかった可能性もありますが、それを差し引いても、これほどまでに巨大なペンギンたちの系統が永く続いていたことは驚異的と言えます。
しかしながら、漸新世以降になると、全長2 mに迫る巨大ペンギンたちの姿は減少していきます。彼らの絶滅について明確な結論は出ていませんが、クジラ類の繁栄の影響を受けたのかもしれません。巨大ペンギンは小型種と比べて多量の食糧を必要とするので、大食漢のクジラ類との資源競争によって衰退していった可能性があります。
ただし、忘れないでいただきたいのは、ペンギン類そのものは他の海洋生物と肩を並べて現代も繁栄しているということです。永い時をかけてペンギン類は南半球の広範囲に拡散し、大西洋にも進出していきました。ペンギンたちは可愛いだけの存在ではなく、太古から自然界を力強く生き延びてきた強者なのです!
これまでご紹介してきたように、太古の地球には水鳥たちの驚異の世界が広がっていました。ですが、現代においても正体不明の巨大水鳥が目撃されています。例えようもなくミステリアスな彼らは、いったい何者なのでしょうか。
【前回の記事】
【参考文献】
Jadwiszczak, P.(2001)Body size of Eocene Antarctic penguins. Polish Polar Research 22(2):147-158.
Myrcha, A., et al.(2002)Taxonomic Revision of Eocene Antarctic Penguins Based on Tarsometatarsal Morphology. Polish Polar Research, 23(1): 5-46.
Baker, A. J., et al.(2006)Multiple gene evidence for expansion of extant penguins out of Antarctica due to global cooling. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences. 273 (#1582): 11–7.
Slack, K. E., et al.(2006)Early Penguin Fossils, plus Mitochondrial Genomes, Calibrate Avian Evolution. Molecular Biology and Evolution. 23 (#6): 1144–1155.
著:David Salomon, 訳:出原速夫・菱沼裕子訳(2013)『ペンギン・ペディア』河出書房新社
Mayr, G., et al.(2017)A Paleocene penguin from New Zealand substantiates multiple origins of gigantism in fossil Sphenisciformes. Nature Communications. 8 (1): 1927.
Ksepka, D. T., et al.(2023)Largest-known fossil penguin provides insight into the early evolution of sphenisciform body size and flipper anatomy. Journal of Paleontology. 97 (2): 434–453.
下関市立しものせき水族館・海響館の解説キャプション
名古屋港水族館の解説キャプション
蒲郡市生命の海科学館の解説キャプション