2022お気に入り映画・ドラマ10選
皆さま、あけましておめでとうございます。
本年も何卒よろしくお願い致します。
昨年観た映画・ドラマは初見再見新旧洋邦入り混じって計202本でした(ドラマに関しては、リミテッドシリーズは全話をまとめて1本、複数シーズンにまたがる場合は1シーズンを1本とカウントしました)。
その中で、私が2022年に初めて観た作品の中から、面白かった作品・印象に残った作品を10本選んでみました(毎回言ってますが、あくまでベスト10ではなく10選ですので、気持ち的にはだいたい順不同です)。
※以下、作品内容に触れていますので未見の方はご注意ください。
1:さよなら、私のロンリー
親としての責任を果たせないくせに、勝手に産んで勝手に親ヅラして勝手な思想や信念を押し付けてくる「毒親」の呪縛から、被害者である子供が解放されるまでの心の旅路(今の日本で観ると、否が応でも宗教二世問題を連想せざるを得ない)。という普遍的かつ構造的かつ重いテーマが、こんなにもコミカルで奇妙で不可思議で素晴らしい映画になってしまうところが、ミランダ・ジュライのマジック。思いもかけないシーンで、何に感動してるか分からない謎の感動が押しよせる不思議な映像もそのひとつ。彼女の目で世界を見たらどんな風に見えるんだろうと思わされる。エヴァン・レイチェル・ウッドの低い声(実は地声らしい)も素敵。
2:トップガン マーヴェリック
「あー、面白かった!」の一言を観客から引き出すために、果てしなく体を張り命を賭ける、というジャッキー・チェンイズムをいつの間にか引き継いでいるトム・クルーズが贈る圧倒的娯楽作。であると同時に、決して名作とは言えなかった、いかにも80年代的な雑さに満ちた一作目の評価までも、信じられないレベルで引き上げてしまう奇跡の続編。であると同時に、コロナ禍&サブスク配信時代に「映画館で映画を観る意味」を、理屈ではなく作品力で証明してやるぜ!という覚悟が全編に漲った、2022年を代表する傑作。ただ一点、この映画って全編通して「敵基地先制攻撃」だよね? という巨大なモヤモヤはあるものの、それを補って余りある面白さが、エンタメの凄さと恐ろしさを教えてくれる。
3:ロスト・ドーター
生まれる前に「産んでくれ」と頼んでくる子供はいない。強制的に妊娠させられ、強制的に出産させられるという状況を除けば、子供は親のエゴによって生まれてくる。なので私は基本的に「親だって辛いのよ」的な言葉には「だったら産むなよ」と思う。だが、しかし、どれほど祝福と覚悟に満ちた妊娠・出産であっても、実際の育児の中で、親が抱いていた覚悟や予想を上回る苦労はあり得るし、周囲や自分が要求してくる「親らしさの呪縛」も心を疲弊させ得るだろう。本作は、構造的被害者としての子供を描いた『さよなら、私のロンリー』と対になるように、構造的加害者としての親の心の旅路を描く。自分で自分に「親失格」の烙印を押した主人公の言動は、共感と嫌悪と訳の分からなさの間を揺れ動く。決して褒められたものではないその不安定さは、(それが一瞬なのか数ヶ月なのか数年なのかずっとなのかは別にして)子供を愛せない時を経験したり、自分は親失格なのではないかと悩んだことのある人たちの心を抉りつつも癒してくれるだろう。人間という生き物の得体の知れなさを体現するオリヴィア・コールマンとジェシー・バックリーの素晴らしさは言わずもがな、初監督作でこの複雑なテーマを見事に映画化したマギー・ギレンホール、恐るべし。
4:ギレルモ・デル・トロのピノッキオ
