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The Lost Universe 巨大単弓類④巨大肉食性獣弓類

ペルム紀における地球の覇者は、間違いなく単弓類です。前回の記事のディキノドン類のように、世界中で植物食性の一群が大繁栄しました。その一方で、彼らを捕食する肉食性の単弓類も勢力を伸ばしました。
数ある獣弓類の中からは、ライオンやトラに匹敵ーーあるいはそれ以上に強力な捕食者も生まれました。もしかすると、中型恐竜ほどのサイズにも及ぶハンターさえいた可能性もあるのです。そんな古代の危険生物たちにフォーカスしていきたいと思います。


獣弓類はペルム紀の最強生物だった?

恐ろしい顔をした肉食性ディノケファルス類

強力な捕食者ディメトロドンを有する盤竜類が滅んだ後、頂点捕食者の地位に代頭したのはディノケファルス類でした。前回の記事で紹介した植物食性の種類とは異なり、初期のディノケファルス類は肉食性盤竜類そっくりの捕食動物でした。
彼らの武器は、ディノケファルス特有の強靭な歯と顎です(下記リンク参照)。噛みつき攻撃で獲物を仕留め、すさまじい咬合力で肉と細かい骨を一緒に砕いて食べていたと思われます。

ただ、植物食性のディノケファルス類と同様に、彼らは極めて重々しい体をしていました。頭と胴体がかなり大きく、四肢は走行に適していなかったので、逃げ回る獲物を追いかけるのは苦手だったと推測されます。現在のネコ科肉食獣をハイスピードスプリンターとするなら、肉食性ディノケファルス類はパワーファイターと言ったところでした。

巨体ゆえに小回りが利かないため、ほとんどの種類が待ち伏せ型のハンティングスタイルを取っていたと考えられます。恐ろしげな肉食性ディノケファルス類の狩りは、案外ゆったりしたものだったのかもしれません。

陸上生態系の王者となったゴルゴノプス類

ペルム紀中期~後期へと時代が進むに伴い、肉食性ディノケファルス類の勢力は衰えていきます。代わりに、その生態的地位には、高度な捕食能力を有する獣弓類の一群が君臨します。
彼らこそ、単弓類きっての凄腕ハンターと名高い獣歯亜目じゅうしあもくです。そのハンティング能力は、現代の哺乳類に迫るほど優秀であったと思われます。

獣歯亜目には複数のグループが存在し、肉食性ディノケファルス類にいち早く取って代わったのがゴルゴノプス類でした。低い頭蓋、長くがっちりした口吻、発達した鋭い犬歯は獣歯亜目に共通する特徴です。その中でもゴルゴノプス類は、著しく牙の発達した種類が多数見受けられます。言わずもがな、この凶牙は獲物に強烈な一撃を与える伝家の宝刀となりました。

ゴルゴノプス類イノストランケヴィアの上顎(大阪市立自然史博物館にて撮影)。恐ろしく大きな牙が特徴的です。

また、歩行姿勢がより哺乳類に近くなっており、(完全な直立とは言えないものの)盤竜類やディノケファルス類よりも四肢でしっかりと体を支えて素早く動くことができました。当時の主要な獲物となる他の単弓類や大型爬虫類の動きは遅かったと思われるので、攻撃力とスピードを併せ持つゴルゴノプス類の存在は、植物食動物にとってとてつもなく恐ろしかったことでしょう。
上記の特性を遺憾なく発揮し、ゴルゴノプス類を含む獣歯亜目は、ペルム紀の後半戦において最高峰の捕食者となりました。現代の肉食哺乳類たちが有する名ハンターとしての片鱗を、彼らはすでに見せていたのです。

全長1 mほどのゴルゴノプス類、リカエノプス(大阪市立自然史博物館にて撮影)。盤竜類やディノケファルス類と比べて直立に近い姿勢ができるようになり、肉食哺乳類のごとく軽快に動くことができたと思われます。

