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第12回六枚道場感想
グループA
「青い燈台」田中目八さん
「かまきりや私の肉のなかにゐる」は生々しくて好きです。「かはごろも脱ぎてダンスは土の上」というのも面白かったです。ダンスは海じゃなくて陸でするんだなと思いました。
「地上にはゐない魚なり冬みかづき」と「あざらしのうたふや水に字は要らず」というのもなんだか良かったです。
全体として海と陸のダイナミックさを感じました。
「部屋」相垣さん
「自由からいっとう遠いえりゅしおん繭のなかみは順番に啼く」は一首の中に壮大な世界を感じられました。英雄が住むはずの「えりゅしおん」が自由から遠いというのも良いし、「繭のなかみが順番に啼く」は物語がはじまりそうな気配がします。
他の歌からも作者さんの確固とした世界観を感じました。
「死んでる場合か」短歌よむ千住さん
「死にたいと叫ぶ両手にアオリイカ」という一句目がまず良かったです。声に出して読みたくなります。「睡眠薬寝酒睡眠薬お酒」というのもストレートかつインパクトがあって好きです。「瓶割れて海鼠腸ずるり中央線」という一句も「ずるり」という響きが良かったです。後半は「凍」からはじまる句が並んでいて迫力がありました。
作品全体に、焦燥感とユーモアが混じっている雰囲気が楽しかったです。この作品に投票しました。
「読みかけのディケンズ」夏川大空さん
夏川さんらしいすごい発想の作品だなと思いました。これがこれからの時代の文学なのかもしれません。いろいろ遊べて楽しかったです。
毎回夏川さんの作品を楽しみにしていました。これからも夏川さんの作品を密かに楽しみにしています。
グループB
「黒い靴のままで」Yoh クモハさん
「喪中なんだ」の繰り返しにリズム感があって良かったです。
喪中なんだ
海辺で腐っていたアザラシの
離さなければならなかったあの手
というが特に好きでした。
朗読されると良さが増す作品だと思うので、ハギワラさんの実況が楽しみです。
「読みかけのディケンズ」草野理恵子さん
「読みかけのディケンズ」というタイトルに真正面から挑みながらも、草野さんらしい世界観が展開されていて、すごく良かったです。特に「青いネクタイ」が好きでした。
今作だけでなく、草野さんは多作なのに全ての作品のクオリティーが高く、草野さんらしさがたしかにありながらもマンネリにはならず、とにかくすごいなといつも思っていました。これからもTwitterなどで投稿される詩を楽しみにしています。
この作品に投票しました。
グループC
「マグロ大王殺し」笹谷爽さん
最後まで勢いを保ったまま書ききったのがすごいなと思いました。なんだか感動しました。登場人物もみんなキャラがはっきりしていて、面白かったです。
「三者三葉サンシャインシティ」というのが一番好きなダジャレ(?)でした。「三者三様」ではないから、マンガの方ですね。
僕には絶対に書けない作品だと思い、この作品に投票しました。
「劫火の終わりに摂氏世界を孵化させる、再生と順接の神、環化su蛾花」ハギワラシンジさん
抽選前に、カッコいいタイトルだけでこれはハギワラさんの作品だなと分かりました。僕はタイトルをつけるのが下手なので、タイトルを考えるのコツを教えてほしいです。
幻想的でスタイリッシュな世界観の作品の中に、乾燥した唇を舐める場面のような現世的(?)で生々しい描写もあるのが個人的には好きです。ハギワラさんの作品の中では今作は物語としてわかりやすく、理解しやすかったです。隙なく感覚的な美しさを重視して作り上げられた世界も、それはそれで好きですが、このくらいの方が世界観に入り込みやすいとは思います。ハギワラさんは意図的にそう書いたのでしょうか。気になりました。
もちろん理解していない部分もありますが、理解できなくてもカッコよさは感じました。「園原はそれを解釈しようと首をかしげたり、指でなぞったりしたが、やがて、時間の無駄よとため息を吐いてあきらめた」という一文が示すように、橋があるなら渡ればよくて、全部を理解しようとするなんて野暮ですよね。この文章ってそういう意味じゃないのかもしれないけど……。
