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登場人物について考えています
物語を読む大きな喜びのひとつに、登場人物を愛する、ということがありますよね。
私が例外なく愛してしまう登場人物の特徴として、イノセンスの中に生きている人、という特徴が挙げられます。
ここで言うイノセンスというのは、純潔とか穢れのなさではなくて、純真である、ということです。まことの自分である人たち。
「進撃の巨人」に出てくる「無垢の巨人」も、ここで言うイノセンスにはあたりませんよ。あれは、無知というか、考えることができない人たち、ですからね。
ここに、イノセンスのつまった本があります。カポーティの「ティファニーで朝食を」(村上春樹/訳)。この本には4篇の物語が入っているんですが、その主人公がみんなイノセントです。
「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリー(映画でオードリー・ヘップバーンが演じました)は有名ですが、私が一番好きなのは「クリスマスの思い出」という短編の語り手バディーの親友の女性です。
バディーは7歳、女性は60歳を越しているんですが、ふたりはいとこ同士。ひとつ屋根の下に、他の親戚とともに暮らしています。
11月のある朝がやってくると、彼女は高らかに宣言します。
「フルーツケーキの季節が来たよ!」
そして、その日から、ふたりの胸おどるクリスマスの準備が始まります。まずはフルーツケーキの材料を買わなければいけません。ふたりは、クリスマスのためにこれまでお金を貯めてきました。野いちごを摘んで売ったり、お葬式や結婚式のために花を摘んだり、あらゆる懸賞に応募したり、「あっと驚くお楽しみ博物館」を開いたり。
出来上がったフルーツケーキは、31人の友人たちに贈られます。友人と言っても、仲の良い友人というわけではなく、一度も会ったことがない人、例えばローズヴェルト大統領なんかも含まれています。
最後のフルーツケーキを郵便局まで運んでいくと、ケーキに使って瓶に5センチほど残ったウィスキーでお祝いをします。ふたりが歌ったり踊ったり笑ったりして騒いでいると、かんかんに怒った親戚が部屋に入ってきます。
「7つの子どもにお酒を飲ませるなんて正気の沙汰じゃないね! 恥を知るんだ!」
怒られて、彼女は自分のベッドに逃げ込んで泣きます。でも、バディーに
「いつまでもめそめそ泣いていたら、疲れて明日ツリーを切りに行けなくなっちゃうよ」
と言われて、さっと身を起こす。そしてこう言うんです。
「私は知っているんだよ、バディー。どこに行けばいちばん美しいモミノキがみつかるかをね。ヒイラギもだよ。お前の目玉くらい大きな実がついているやつ。森のずっと奥の方にあるんだ。私たちがこれまで入ったこともないくらい奥の方だよ。パパはそこからクリスマス・ツリーを切ってきたものさ。肩にかついでね。かれこれ50年も前のことだけれどね。ああ、朝が来るのが待ち遠しい」
村上春樹/訳 P.201
ああ、素敵な人ですね。
クリスマス・ツリーを切りに行くシーン以降も、ふたりの心温まるエピソード満載なので、クリスマス前のこの季節、ぜひ読んでみてくださいね。
イノセントな人たちは、社会に迎合しないから、ときにとても辛い思いをします。でも、その行き方が、私は本当に美しいと思います。人は我が道を行くべきだと思う。自分が自分であれる道を。だから、イノセンスの中で生きる登場人物たちを、私はいつもキラキラした目で追い、応援しているのです。
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