The Lost Universe 古代の巨大ワニ⑤現代の怪物級巨大ワニ
ワニはとても力強くかっこいい動物です。パニック映画のワニを見て、彼らのかっこよさに惚れた人も多いのではないでしょうか。
ただ、現実世界には、映画を凌駕するワニの逸話や伝説が存在します。大自然の脅威は、人間の作った恐怖など簡単に超えてしまうのです。
人がワニを恐れる理由
サメやライオンよりも多くの人間を捕食
世界で最も人間を殺している動物は、昆虫のカです。ただ、これはカが吸血によって細菌を媒介した結果、人間が病気になって死ぬというものです。
直接的な攻撃では、イヌやヘビが際立って多くの人間を殺しています。これらの動物は人間の身近で暮らしていたり、人間に飼育されている個体がいるので、純然たる野生動物による犯行ばかりではないと思われます。
実は、野生の大型脊椎動物の中で、突出して多くの人間を殺しているのはワニなのです。ワニの攻撃によって死亡した人間の数は、ライオンやゾウに殺害された犠牲者の数よりも多くなっています。
ワニは熱帯や亜熱帯の発展途上国に数多く生息しており、当地の人々は日々の生活のためにどうしても水場に入る機会が多くなり、そのためワニと遭遇する確率が高いと思われます。また、ワニは流木や石に化けるプロですので、なかなか潜伏に気づきづらい点も、被害件数を高めている要因なのかもしれません。
日本にせよ海外にせよ、自然界に足を踏み入れたら、楽しみつつも油断しないようにしましょう。そこは野生動物たちの世界であり、我々はよそ者です。不慮の遭遇によって彼らに攻撃されても、決して文句は言えないのです。
銀幕で大暴れ! ワニたちの圧倒的存在感
「人間を捕食することがある」「水中から気配を消して襲いかかってくる」「ドラゴンのようにかっこよくて恐ろしい」という素晴らしい3拍子がそろったワニは、アニマルパニック映画の常連です。当ジャンルの中では、サメと並んで破格の人気を誇ります。ワニのかっこよさを堪能できるので、パニック映画は筆者も大好物です。
ただし、数あるワニ映画は玉石混淆であり、不運にもZ級映画を引いてしまうこともあるかもしれません。実際、低予算のワニ映画は大量に出回っており、CGが非常にチープだったり、ワニの出番が少なく、冗長な人間ドラマが何十分も続く作品もあったりします。
なるべく外れを引かないように、「ワニ映画として成立しているもの」をご紹介したいと思います。
邦題『U.M.A レイク・プラシッド』。
タイトル詐欺です。UMA(未確認生物)の名を冠していますが、未知の生命体などではなく、れっきとしたワニ映画です。公開時期がちょうど平成UMAブームの時期ですので、このような邦題にしたのだと思われます。
アメリカのメイン州に巨大ワニが現れるという荒唐無稽な展開ですが、襲いかかってくるワニの猛烈さは迫力MAX! パワー的にもサイズ的にも、古代の巨大ワニであるデイノスクス(下記リンク参照)のイメージにぴったりだと思います。当時のCGとアニマトロニクスの粋が結集されており、現代のB級ワニ映画よりもはるかにハイクオリティです。
登場キャラクターが個性的でストーリーのテンポもよく、全体的に楽しいノリで見られます。本作はホラー・コメディに分類されているようです。個人的には、皮肉屋に振り回される保安官の男性が印象的(笑)。
邦題『カニング・キラー 殺戮の沼』。
シリアス全開の傑作であり、かなりオススメです。ワニの造形が秀逸なだけでなく、アフリカが抱えている政治的な内情についても考えさせられる映画となっています。
本作に登場するのは巨大なナイルワニであり、ブルンジ共和国を訪れたアメリカのテレビ局スタッフにすさまじい勢いで襲いかかってきます。このナイルワニが全長10 mはあろうかという巨体である一方、ものすごく機敏であり、圧倒的なパワーとスピードで襲いかかってきます。「こいつ、本当にナイルワニか?」と言いたくなるほどの超巨大モンスターです(冗談抜きでアフリカゾウを倒せそうなほどの大きさがあります)。太古のクロコダイルたち(下記リンク参照)も、この巨大ナイルワニにはかなわないでしょう。
ちなみに、本作『カニング・キラー 殺戮の沼』は実話をもとにした物語です。「あんな馬鹿でかいナイルワニがいてたまるか」と思うかもしれません。ですが、そのワニは実在しているのです。
人間もカバも食い殺し、アフリカを恐怖に陥れた現実の怪物ナイルワニ。
次項にて、その実像に迫りたいと思います。
現代の怪物級巨大ワニ
ギュスターヴ 〜人間の憎しみが生んだ悲しき怪物〜
ワニが人を食い殺した記録は数多くありますが、「単一の個体が手にかけた人間の数」では、アフリカ・ブルンジ共和国のギュスターヴが最も多いと思われます。このワニに関するエピソードは、パニック映画をはるかに凌ぐほど凄惨です。