リップクリームの話の後の、「君に単位はないよ」という一文が特に良かったです。一瞬だけ教授に単位を落としたと宣告された状況が思い浮かんだけど、そうじゃないですよね。
今だから言えるけれど、はじめに六枚道場でハギワラの作品を見た時はよくわからないというのが正直な感想でした。でも、回を重ねるごとに良さがわかってきて、今回は心の底からかっこいいなと思えました。自分の普段読まないような作品に触れられ、視野が広げられるのも六枚道場のいいところだったなと改めて思います。特に、僕が六枚道場を知るしっかけはハギワラさんのブンゲイ実況だったので、感謝の気持ちでいっぱいです。
「読みかけのディケンズ」吉美駿一郎さん
美しい話で感動しました。「ディケンズが読みかけだったように、まだ続きがあったのかもしれない。終わったのではなく、栞を挟んでいただけなのかもしれない」という二文が特に良かったです。
小説内で夢を使うのは下手をすると作品が陳腐になってしまうけれど、自然でとても効果的でした。やっぱりすごい。
吉美さんの作品からは毎回いろいろなことを勉強させていただいたなと改めて思いました。
グループD
「睡魔」松尾模糊さん
作品全体で文章の完成度が高かく、特に悪魔が登場する場面までの緊張感が良かったです。観察が細かく行き届いているのが、個人的には好みで、中でも悪魔の描写は素晴らしかったです。読み終わった時に、いいタイトルだなと思いました。
この作品に投票しました。
「河」麦倉尚さん
麦倉さんらしく、文章が洗練されている作品だなと思いました。文章のリズムや句読点の位置、ちょっと対象と距離のある描写が、気持ちいいくらい僕の好みです。「ひまわり」同様、今回も主人公がアルファベット一文字で、カフカ的な雰囲気だったのも好みです。何気ない日常を描きながらも、非現実的な感覚がありました。
麦倉さんは六枚道場に参加した三回全て、作品が二、三枚だったのは偶然なのでしょうか。他のサイトだと長い小説も書いていらっしゃる(「トンネル」良かったです)ので、何か意図があるような気がします。気になります。
「読みかけのディケンズ」化野夕陽さん
化野さんらしく一番誠実にディケンズと向き合った作品だなと思いました。文章も安定していて、安心して読むことができました。六枚にしては色々な要素を詰め込んでいるのはたしかなのかもしれませんが、その分、作品世界の広がりを感じました。作品を小さくまとめがちな僕としては参考にしたいです。
グループE
「読みかけのディケンズ」苦草堅一さん
何度か思わず笑ってしまいました。家で読んでよかったです。ちなみに僕は割と最近までディケンズのことをディッケンズだと思い込んでいました。
こういう青春を送りたかったし、こういう小説が書けるようになりたいと思います。
最後のオチも決まってるし、「読みかけのディケンズ」というお題の活かし方が前半グループでは一番うまかったと個人的には思います。
「Each other」黒塚多聞さん
難しい作品だなと思いました。オシャレさや美しさと、不思議で独特な世界観が楽しかったです。
読み終わった後でこういう人生を送りたかったなとうらやましくなりました。僕の空洞も誰かに埋めてほしいなと悲しくなります。
「読みかけのディケンズ」こい瀬伊音さん
前作同様、すごい才能を感じました。特に言語感覚が天才的です。
「また緊急事態宣言が出て」からはじまる段落と「今と言えば今」からはじまる段落が、特にこい瀬さんのすごさが出ていた気がします。イメージが飛躍しているのに、リアリティーと臨場感がありました。実際にはかなり推敲されていると思いますが、書きなぐったようなスピードを文章から感じます。
「言葉をたくさん持っているくせに、私の輪郭は撫でるだけだ」という一文には感動しました。人生で一度は言いたいし、言われてみたいです。
