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The Lost Universe 巨大竜脚類恐竜③巨大ディプロドクス類

巨大竜脚類と肉食恐竜が戦うシーンを恐竜系の映画やゲームでご覧になった方は多いでしょう。劇中の竜脚類たちは、たくましい脚や長い尾を武器にして、肉食恐竜を撃退しています。
現実の竜脚類たちは、どのようにして肉食恐竜と戦っていたのでしょうか。陸上動物最強クラスのパワーを秘めた巨竜たちの戦闘力、科学的に考察していきたいと思います。


竜脚類は無敵だったのか?

長大な尾から繰り出される最強の一撃

歴代の恐竜映画では迫力を優先していることもあり、肉食恐竜と巨大竜脚類のバトルがよく描かれる傾向にあります。ですが、現実的に考えて、体重3 tの肉食恐竜アロサウルスが体重30 tの竜脚類ブラキオサウルスに真っ向から戦いを挑むのは、襲う側の方にかなりの危険が伴います。アロサウルスが果敢に組みつこうとしても、圧倒的なパワーでたちまち押し倒され、ブラキオサウルスの前足で踏みつぶされてしまうでしょう。
そして、竜脚類にはもう1つ恐るべき武器があります。それは彼らのアイデンティティである長大な尾! 特にディプロドクス類の竜脚類たちの尾は、すさまじい威力を秘める武器だったと考えられています。

ディプロドクス類の実物大模型(信州新町化石博物館にて撮影)。ご覧の通り、かなり尾が長く、強力な武器として機能したと考えられています。

ディプロドクス科は約1億7000万年前(ジュラ紀中期)に誕生した竜脚類の一族であり、ディプロドクス亜科とアパトサウルス亜科の2大グループを含んでいます。先に述べましたように、彼らはとても長い尾を備えています。普通の竜脚類と比較しても尾椎骨がとても多く、尻尾を構成する骨の数は約80個体にもなります。尾があまりにも長く、なおかつ首の骨もほっそりしているので、同じ全長の大型竜脚類と比較してスマートな印象を受けます。

ディプロドクス類の全身骨格(巨大恐竜展2024にて撮影)。他の竜脚類と比較して、胴体が細めな印象を受けます。

では、気になる尾の一撃の破壊力についてみていきましょう。ポルトガルの古生物学者はディプロドクス類の化石標本をもとに、実験用のモデルを作成し、尾の動きのシミュレーションを実施しました。その結果、彼らが尻尾を振る速度は時速100 kmに達したと算出されました。

後方から見たディプロドクス類の実物大模型(信州新町化石博物館にて撮影)。彼らが腰を振れば長大な尾はしなって、強烈な打撃を繰り出すことができました。

これはすさまじいパワー兵器と呼べるのではないでしょうか。太い骨と筋肉で構成された巨大なムチが、時速100 kmのスピードで向かってくるのです! 直撃すればケガどころでは済みません。
巨大な竜脚類がズシンズシンと足を踏み鳴らし、最強の尻尾をブンブン振り回して威嚇してくれば、どんな肉食動物でも逃げ出してしまうでしょう。陸上生物の常識を超えた竜脚類たちに、肉食恐竜は手も足も出なかったのでしょうか。

負けるな肉食恐竜! 巨大竜脚類を倒せ!!

どれだけ強い肉食恐竜にとっても、竜脚類は手強すぎる相手。ですが、捕食者たちは決して引き下がってばかりではなかったと思われます。
体重50 t以上にもなる竜脚類は最大の陸上動物。もし倒すことができれば、肉食恐竜たちのお腹は何日も満たされます。また、幼体にも食糧を与えられるので、竜脚類を倒すメリットはかなり大きいのです。

アパトサウルスの全身骨格(国立科学博物館にて撮影)。竜脚類はとても大きな獲物なので、もし成体を倒すことができたのならば、肉食恐竜たちは群れ全体を養えます。

それでは、肉食恐竜たちの対竜脚類戦術について考察していきます。陸上動物で最強クラスのパワーを有する竜脚類には、真正面から飛びかかって組みついても無駄です。また、どれだけ素晴らしい戦術があったとしても、1対1でブラキオサウルスやディプロドクスに対抗するのは至難の技だと思われます。
そこで有効になるのが「集団によるヒットアンドアウェイ戦法」です。言うなれば、「噛み砕く」のではなく「噛みつきながら切り裂く」攻撃によって、じわじわと出血させて弱らせらるのです。この戦術を得意としていたのは、カルカロドントサウルス類と呼ばれるグループの大型肉食恐竜です。