巨大な肉食性獣弓類

アンテオサウルス 〜大型のクマと同サイズ! 巨大な顎で獲物を噛み砕く肉食性ディノケファルス類〜

肉食性のディメトロドンには大型種が知られており、その中でも群を抜いて巨大だったのが、南アフリカやロシアで発見されたアンテオサウルス属です(Anteosaurus)です。約2億6510万〜約2億5910万年前(ペルム紀中期)の地層から化石が産出しています。
推定される全長は4 m以上。体重はおそらく500〜600 kgほどで、現生の大型のクマ以上の巨体です。他のディノケファルス類と同様に、重量感あふれる体つきをしていたと考えられています(下記リンク参照)。

アンテオサウルスの頭骨は長さが約80 cmもあり、鼻から眉にかけて骨の隆起が認められます。口に並ぶ切歯と犬歯は頑丈であり、噛む力はかなり強かったに違いありません。鈍重かつ頑強な植物食性ディノケファルス類にも、ひと噛みでかなりのダメージを与えられたはずです。
体型からしてそれほど速く走れたとは思えませんが、獲物となる他のディノケファルス類はさらにスピードが遅かったと考えられるので、当時の環境の中で十分食糧を確保することができたでしょう。ただ、その動きの遅さが仇となり、後の獣歯亜目に生態的地位を奪われた可能性があります。事実、肉食性ディノケファルス類の衰退と同時期に、ゴルゴノプス類などの獣歯亜目が勢力を伸ばしています。

自然界において、より優秀な競争相手の登場は脅威です。ディノケファルス類よりも直立に近い姿勢で歩行できるゴルゴノプス類は、ハンターとしての資質の面でアンテオサウルスを上回っていたと思われます。スピードよりもパワーを優先的に強化したアンテオサウルスは、素早く有能なライバルたちに獲物を奪われていったのかもしれません。

イノストランケヴィア 〜太古の辻斬りが通る! 単弓類版のサーベルタイガー!!〜

サーベルタイガー。
古生物マニアでなくても、その名を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。文字通り、剣のごとく長大な犬歯を装備する太古のネコ科肉食獣です。頑丈な体と自慢の牙を活かして、バイソンやウマを仕留めていました。
サーベルタイガーと瓜二つの顔をした捕食者が、獣弓類にも存在していたのです。ゴルゴノプス類の大型種はまさに単弓類版のサーベルタイガーであり、上顎に生える大きな犬歯が殺傷能力の高さを物語っています。

ゴルゴノプス類の中でも高名な捕食動物が、約2億6000万〜約2億5400万年前(ペルム紀中期〜後期)の地上に生息していたイノストランケヴィア属(Inostrancevia)です。化石はヨーロッパやロシアから発見されていて、頭骨の長さは約45 cm、そして上顎から生える2本の牙の長さは約12 cmにもなりました。イノストランケヴィア・アレクサンドリ(Inostrancevia alexandri)に関しては完全に近い骨格が出土しており、全長4.5 mと推定されました。つまり、ライオンやトラよりも大きな肉食動物だったのです。

イノストランケヴィアの全身骨格模型(佐野市葛生化石館にて撮影)。大型個体では全長4.5 mあったと推定されており、当時の植物食動物にとっては恐ろしい相手だったことでしょう。
イノストランケヴィアの頭部(佐野市葛生化石館にて撮影)。サーベルタイガーを思わせる長大な2本の牙を用いて、大型動物を襲っていました。

イノストランケヴィアの牙は明らかに大きな獲物を倒すための適応であり、同時代の大型パイレアサウルス類(樽のような胴体をした初期の爬虫類)などの植物食動物を捕食していたと思われます。パイレアサウルス類は分厚い皮膚を備えていましたが、イノストランケヴィアの牙ならば多大なダメージを与えられたはずです。

