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十月は黄昏の銀河帝国 ⑧
8.アサト出陣
メタトルーパーは飛ぶように跳躍しながら、カグヤ宮へと向かった。
ネープはバイザー上に表示された各情報を確認し、シールド発生装置の二機が、敵に破壊されたことを確認した。だが、この破壊ペースでは宇宙から宮への直撃が可能となる前に、空里の脱出を許してしまうだろう。
敵もそれは承知しているはずだ。だとしたら、その目的は後続する陸戦隊の降下を少しでも宮に近付けることだ。
案の定、カグヤ宮の長距離レーダーが送ってくる情報に、四つの光点が現れた。
ガウラ級兵員輸送シャトルが三。
この小規模の部隊で攻めて来る自信からは、全員がバンシャザムと見て間違いない。だが、ネープはその後ろを飛ぶ一つの光点に眉をひそめた。
帝国貴賓シャトル、通称ブラック・バード……
これを使うのは、公家の人間のみ。ラ家から何者かが?
よもや……
ネープは完全人間らしくない不吉な予感に、足を早めると同時に回線を開いた。
「ミツナリ、対空砲火の準備だ。接近中のシャトル四機を牽制、出来れば撃墜しろ。それからアサトが到着したら三番ハンガーへ通して待機してもらえ」
ミツナリも空里も、その意図は察するだろう。
出来れば避けたい事態だが、空里自身にも戦ってもらう必要があるかもしれないのだ……
「司令、シールドの解除が遅れているようですねぇ」
ナ・バータ準司令は装甲宇宙服に身を包みながら、予想された指摘の通信に表情を険しくした。
「確認しています。作戦を変更し、一号機と三号機の兵員は宙挺装備で降下、座礁艦の直上から突撃を敢行します。二号機を護衛に残しますので、そちらはシールド外縁から低空侵入を試みてください」
「わあ……」
イヤピースから少女の感嘆する声が聞こえた。
「さすがは勇猛をもって鳴るバンシャザム。では、そちらのシャトルをブラック・バードの完断絶シールドに入れてください。こちらの方が安全です。ギリギリまで降下して、座礁艦の真上で後方シールドを十秒だけ解除します。恐らく対空砲火のお出迎えは熾烈なものになりますからね」
「恐縮です……」
言いながらナ・バータは屈辱感を覚えていた。
貴賓船であるブラック・バードの強力な完断絶シールドなら、確かにかなりの対空砲火に耐えるだろう。だが、自分たちがそれに守られることになるとは思っていなかった。であっても、いったんシールドの外に出れば対空砲火でかなりの兵力を削がれることは覚悟しなければなるまい。
そもそも、スピードが肝である今次作戦に遅れが生じている状況があり得べからざる事態なのだ。
戦闘通信では、ゲイレンがネープの陽動にかかったようだったが……やはりネープとの戦いはバンシャザムにとって鬼門ということなのか……
ナ・バータは迷いを振り切るように反発場リフトを装備した部下たちへ命令した。
「総員、降下準備!」
「総員、迎撃体制に入れ!」
月面車から飛び降りたシェンガが叫んだ。
カグヤ宮の入り口……座礁艦の前部ドッキングベイはハッチを解放し、ソルジャーたちが大小の武器を運び出しているところだった。
「対空砲火準備! 艦のエネルギーを全て火器管制システムに回せ!」
カグヤ宮となっている座礁艦の武装は生きていたが、シールド系のシステムは破損したままで、艦自体を守ることが出来なかった。頼みは対空砲火と上空の感力場シールドだけなのだ。
空里も車を乗り捨てて、待っていたサブ・チーフ・ゴンドロウワに声をかけた。
「ミツナリ、ネープから連絡は?」
「ありました。陛下に三番ハンガーで待機いただくようにとのことです」