この作品に投票しました。
少し気になったのは、『二都物語』の中に「と」「お」「い」「み」「や」「こ」が全て揃っているページが実際にあるのか、この作品の都合上そういうことにしたのかということです。
「アバウト・ア・ガール」かかり真魚さん
緊張感が合ってカッコよかったです。「巨大な絵画のような謀略の、ほんの端っこの絵の具の流線だけにしかユジンは関わらない」という描写は特に良かったです。長編小説バージョンも読みたくなりました。
グループF
「やうやうばなし」正井さん
出だしから最後まで完成度が高くとても上手かったです。直接は怪奇現象が起きているわけではないのに、不思議な不安感を与える語りに、作者さんの高い技術を感じました。怪談はいつか書いてみたいと思っているのですが、こういう書き方もあるんだと勉強になりました。
この作品に投票しました。
「プレイステーション東京」奈良原生織さん
タイトルがカッコいいです。そして、出だしの文章もカッコイイです。奈良原さんの世界に引き込まれました。新宿付近のカトリックの教会を調べるとカトリック聖アルフォンソ初台教会が出てきました。でも、写真に大聖堂感がないから違うのかな。そもそも教会が新宿周辺にあるのかどうかは定かじゃないですよね。
大学の新歓ってこんな雰囲気だったなあと、懐かしくなりました。「でもここで帰ったりすれば」からの文章は、主人公の想像の大げささが、新入生の不安感を出していて良かったです。僕自身には東京が特別怖いという感覚がないので、東京ってより新歓がサヴァンナなんじゃないかとは思いましたが、面白かったです。
書いていて気づいたのですが「サバンナ」ではなくて「サヴァンナ」なのも奈良原さんらしくていいなと思いました。
終わり方もカッコよかったです。
「ケツ穴☆浪漫譚」海棠咲さん
六枚道場の伝統であるケツの穴小説ですね。今までかわいらしい作品を書いていた海棠咲さんがこんな作品を書くなんて、とショックを受けました。でも、今思えば「Kの脱糞」のKとは海棠咲さんのことを予言していたのかもしれませんね。
信仰がケツの穴から生まれたというのはおもしろいなと同時に、なるほどと思います。最後の六枚道場にふさわしく、一番完成度の高い肛門文学だったと思います。
「読みかけのディケンズ」至乙矢さん
読みはじめは歴史小説なのかと思いましたが、どんどんと話が広がっていって、面白かったです。「読みかけのディケンズ」企画だけでなく、六枚道場の性質を上手く利用した作品だなと思いました。最後の六枚道場にピッタリで感動しました。
グループG
「麻雀騒郎記」閏現人さん
会話のみという、閏現人さんらしい野心的な作品で感動しました。実際の麻雀風景が鮮明に想像できて、楽しかったです。僕も久しぶりに麻雀がやりたくなりました。でも、こんなにしゃべりながら打てないな。
「騒郎」は「早漏」ともかけているのかな、と思いました。
「動物園」山口静花さん
丁寧に書かれている作品で、とても好きな雰囲気でした。
「車窓からはただトンネルの内側だけを、ただの色だけを見ることができた。黒と薄茶色の間のような色がぐんぐん通り過ぎていく」という描写は、何気ないようでありながら、非現実的な感覚もあって効果的だったと思います。日常と非日常をつなぐ役割をしていた気がします。そのおかげで「群青公園」や「みずいろ動物園」という少し空想的な地名も違和感なく作品に溶け込んでいた気がします。
フラミンゴの描写など、動物園内にもどこか非現実的な雰囲気がありましたが、その雰囲気が電話で壊れ、現実に引き戻される構成も巧みだったと思います。
全体的に色彩も豊かで、静かな中にも美しさのある世界観に感動しました。この作品に投票しました。
「秋月国小伝妙『終る前のメヌエット』」今村広樹さん
秋月国では東西に分かれた内戦もあったんですね。気になって過去の作品も調べましたが、その情報はありませんでした。「海外短編文学全集異世界篇より『受動的3秒間』」によると「ツルナゴーラ」とは戦争状態だったようですが。中国の歴史書のような雰囲気の中にディケンズがさらっと出てくるのが今村さんらしくて良かったです。
