人生モラトリアム『奏』①それはまるで砂嵐のように
2016年10月 某IT系会社の営業課に転職。
いわゆる同期である中途入社の人は30人以上いたのかもしれない。
最初の1か月は東京の本社でみっちり研修があった。
色々な会社で働き、その会社はぼくにとって3社目の会社だった。
前職とは全く別の業界に転職をしたことで、不安はたくさんあった。
人見知りかつコミュ障のぼくとしては、かなりしんどかったことを
今でも鮮明に覚えている。
けれども研修期間を通じて同期ともそこそこ仲良くなるにつれて
『なんとかこの会社でガンバっていけそうかな』
と思えるようになっていった。
研修期間最終日、本社近くの居酒屋で親睦会兼打ち上げがあった。
ぼくは前職、某酒類メーカーで営業をしていた。
20代は本当に信じられらないくらいお酒を飲んでいた。
なので飲み会に参加してもほとんど酔っぱらうことはなかったのだ。
みんな各々楽しそうに飲んだり食べたり話したりしていた。
『これからも同期みんなで頑張っていこう!』
『いつか同じプロジェクトでまた会おう!』
念願の正社員での入社、一部上場企業への就職…
ぼくも含めて同期メンバーみんな嬉しかったのだろう。
研修期間中、同じチームとなり活動した同期のメンバーとは
それなりに仲良く打ち解けていたのかもしれない。
ほとんどのメンバーは東京本社での勤務なのでうらやましかった。
ぼくはさみしかった。とても不安だった。
ぼくは一人、千葉県内の営業所に配属となったのだ。
2016年11月 千葉の営業所に配属。
本社とは違い少数精鋭で、上司1名、営業7名、アシスタント3名と
かなりこじんまりとしていた。
みんなやさしい人たちだった。
人生で初めて入社のお祝い会もしていただいた。
※後述するのだが…学生時代は就活せず、当時お世話になっていたアパレルメーカーで学生アルバイトを経てそのまま入社させていただいた過去もあったため、入社のお祝い会は本当の本当に嬉しかった。
少しずつ仕事にも慣れてきて、手応えも感じていた。
先輩との同行OJTで経験を積み、11月末にはいよいよ独り立ちとなった。
株式会社なので、もちろん売上利益、ノルマ必達至上主義、ゴリゴリの
体育会系の会社だった。
毎朝ミーティングで前日の結果報告、今月ノルマに対する進捗の確認、
今週どこまで契約を獲ってくるかの入念な擦り合わせ等…
毎朝毎朝、一人ずつみんなの前で発表しなければならないのがとてもとても苦痛だった。
入社2か月目の自分も例外ではなく、しっかりノルマを果たさなければならない。当然といえば当然。
だが、日に日にそのプレッシャーは大きくなり、大きな不安に包まれていった。
少数精鋭のため、わからないことを聞ける先輩もおらず、みんな各自のノルマ、営業所のノルマを達成させるために本当に必死だった。
わからないなりに、不器用なりにも、出来る限りガンバった。努力した。
主に新規顧客獲得の業務だったため、飛び込み営業やテレアポなどを中心に
自分に出来ることを全力でガンバった。けれども結果はついてこない…
ノルマも未達…個人だけではなく、営業所のノルマの足も引っ張ってしまっている現実に直面し、心が折れてしまった。苦しかった。しんどかった。
今振り返れば、とても後悔している。
誰かに少しでも相談出来ていれば…と。
ぼくは性格的にも周りにものすごく気を使うタイプで、ましてや迷惑をかけたり負担をかけるようなことは絶対にしてはならない…そう思っていた。
なので、誰にも相談出来なかった。
あんなにたくさんいた同期のメンバーに、なぜ相談しなかったのだろう…
メンタルダウンしてしまったぼくは体調を崩してしまい、会社を休みがちになってしまった。
ある日、ついに限界に達してしまった。
『この通勤電車に飛び込んでしまえば、全部楽になれるのかな…』
理由のわからない震えと涙が止まらなかった。
頭の中が不安でいっぱいで、周りの景色は色のないモノクロに見えていた。
結局飛び込むことは出来ず、その日は出社直前で欠勤の連絡を上司に入れた。
家では彼女が帰らずに心配して待っていてくれた。
どうやらここ数週間、ずっと顔色も体調も悪く、苦しそうだったみたいだ。
そんな自分の状況すら理解することが出来ていなかった。
全く何も見えていなかったのだ。
そして彼女から心療内科の受診を強く勧められた。
『こわいのならば、一緒に病院まで行くよ』と言ってくれた。
その時はまだ、わからかった。
それから数週間が過ぎ、クリスマスや年末年始、お正月の華やかな雰囲気とは正反対に…
まるで旧式ブラウン管テレビの砂嵐の画面のような景色の中で…
2017年1月4日、最寄りのメンタルクリニックに通院するのであった。
不安と緊張、そして大きな罪悪感のような感情のせいでほとんど覚えてはいない。
『あなたはうつ病ですね』
お医者さんのその一言を聞いて、絶望した。
まさか自分が…
嘘だろう…
涙が止まらなかった。
こわくて、苦しくて、しんどくて…
不安で不安で仕方がなかった。
彼女や両親、職場のみんなに申し訳なさすぎて、罪悪感で押し潰されてしまった。
人生終わった…
そう感じてしまった。
けれども意外にも、腑に落ちている自分も、確かにそこにいた。
そして試用期間中に退職する決断に至った。
こうして『うつ病』との付き合いが始まることとなったのだ。
続。
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