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『笑う奴ほどよく眠る。吉本興業社長、大崎洋物語』(常松裕明)を読んで。

 2006年吉本興行社長に就任した大崎洋。お笑い事業に尽くした彼の人生を振り返る。本書の感想を書きます。

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 この本の出版が2013年。ちょうど2011年8月23日に、「島田紳助氏の緊急引退記者会見」が行われた直後に書かれた本となり、内容はそれにまつわる内容で締めくくられています。

 大崎氏は1953年生まれ大阪府堺市出身。「ダウンタウンのマネージャー」をやっていたことが有名だと思います。

 自分はダウンタウンの「ごっつええ感じ」「HEY!HEY!HEY!」「ガキの使いやあらへんで」を見て青春時代を過ごしてきたので、その時代への思い入れが強く、本書は真ん中から後半にかけて面白くなっていきました。

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 本書を読んで素直に思う感想は、「日本社会はおじさんの面子社会」ということです。サラリーマンの苦悩が濃縮した内容になります。

 お笑いとか関係なく、会社に無い事業を、会社のためと思って新しく開拓する熱血行動マンがいて、試行錯誤の交渉を重ねてやっと実現できたのに、勝手にやるなと上司からは評価されず、挙句違う場所に飛ばされる。

 皆さんは上記のような経験がありますか? 社内ルールに不便を感じて、生産性向上効率化を提案・実行したにも関わらず、むしろ嫌がられるみたいな状況です。事の大小はあるとは思いますが。

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 具体的に大崎氏は、「芸者ガールズ」で坂本龍一氏との協調や、作曲では小室哲哉氏とのコラボ、松本人志「遺書」出版、映画の作成、DVD販売等、かつてない利益を吉本興業に、自身の行動力をもってもたらしました。

 ただそれでも順風満帆とはならない会社員人生。大阪でも東京でも上司からは疎まれる。アジア局に左遷されそうになったり、役員会では恫喝を受けたり、どう見ても貢献に合わない対応をされます。

 本書ではそんなに恨み節を語ってはいません。むしろ冷静に淡々と文章が続きます。大崎氏はどんな状況でも「辛抱強く」自信の主張を続けます。いわゆる反社の人たちが自己の利益をねじ込んできても、ひたすら辛抱強く、それはできませんと説明し続けるだけです。

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 大崎氏も振り返って考えると、自分の勝手な行動を反省しています。責任ある立場の人間が、事後報告をされるのはやはり印象が悪い。こじれた関係は修復が難しい。こじれさせる意図はなくても結果が大事。

 ダウンタウンがフジテレビとの関係がこじれ、「ごっつええ感じ」が突発的に終了したのも、「話を聞いてない」とか「評価されていない」の積み重ねで、最終的には不信感の爆発だと書いてあります。

 日本の生産性の悪さには、無駄な会議とか、有能な若者でさえ年功序列だとか、複雑な指示系統とか、おじさんの面子とか、色々諸説はありますが、人間関係に関するコスト、を多く払っている代償だと思います。

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 日本では多様性が少なく、皆平等であったため、自分の存在を認めて欲しいと思いがちです。圧倒的な身分の差が無いから。大事にされて育ってきたから自己肯定感、プライドが高い。

 それが良い方向に作用することもあれば、逆に「めんどくさい」人間が量産される可能性もあります。「俺は聞いてない」を回避するための、大人数の会議を行い、結果コスパが悪いです。

 話は逸れましたが、自分が本書を選んだのは、大崎氏の器の大きさを多方面で聞いたからです。某ジャニーズやフジテレビも昨今求心力を失っているように見えますが、人はついていく人を選らぶ、という現れだと思います。


【読書感想文40冊目】

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