気になったのは、タイトルが小伝「抄」でなくて「妙」になっていることです。(前回の「秋月国小伝妙『最後で最初の1日』」もそうでした。)「小伝妙」で検索してみると、今村さんの「猫人小伝妙」という作品が出てきました。ネコで実在の歴史を再現する作品で、まだ連載中のようですが現時点で42話あるかなりの大作です。その中の「今山の戦い」への今村さんのコメントに「なんか妙な所もありますが、作者がそう言ってるから歴史物です」と書いてありました。なるほど「妙」な歴史だから「小伝妙」なんですね。
今村さんはずっと自分のスタイルを貫き通していたんだなということを、過去の作品を見返して改めて思いました。今村さんの作品を毎回楽しみにしていましたので、これで秋月国シリーズも最後だと思うとさみしく思います。
グループH
「残心」いみずさん
自分がクソザコ剣道部員だった中学時代のことを思い出しながら楽しみました。中学で県大会優勝ってめちゃくちゃすごいですよね。
防具や部室のいつも汗で湿ってにおっているイメージが、作品の雰囲気とマッチしていたと思います。とてもエロくて良かったです。「おまえな、手首の絞りが甘いんだよ」からはじまる二人の絡みとか特にいいです。
佐々木(君?)の魔性な雰囲気で押し通しても良かった気がするけど、「障がい」の話をもってきたのがいみずさんらしかったと思います。でも、理解しきれなかった部分もあるので、解説をしてもらえたらうれしいです。
この作品に投票しました。
「キロアラーム」土地神さん
「キロアラーム」というネーミングとアイデアだけで優勝ってカンジがしました。
備品室まで二十分かかるビルってすごいですね。小山田浩子さんの「工場」みたいなのを想像してしまいました。でも、大企業のビルだとそんな感じなのかな?
藤村課長は山下君の後ろを二十分ずっとついてきたわけですよね。すごい乙女だ。山下君は課長と幸せになるしかないですよね。
「懺悔/散華」乙野二郎さん
乙野さんは毎回いろいろな作風にチャレンジされていて、すごいなと思います。教養を感じます。今回は特に構成が凝っていて、乙野さんにしか書けない作品だなと思いました。最後まで予想外の展開で面白かったです。
グループI
「読みかけのディケンズ」Takemanさん
Takemanさんは回ごとに作品のスタイルが違って、作家としての幅広さや技術の高さを感じていました。過去の六枚道場の作品を見返して改めてそう思いました。今回は海外文学のような雰囲気で、これまた今までに作風で驚きました。
読後感が爽やかで良かったです。「ダッシュボードのなかには読みかけの本。人生は読みかけの物語だ、さあ次のページをめくろう」という終わり方も、最後の六枚道場らしくて感動しました。
「読みかけのディケンズ」成鬼諭さん
げんなりさんは毎回斬新な作品で参加されていて、すごいなあと毎回思っていました。今回もテクニカルな作品で楽しかったです。思わず笑ってしまいました。
途中で語り手が変わるスタイルと吸血鬼という組み合わせには才能を感じました。
「読みかけのディケンズ」坂崎かおるさん
出だしの、語り手が「サオリ」の漢字がわからないというのもいいなと思いました。一人称で小説を書く場合、語り手がどうして他人の名前の漢字を知っているのかについて、僕は何度か悩んだことがあります。でも、この作品の二人の関係性ならわからない方が自然ですよね。
サオリさんの大人っぽくみせようとする行動やセリフにリアリティがあって良かったです。僕も思い当たることがあって恥ずかしくなりました。「お姉さんは目をそらした。とても、とても上手なそらし方だった」という描写もすごく良かったです。
苦草さんの作品の感想でも書きましたが、僕は最近まで「ディケンズ」じゃなくて「ディッケンズ」だと思っていました。ただの日本語表記の問題だと思いますが、サオリさんも同じ意見で良かったです。というか同じ病気にかかっていたということでしょうか。