頭骨を調べてみると、イノストランケヴィアの鼻孔(鼻の穴)は高い位置にあるのがわかります。この特徴は水面に顔を出して呼吸するワニなどの半水棲動物と同じであり、イノストランケヴィアは半水棲だったのではないかと説もあります。もしかすると、水陸問わず高いハンティング能力を発揮するスーパープレデターだったのかもしれません。

イノストランケヴィアの復元模型(佐野市葛生化石館にて撮影)。強さとかっこよさを兼ね備るペルム紀中期の名ハンターです。

エオティタノスクス 〜中型肉食恐竜にも匹敵するペルム紀の最強生物〜

所詮、どんなに大きくても単弓類は恐竜にはかなわないーーそう思っている方も多いのではないでしょうか。確かに、捕食能力の向上した肉食性獣弓類でも、よくて大きさは全長3〜4 m前後だったので、ティラノサウルスやギガノトサウルスといった全長10〜13 mもある大型肉食恐竜には到底及びません。
しかし、現在のところただ一種、ティラノ級とまではいかなくとも、ケラトサウルス(全長6 m)やディロフォサウルス(全長6〜7 m)クラスの中型肉食恐竜に匹敵する可能性を持つ獣弓類がいます。それこそ、約2億6700万年前(ペルム紀中期)に存在したエオティタノスクス・オルソニ(Eotitanosuchus olsoni)なのです。

ロシアのイシューボにて発見されたエオティタノスクスの頭骨化石はとても大きく、上顎の牙は外に飛び出している部分だけでも長さ20 cm、頭骨そのものの長さは1 mあったと報告されています。一般的なゴルゴノプス類の体型を基準にすると推定される全長は約6 m。もう少し尾の長い体型ならば、全長8 mに達したと考えられます。
生前のエオティタノスクスは、水辺で暮らす奇襲型のハンターだったと思われます。長い尻尾をくねらせて泳ぎながら獲物に近づき、ワニのごとく勢いよく水面から飛び出して襲いかかったことでしょう。
まさに単弓類最強のモンスターです。この恐るべき捕食者エオティタノスクスの復元図については、下記リンクをご覧ください。

全長6〜8 mもの巨体を誇るエオティタノスクスは、ペルム紀の湿地帯におけるトッププレデターだったと思われます。頭蓋骨だけで1 mもある怪物が水の中に潜んでいるかもしれないのですから、当時の動物たちは水を飲むのも命がけだったことでしょう。エオティタノスクスの体格は同時代のほとんどのディノケファルスやディキノドンを凌駕しているので、噛みついた獲物を圧倒的なパワーで水底に引きずり込んだと思われます。
ゴルゴノプス最強の種にして、ペルム紀の頂点捕食者。しかし、そんなエオティタノスクスの王朝も、長くは続きませんでした。なぜならば、地球史上最大規模と謳われる生物大量絶滅の危機が、すぐそこまで迫っていたからです。

陸海空の全生命に迫りくる大自然の猛威。
哺乳類への道をひた走る単弓類に、最大の試練が訪れます。

【前回の記事】

【参考文献】
實吉達郎(1990)『サーベルタイガーとマンモスはどっちが強かったか : 古代猛獣たちのサイエンス』PHP研究所
金子隆一(1996)『イラスト図解:謎と不思議の生物史』同文書院
金子隆一(1998)『哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先』朝日新聞社
Ivakhnenko, M. F.(1999)Biarmosuches from the Ocher Faunal Assemblage of Eastern Europe. Paleontological Journal. vol 33 no.3 pp. 289–296.
Karmer, C. F(2016)Systematics of the Rubidgeinae (Therapsida: Gorgonopsia). PeerJ. 2016; 4: e1608.
Bendel, E. M.(2018)Cranial anatomy of the gorgonopsian Cynariops robustus based on CT-reconstruction. PloS One. 2018 Nov 28;13(11):e0207367.

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