カルカロドントサウルス類の肉食恐竜ギガノトサウルス(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。ティラノサウルスに匹敵する巨体を誇り、群れを成せば竜脚類に対抗できたかもしれません。

彼らの顎はティラノサウルス類に比べてシャープであり、歯牙もティラノより薄くなっていました。顎の咬合力ではティラノサウルス類に劣るものの、カルカロドントサウルス類の歯は切りつけることに適しており、さしずめ辻斬りスタイルの戦法だったと考えられます。
つまり、群れで1頭の竜脚類を取り囲み、四方から噛みついて歯牙で肉を切り裂いては離れ、また噛みついて切り裂いては離れーーこのようなヒットアンドアウェイの繰り返しだったと思われます。パワーでは竜脚類の方が圧倒的に上なので、迂闊にゼロ距離の接近戦を挑むよりずっと安全だったと考えられます。本戦術と群れの力が合わされば、大きな獲物でも十分倒せたはずです。

カルカロドントサウルス類の肉食恐竜ティラノティタンの頭骨(巨大恐竜展2024にて撮影)。大きなブレード型の歯で「斬りつける」戦法を得意としていました。

ただし、ここで言う「大きな獲物」とは「年老いた竜脚類」「ケガや病気で弱った竜脚類」です。弱そうな相手から襲うのが自然界の狩りの基本であり、映画やアニメのように肉食恐竜が元気な大型植物食恐竜に真っ向から挑んで大格闘することは少なかったと思われます。さすがに体重50 t以上の健康な巨大竜脚類が本気で大暴れしたらどうにもならないので、カルカロドントサウルス類は攻撃対象を慎重に選別したことでしょう。
前述のディプロドクス類と戦う際も、肉食恐竜たちは心して向かっていったと思われます。必殺の尻尾攻撃を受ければ、最悪の場合1発KOとなってしまいます。それほど強力で雄大なディプロドクス類には、どのような種類がいたのでしょうか。

巨大ディプロドクス類

ディプロドクス ~とにかく長い! 全長30 m以上の超長大恐竜~

恐竜にお詳しい方ならば、ディプロドクスの名をよくご存じだと思います。前述の通り、全長の約半分を占める長い尾を備えており、最大級の個体ではシロナガスクジラよりも長くなった可能性があります。
本属の中で最も大きな種はディプロドクス・ハロルム(Diplodocus hallorum)。かつて「セイスモサウルス」と呼ばれていた大型竜脚類です。約1億5400万~約1億5200万年前(ジュラ紀後期)の北アメリカの大地を、群れで力強く闊歩していたと考えられています。

ディプロドクスの実物大模型(信州新町化石博物館にて撮影)。後方の建物にも負けないくらい長く大きく、竜脚類の圧倒的なサイズがわかります。

成体の全長は優に30 mを超えており、一目では見渡せないほど長大です。がっしりしたブラキオサウルス類と比較すれば細身で軽く、成体のディプロドクスの体重は20~25 tほどであったと思われます。とはいえ、体重25 tと言えばアフリカゾウ5頭分の巨体であり、迫力とパワーは一級品です。アロサウルスやトルヴォサウルスといった大型肉食恐竜でも、1対1ではまったく相手にならなかったでしょう。
ディプロドクスは頭骨も軽く、顎には櫛状の歯を備えていました。ブラキオサウルス類と比べて低姿勢ですが、これほどの大きさですので、他の動物よりずっと高い位置の樹木の葉を食べることができました。ゆえに、下層植生を食べるステゴサウルスなどの植物食恐竜との資源の奪い合いは起こらなかったかもしれません。

