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「極悪女王」ダンプ松本の大切なもの

 特に女子プロレスファンでもなかった僕ですら、クラッシュギャルズダンプ松本率いる「極悪同盟」のことは良く知っていた。多分その頃にいわゆる「ベビーフェイス=善玉」「ヒール=悪役」という言葉を知ったように思われる。そんな「極悪同盟」のリーダー・ダンプ松本の物語・『極悪女王』がネットフリックスで配信されている。
 後に、ダンプ松本の本名が松本香という可愛い名前だとバラエティでイジられていたが、彼女の過去は全然知らなかった。

女子プロレスラー・ダンプ松本が仲間たちとの友情と戦い、さまざまな代償や葛藤を抱えながらカリスマ的人気で1980年代に女子プロレス旋風を巻き起こし、日本史上最も有名なヒールに成り上がっていくさまを描いた作品。

wikipedia

 辛い幼少期を過ごした松本香(ユリアンれとりぃばあ)には、酒を飲み,
DVが絶えず、帰ってこない父がいた。あるとき父の別宅を尋ねると、父は赤ん坊を抱えた女と暮らしていることが発覚。思わずその場から逃げた香が行きついたのは女子プロの興行会場だった。そしてそこで若き日のジャッキー佐藤の練習風景に一目惚れをする。
 時が過ぎ、ジャッキー佐藤とマキ上田のビューティペアの大ファンになった香は、気が付けば女子プロレスラーになりたいと思い、オーディションお受け見事合格する。その時に一緒にいたのが後の長与千種(唐田えりか)、ライオネル飛鳥(剛力彩芽)である。

 周りがプロテストに合格しデビューしていく中、体はでかいが不器用で気の弱い香は長与と共になかなかプロになれないでいた。新人寮にいた香と長与はお互いの不器用さと不遇な過去を感じ合い親友となった。
 やがて下手なりにプロデビューをするも上手く行かず、香は芽が出ないと思われていた。逆に長与はそれまでのプロレスの鉄則を破ったことで、スターの道を駆け上がっていった。
 唯一の道とも思われた「ヒール」でデビル雅美の「デビル軍団」に参加するも血が怖く、人を傷つけることができない香はデビル軍団でも上手く立ち回ることができなかった。

 長与千種がライオネル飛鳥と「クラッシュギャルズ」を結成し、ベビーフェイスの大スターになっていく中、「自分は長与千種の親友」という肩書きでかろうじて自分を支えていた。しかしある雑誌に、長与は「これまでずっと一人でやってきて初めてできた仲間がライオネル飛鳥だ」と言っている記事を読む。これまで一緒に悩んだり苦しんだり励まし合った日々が覆され、香の中で何かが変わった。同時期に偶然家に帰っていた父を責め立てたとき、母に「出て行ってくれ」と言われ後戻りはできなくなっていった。

 「クラッシュギャルズvsデビル軍団」の試合に香は金髪メイクで乱入し、誰かれ構わずチェーンで首を絞め、フォークで頭を刺し、パイプ椅子で殴りつけた。その場でデビル軍団から破門され、同期の本庄ゆかり(えびちゃん)と極悪同盟を結成する。

 「ヒール」でありながら「ベビーフェイス」の踏み台にはならず、ヒールとして圧倒的な人気を誇ったダンプ松本。その最後の試合は「ダンプ松本・長与千種vs影かほる(戸部沙也花)・ライオネル飛鳥」の反則技が一切ないクリーンな試合をした。そしてそこには腹違いの妹の香が・・・。

 ダンプ松本の半生記。彼女は「ヒール」としてスターを叩きのめす役柄を公私ともに演じなくてはならず、日本中のプロレスファンを敵に回すことを演じ続けた。元々はビューティペアのような、クラッシュギャルズのようなベビーフェイスに憧れていた、気が弱く、優しい普通の(ちょっとデカイ)女の子だ。そうまでして彼女が得たかったものはなんだったのか。そして何を得たのか。そう考えるとなかなか切ないお話ではある。

 恐らくもともとの極悪人がプロレスラーになることはないだろう。ダンプ松本にはヒールになるしか道がなかったのかもしれない。このお話の一番の転機は、長与千種が自分から離れていくこと、家族が自分から離れていくことにある。そのあたりのゆりあんの芝居が何とも言えない。泣くでもなく、怒るでもなく、淡々とその現実を受け止めて、本物のヒールに変貌する姿は一見の価値があるように思う。

 どんな人間にも青春があり、正義があり、生きる意味があると、物語の根底にはあるようにも感じる。それは表面的な美しさではなく、感動だけでもなく、爆発力のような表現。この物語はそういう意味で「人間賛歌」なのだと思う。企画・脚本が鈴木おさむなので、そういうことだろう。

 物語からは外れるが、ダンプ松本がそうまでして築き上げた女子プロレスの実績は、今もなお、手放しに「素晴らしい」とは言われていない。また今のダンプさんは穏やかではあるが、成功者にしては、これまでの傷ついたものが大きすぎるような気もしている。お金の面では分からないが、人生として本当に幸せなのかどうかは見えてこない。

 ただ、真実なのは引退試合で長与千種と過ごした青春時代は確かにあったし、その関係は今もなお続いているということ。人の幸せっていうものは、そんなことでも十分だし、それだけあれば十分なのかもしれない。そんな風に思うのでありました。

 「極悪女王」の配信記念イベントでゆりあんがダンプさんに感謝の辞を述べています。結構泣けました。

 余談ですが、唐田えりかが準主役で(剛力彩芽より上の役で)出ていることに、妙なキャスティングの公平性のような制作側の思惑を感じないでもない。実際に彼女の芝居はとてもよかったし、東出ナニガシの記事で登場していなければもっと活躍する女優だったに違いない。
 でも、これを機に躍進してくれたらいいなと応援したくなった。杏さんとの共演はないのでしょうけれど。


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佐藤雀@雀組ホエールズ
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