ギュスターヴはブルンジに棲むと言われるオスのナイルワニであり、全長6~7 m以上にもなると報告されています(ほとんどのナイルワニは全長4~5 m以下)。これほどの大きさに成長しているからには、その年齢は最低でも50歳以上になると思われます。恐ろしいのはその巨体だけでなく、尋常ではないパワーと攻撃性も挙げられます。
とっくの昔に最強を超えているギュスターヴは、スイギュウやシマウマを簡単に噛み殺せるうえに、なんとカバさえも捕食したという目撃例があります。もちろん人間を食い殺すことなど造作もなく、ギュスターヴの攻撃によって命を落とした人間は300人以上にのぼると言われています。快楽目的で獲物を殺した事例も報告されており、ギュスターヴに噛み殺された後、食べられずに放置された犠牲者もいるのです。
当然ながら、このような危険生物を行政が放っておくはずがなく、何度も退治作戦が決行されてきました。しかし、あまりにも巨大なギュスターヴはすさまじく頑丈な体を備えており、銃弾の掃射を受けても死ぬことはありませんでした。現在もなお、ギュスターヴは退治されていません。パワーのみならず耐久力も怪物級の個体なので、自然界では文字通り無敵の存在であると思われます。
最強最悪の怪物ナイルワニ、ギュスターヴ。いったいなぜ、これほど恐ろしい異常個体が誕生したのでしょうか。
その原因は、アフリカで勃発した内戦であると言われています。戦争によって多くの人命が失われ、無数の遺体が河川や湖沼に残置されました。
水面を埋め尽くすほど遺体は、ナイルワニの食糧源となります。その結果、ギュスターヴは人肉を好むようになり、稀代の人食いワニが誕生したと言われています。
つまり、怪物を生み出したのは人間だったのです。これからも戦争が続く限り、ギュスターヴのような怪物は無尽蔵に生まれてくるかもしれません。
ギュスターヴの出現は、我々人類に対する警鐘とも取ることができるのです。
ロロン 〜人を襲い、人から愛されたイリエワニ〜
イリエワニ。彼らは、全てのワニの中で最も危険な種類であると言われています。一方、その力強く優美な姿に魅せられる人が多いのも事実です。
ギネス記録にて「世界最大のイリエワニ」と認定されたオスの個体は、全長6.17 m、体重1 t以上ありました。そのオスのイリエワニは「ロロン」と名づけられ、フィリピンのブナワン・エコパーク研究センターにて2011年9月~2014年2月まで飼育されていました。
ロロンはもともと野生の個体です。イリエワニらしく恐ろしいエピソードがあり、地元の漁師と少女を食い殺したと言われています。もちろん人食いワニが放置されることはなく、ロロンはミンダナオ島のブナワンにて捕獲されました。
その後、ロロンは飼育下に置かれ、多くのワニ研究者の注目を集めました。世界最大級のワニとしてギネス記録保持者となったロロンは、フィリピンの人々に愛される存在となりました。彼の影響は政治にも及び、フィリピンの上院がワニの保護法律の強化を可決しました。
痛ましいことに、2014年にロロンは研究センター内で亡くなってしまいました。彼の死を多くの人々が惜しみ、フィリピン政府の環境天然資源大臣がロロンへの追悼のコメントを発表しました。
人を食べたワニでありながら、人に愛されたロロン。
ワニはもちろん危険な動物ですが、彼らも自然界の生命の1つであり、全世界が保護すべき地球の一員です。適切なワニとの距離を理解し、彼らの脅威を未然に防ぐことができれば、生息地でもワニたちとの共存を続けていけるのではないかと思います。
パニック映画はあくまでもフィクションであり、決してワニは殺人鬼ではありません。大自然の営みの中で命をつなぎ、愛情深く子供を育てる美しい野生動物なのです。
【前回の記事】
【参考文献】
BBC News Mundo(2010)Gustavo, el cocodrilo que se comió a 200 personas Gustavo, el cocodrilo que se comió a 200 personas - BBC News Mundo
AFPBB NEWS(2012)フィリピンの人食いワニ、ギネスで「世界最大」に認定 https://www.afpbb.com/articles/-/2887447
NATIONAL GEOGRAPHIC(2014)世界最大のワニ死亡、フィリピン https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429178/
Gates, B.(2014)The deadliest animal in the world. GatesNote https://www.gatesnotes.com/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week
SOHA(2016)https://soha.vn/kham-pha/gustave-huyen-thoai-an-thit-nguoi-dang-so-nhat-trong-lich-su-20160229105425595.htm