ディプロドクスの頭骨(巨大恐竜展2024にて撮影)。ウマのように細長く、歯は櫛状となっています。

ジュラ紀に大型竜脚類の繁栄はピークに達し、雄大なるディプロドクスは、まさに巨大恐竜全盛期の象徴でした。しかしながら、恐竜の無限なる大きさには底が知れません。
同じ時代には、ディプロドクスさえ凌ぐ超巨大恐竜が生きていたのです

写真中央に佇む巨大恐竜ディプロドクス(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。他の恐竜たちと並んでも、ディプロドクスの存在感は圧倒的です。

スーパーサウルス ~ディプロドクスを超えるスーパー級の巨大竜?~ 

ディプロドクスが巨体を見せつけて大繁栄していた頃、同じ時代の同じ地域には、さらに大きな「スーパー級」の超巨大恐竜が存在していました。その名はスーパーサウルス・ヴィヴィアナエ(Supersaurus vivianae)。約1億5400万~約1億5200万年前(ジュラ紀後期)の北アメリカにおいて、文句なしに最大最強クラスの陸上動物でした。

昭和から平成初頭にお生まれになった方の中には、スーパーサウルスと聞いてブラキオサウルス類をイメージされる人もいらっしゃるかもしれません。というのも、発見当時はスーパーサウルスの骨格は部分的にしか知られておらず、なおかつ椎骨が巨大でがっしりしていたので、マッシヴなブラキオサウルス類の一種だと考えられていました。その後、解剖学的な研究が進展し、他の恐竜(ウルトラサウルスとディスティロサウルス)だと考えられていた化石が実はスーパーサウルスのものだと判明し、本種がディプロドクス類であると明らかになりました。

スーパーサウルスの大腿骨(いわき市石炭・化石館ほるるにて撮影)。発見当初、彼らはブラキオサウルス類だと思われていました。

スーパーサウルスの体型はアパトサウルスと似ており、ディプロドクスと比較して全体的に頑強なボディをしています。驚くべきことに、最大級の個体では全長40 mを超えていた可能性があります。もしかすると体重は50 tに迫っていたかもしれません。
もはや言うまでもないと思われますが、40 mのスーパーサウルスに戦いを挑む肉食動物はいなかったでしょう。間違いなく、スーパーサウルスはジュラ紀の北アメリカで最強の陸上動物でした。

スーパーサウルスと体型が似ているアパトサウルス(国立科学博物館にて撮影)。もしかするとスーパーサウルスは、この標本の約2倍の大きさがあったかもしれません!

スーパーサウルス級の大型竜脚類を倒すことはどんな動物にも不可能に近い難題だと思われますが、病気やケガで死ぬ個体は少なくなかったでしょう。体重が30 tも50 tもある竜脚類の死骸は、多くの動物にとって重要な栄養分となります。彼らの死肉は肉食恐竜のみならず、翼竜やワニ、その他の生き物に恵みをもたらしたと思われます。
自然界において、無駄な死はありません。海底で死んだクジラの肉に膨大な肉食生物が集まるのと同じように、超巨大恐竜の死は他の生命に大いなる糧をもたらしたと考えられます。死と誕生を繰り返し、生態系の中で命は循環するのです。

スーパーサウルスの全長は生物史上最大クラス。ですが、「完全な全身骨格が復元されている竜脚類」となれば、ディプロドクスとは別の種類が名乗りをあげてきます。
白亜紀になっても生存し続ける超巨大竜脚類。史上最も重い陸上動物であるティタノサウルス形類の登場です。

【前回の記事】

【参考文献】
Wilson, J. A.(2005)Overview of Sauropod Phylogeny and Evolution. In Rogers KA, Wilson, J. A. (eds.). The Sauropods:Evolution and Paleobiology. Indiana University Press. pp. 15–49.
Owen, J.(2006)Meat-Eating Dinosaur Was Bigger Than T. Rex. nationalgeographic.com. National Geographic News. Archived from the original on September 30, 2016. Retrieved August 27, 2016.
株式会社小学館(2016)『小学館の図鑑NEO 新版 恐竜』小学館
Conti, S. et al.(2022)Multibody analysis and soft tissue strength refute supersonic dinosaur tail. Scientific Reports volume 12, Article number: 19245
Woodruff, D. C. et al.(2024)Seis-ing up the Super-Morrison formation sauropods. Journal of Anatomy.

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