少し気になったのは、「この前、ちょっと古い本を読んでいたら」の「この前」がいつの前なのかということです。手紙を公園で読んだ時点なのか、この話を物語っている(?)時点なのか。でも、自然に考えれば後者ですよね。一瞬、わからなかった……。
そうなると次に気になるのは、現在語り手の僕は何歳なのかということです。「今ならそれはただの二次方程式だということがわかるし、その説明もあまり正確ではなかったのだけど」という部分から考えると、中学三年生にはなっていると思います(二次方程式を習うのは普通は中学三年生)。一方で、文章の雰囲気には大人っぽさはなく、少年らしさがある気があるので、成人はしてないのかなという気がしました。中学三年生か、高校生くらい、十五、六歳くらいでしょうか。そうなると、あの時のお姉さんよりも少し年上になった「僕」が、「お姉さん」の痛々しさを振り返っているという構造になります。
十五、六歳で「微苦笑」が出てくる小説は何を読んだんだろう。実は初読時は最後の一文がそれまでの雰囲気と違う、特に「微苦笑」という単語が急に出てきた気がして違和感がありました。だけど、繰り返し読むうちに、十五、六歳くらいの語り手の僕も少し背伸びをして、自分を大きく見せようとしているのかなと思えてきました。あの時のお姉さんを痛々しいと思っている「僕」にも少し痛々しさがある。そういう構造なのかもしれない。
「僕」の年齢にこだわってしまったのは、坂崎がはじめて六枚道場に参加された「マックの女子高生」の記憶があったからです。僕はあの作品の語り手は中年くらいかなと思って読んでいたのですが、あとで坂崎さんが高校生か大学生の設定と追記されていました。大人ぶっている高校生か大学生くらいと想定して読み直すと、作品の面白さが増しました。
その追記の中に、「小説を読んでいると、読者は何となく主人公に肩入れする傾向があるかと思うのですが(以下略)」という文章があって、そこから考えると坂崎さんは読者のそういった心理を意識をしながら作品を書いているのではないか。「読みかけのディケンズ」でも主人公がどういう位置にいて、どういう限界があるのか冷静に考えないといけない。主人公にも痛い(という表現でいいのかわかりませんが)部分が少しあるのではないかと考えてしまったのもそこら辺が原因です。
少なくとも、他の方の感想にもあるように、「僕」から見た「お姉さん」像にはある程度の歪みがあるのだと思います。感想のさいしょに書いたように、「僕」は「サオリ」の漢字も知らない程度の関係なんだから。
そういえば、最後の手紙では「サオリ」さんはなんて署名していたんだろう。漢字がわからないということは、本名は書いていない。署名していなかったのかもしれないし、「お姉さんより」と書いていたとしたら面白いですよね。
話がまとまらなくなってきたので、ここらへんで止めます。好き勝手書いてしまった気がして、坂崎さんには申し訳ないです。
この作品に投票しました。
(追記)手紙の行方について
坂崎さんから「手紙を読んでも漢字がわからなかったのは、「サオリ」からの手紙かどうかはディケンズの本でわかること、署名については「半分」しか読まなかったから読んでいない、ということにしてあります」というコメントがありました。確かに署名は普通最後にしますよね。
「ということは、本をベンチに戻した時に手紙も挟んでいたんですね。たぶんそうなのかなとは思っていましたが、手紙は取っていて、後で最後まで読んでいるという可能性も否定はできないんじゃないかと考えていました。」と、僕がコメントしたところ、「そうなんです。送った後で読み返して、ちょっとわかりにくいなと思ったのですが、まあいいやとそのままにしてしまいました。作者の意図に沿うなら手紙も戻した方が合理的ですが、手紙だけとっておく「僕」の未来もちょっと可愛げがあっていいですね」と坂崎さんから返信がありました。