三番ハンガー……ということは……
シェンガも察したが、その指示の意外さに目を丸くした。
「あれか? アサトにあれを使えと言ってるのか?」
それは、空里にも戦えと言っているに等しい指示だった。
空里は恐れを感じる一方、その言外の意図に思いを致した。
それは皇帝を護る完全人間としてではなく、もっと近い伴侶としての言葉だと思えた。
彼は言っているのだ。
「あなたなら出来ます」と……
「了解。私は三番ハンガーで待機します」
低重力下でスキップするように宮の奥へ進む空里に、シェンガも付いてきた。
「一緒に行くぜ。古参兵の助言がいるだろ」
同じようにスキップするシェンガは、なんだか四つん這いの方が楽なように見える。
空里は小さな古参兵に言った。
「頼りにしてる。よろしくね、近衛隊長!」
対空砲火が始まった。
急速に接近してきた四機のシャトルに、カグヤ宮の赤色熱弾砲とパルスビームキャノンが火を噴く。
だが敵機は薄紫色の光のバルーン……ブラック・バードの強力な完断絶シールドにすっぽり包まれており、傷一つつけることが出来ない。
ついにカグヤ宮の真上に到達した二機の後方から、個人用反発場リフト付きの装甲宇宙服に身を包んだバンシャザム兵たちが降下を開始した。
全ての兵士を吐き出したシャトル隊は、加速してシールド外縁部に向かった。
カグヤ宮の銃砲座は小さな目標に照準を定め切れず、地上に展開していたソルジャーたちの狙撃による迎撃となった。目標が速度を落として感力場シールドを潜る瞬間がチャンスだったが、かなりの数の兵士がその修羅場を切り抜けて座礁艦の甲板に取り付いた。
ほとんどの守備隊が地上にいたため、着艦した敵を迎え撃ちに出られたソルジャーは多くなかった。それでも、パルスマシンガンの銃撃をものともしないゴンドロウワたちは、その強力な四肢だけで果敢に降下部隊に立ち向かった。
地上は地上で、そちらにも降下したバンシャザムとの間で壮絶な白兵戦が始まっていた。
「連続射光線砲準備急げ!」
地上降下分隊を率いていたナ・バータ準司令が、後方の重火器班に命じた。
高出力エネルギーセルを備え、ビームを長時間連続照射できる連続射光線砲なら、ゴンドロウワの体も宇宙艦のハッチも灼き切ることが出来る。
守備隊の攻撃を牽制しながら三基の連続射光線砲が組み上がったことを確認したナ・バータは、二基に地上のゴンドロウワ殲滅を命じた。
「一基は俺に続け! 甲板上の攻撃隊を支援する!」
パルスガンを撃ちまくりながら浮上したナ・バータの後を、自走支持脚に載った大型火器を三人で担う重火器班が追った。
巨大な艦体の上では、バンシャザム兵たちがわずかな数の巨人の軍団に押され、甲板の際まで追い込まれようとしていた。
ナ・バータは手近のゴンドロウワ一体を指差し、重火器班の射手に命じた。
「撃て!」
白い閃光が走り、金属製の首がごとりと落ちた。
さらに胴も輪切りにして、完全に抵抗力を奪う。二体、三体と討ち取られる敵の姿に勢いづいたバンシャザムたちは、前進して艦内への侵入口を探し始めた。
ナ・バータと重火器班も連続射光線砲でゴンドロウワたちを薙ぎ払いながら、サブブリッジを支えるタワーに向かって進撃した。
と、突然……
行手の甲板ハッチが開き、中から黒々とした巨大な影がリフトに載って現れた。
いびつな人形のそれは、ゴンドロウワに数倍する大きさを持ち、各関節から長いトゲが飛び出している。首の部分で薄紫に光る完断絶シールドの球体は、その主をいかなる攻撃からも敢然と守っていた。
「玉座機だ!」
巨大な機械生物は、手にした長い金属棒状の資材で侵入者たちを甲板から叩き落とし出した。
「どきなさい!」
玉座機スロンの上で、空里が叫んだ。
つづく