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【長編SF小説】銀河皇帝のいない八月

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宇宙を支配する銀河帝国が地球に襲来。 軍団を率いる銀河皇帝は堅固なシールドに守られていたが、何故か弓道部員の女子高生、遠藤アサトが放った一本の矢により射殺されてしまう。 しかも〈…
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2021年8月の記事一覧

銀河皇帝のいない八月 ①

銀河皇帝のいない八月 ①

プロローグ

 木星軌道に星百合が咲いた。

 巨大な百合の花の形をした、無機鉱物のような物質からなる何か……
 しかしそれは生きている。
 生物なのだ。
 星百合はあるとき忽然と宇宙のどこかに咲き現れ、星々の間に道をつくる。
 ほどなく、その道のゲートとなる空間の歪みが、衛星カリストのすぐそばで発生した。そこから小さな光が飛び出し、亜光速で木星圏を脱すると太陽の方へと進路を取った。

 数時間後

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銀河皇帝のいない八月 ②

銀河皇帝のいない八月 ②

4. 完全人間

「おい、ネープ……」

 足を引きずりながら戻ってきた人猫が言った。
「!」
 人猫の言葉がわかる! その声はやや甲高いが、大人びた男性の物言いだった。
「お前も見てたろ? 皇帝は死んじまったぜ。あるじがいなくなっちまったら、お前もお役御免だろ。とっとと引き揚げろよ」
 ネープと呼ばれた少年は人猫に向き直った。
「そうはいかない。お前たちが奪った種子を取り戻すのも、自分の使命だ」

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銀河皇帝のいない八月 ③

銀河皇帝のいない八月 ③

6. ネープの戦い

「乗って!」

 ネープが叫んだ。
 見ると、少年はすでにキャリベックと再び合体していた。
 腰に繋がった機械の馬を叩き、空里に乗れとうながす。空里はキャリベックに駆け寄ると、一瞬またがるか横すわりするか迷ってから、足を上げてまたがった。安全第一だ……
「待って、シェンガも……」
 空里は、迫る飛行物体を睨め付けて立ち尽くすミン・ガン戦士を指さした。ネープが首を振ると、キャリ

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