六枚という枚数に作品を収めるために、手紙を戻す描写ができなかった(?)ことが、結果的に解釈の幅を生んだのかなと思います。制限が厳しい六枚道場ならではの現象で、面白いなと思いました。
でも、物語としてはディケンズだけでなく手紙も読みかかけで終わったと考えるのが自然ですよね。それに、手紙をしおりとして挟んで戻したからこそ、ディケンズは読みかけになる。「読みかけのディッケンズ」というタイトルが上手くいかされていたんだということを、改めて感じました。
グループJ
「近くの彼女」佐藤相平
今作は一通り書いてから最終段落をなくしました。「踏みにじられた夏」をハギワラさんに実況していただいた時に、もう一つ手前で終わっても良かったんじゃないか的な感想があったので試してみました。「スパッと終わっている」、「ぶつっと物語が切られてしまった」という感想があったのは、そこら辺が理由なのかなと思います。
今回は票が入らないだろうと思ったので、自作に投票しています。
六枚道場を通じて、僕は人間の悪意や暴力性を描いているという感想を多くもらった気がします。六枚道場に参加するまでは人から感想をもらうことがあまりなかったので、自分の作品にそういう傾向があるということに気づいていませんでした。客観的な感想をもらえる機会というのはあまりないので、すごく勉強になりました。
また、今まで自分が読まなかったような種類の作品を読むことができるのも六枚道場のいいところだったと思います。とにかく、いろいろと成長できたと思います。ありがとうございました。
「田辺んちの奥さん」椎名雁子さん
現実と非現実がうまく溶け合っている好みの作品でした。こういう作品を僕も書いてみたいな。そういう気分になります。
奥さんが犬になったことが明かされる中盤まではミステリーのような雰囲気があったし、奥さんが犬になる説明も面白かったです。そして何よりも、奥さんが犬になったことに対する男二人の反応の描き方にも皮肉があって良かったです。もしかしたら男たちの反応を書くためにこの作品を考えたのかもしれないと思いました。前回の「ミナコちゃんの浮気」もそうでしたが、椎名さんは人間観察が鋭い方だなと感服します。
全体としても、巧みに構成された作品だと思いました。
「宇宙作家ディケンズ」小林猫太さん
小林さんの明るい作品を毎回楽しみにしていました。今回もとにかく面白かったです。元ネタはだいたい分からなかったのですが、それでも楽しめました。
この内容ならタイトルを「読みかけのディケンズ」にしても問題なかったのに、そうしなかったところに小林さんのこだわりを感じました。
本当はこの作品に投票するべきだったなと思います。
グループK
「異動」USIKさん
超小型害獣対策係を舞台にしているのに、作中に一度も超小型害獣が出現しなかったところが良かったです。アカシさんは魅力的かつリアリティのあるキャラクターだと思いました。「言語化されることによって」からはじまる段落には静かな迫力がありました。
書かれていない部分についての妄想がはかどる世界観で、僕もこういう作品を書いてみたくなりました。独特の不安感が僕の好みで、この作品に投票しました。
「CITY」馬死さん
骨粗鬆症の扱い方は気配りがされていて巧みだったと思います。特に「コツコツ」という響きが良かったです。
「女を守る男たちが駅で武装してうろつくようになった」ってさらっと書いてあって、すごい世界観だと思いました。少し気になったのは「ツンボ」という言葉を中学生が日常的に使うのかという点です。
最後のシーンは余韻があって感動的でした。
「読みかけのディケンズ」山崎朝日さん
現在と過去が複雑にまざる物語を違和感なく読ませる、作者さんの高い技術と文章力を感じました。完成度という点では今回の六枚道場で一番だったんじゃないかと思います。好きな文章を引用しようとしたけれど、最初から最後まで良かったからあきらめました。そのくらい巧みで美しい作品でした。山崎さんの他の作品も読みたくなります。
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