ストップモーションアニメには、基本的に生きているものは映らない。映像の中の全てが作り物である。しかし、命を持たない作り物を動かしたい!という執念と熱意の集積によって、人間になりたいと願う人形の物語を描く本作には、結果としてとてつもない躍動感と生命力が宿っているように感じた。映像的な技法と物語的な主題が一致したことによる相乗効果と、アウトサイダーへの愛に満ちたギレルモ・デル・トロ監督の資質とピノッキオの物話の相乗効果が見事に噛み合った感動的な傑作アニメーション映画。
5:リコリス・ピザ
個人的には重めの名作路線も大好きなのですが、肩の力の抜けたこっち方面もやっぱり面白いPTA。もうファンなのでしょうがない笑。演出と撮影と編集がすば抜けて上手いんでしょうね。それほど奇を衒った風でもないのに、何故かものすごく印象的なカットやシーンの数々に魅せられているうちに、それほど一途なわけでもない二人の、どこに転ぶか分からない、恋愛映画と呼ぶには奇妙なノイズが多すぎる、初見ですでに懐かしい不思議な映画は幕を閉じてしまい、また観たくなってしまう。
6:オザークへようこそ(全4シーズン)
ハマってしまったドツボから抜け出すために必死でもがきながら、無限にドツボにハマり続け、無限に墓穴を掘り続けながらも、土壇場のアイディアと冷静さと口八丁手八丁でなんとかギリギリ難局を切り抜け続ける悪事まみれの家族の物語は、緊張感と面白さに満ちていて見応え十分。本心が読めない夫婦を演じたジェイソン・ベイトマン&ローラ・リニーや、怒りと不満と野心に満ちた白人貧困層の女性を演じたジュリア・ガーナーをはじめ、キャストのハマり具合も素晴らしかった。人気が出て長期シリーズになればなるほど、無理やり話を引き伸ばしてる感が出がちなドラマシリーズの中でも、非常に手堅くまとめられた全4シーズン。楽しませていただきました。
7:ダーマー(リミテッド)
実在の連続殺人鬼ジェフリー・ダーマーを描くからには、ある程度のおぞましさや残虐さに覚悟が必要だろうとは思っていたが、それ以上にドスンと来たのは「悲しさ」だった。もちろんやったことに同情の余地はないが、結果的に連続殺人を犯した彼の、あらゆる歯車がうまく噛み合わなかった人生のどこかがほんの少しでも違っていれば、ああはならずに済んだのではないか? と思わずにはいられない。しかし、本作は加害者だけでなく、被害者、被害者の遺族、加害者の家族、近隣住民など、様々な立場の人たちにスポットライトを当てながら、殺人鬼を英雄視さえしてしまう世間の異常さに警鐘を鳴らし、被害者の人生や未来が奪われた悲しみに目を向けさせる。その批判的な視線は、このようなドラマを観たがる我々にも作り手自身にも向けられている。
8:THE BATMAN ザ・バットマン
「ダークナイト=闇夜の騎士」の活躍を描く映画なんだから、闇とか黒がカッコよくないと話にならんでしょ!という作り手の美意識が、撮影から照明、衣装、美術に至るまで見事に徹底されていて、その統一された世界観がお見事。病的で、変態的で、暴力衝動を制御しきれない復讐の化身として登場するロバート・パティンソン版バットマンは、常にヴィランと紙一重の、狂人スレスレの危険性を併せ持つダークヒーローの存在感が際立っていた。そんな存在が、真のヒーローとしての存在意義に気づくまでの変化が、娯楽作の中でうまく描かれていた。ゾーイ・クラヴィッツのスーツ姿もカッコいい!テーマ曲もシンプルで強い!
9:ザ・モーニングショー(シーズン2まで)
「朝のニュース番組の顔」として、全米のお茶の間(全米にお茶の間があるかどうかは存じませんが)で長年親しまれてきた大人気ニュースキャスターの男によるセクハラ加害が明るみに出たことをきっかけに揺れ動く、人気ニュース番組「ザ・モーニングショー」を支えるスタッフやキャストやテレビ局の面々の右往左往や私利私欲や下克上を描く、内幕モノドラマの傑作シリーズ。被害者も傍観者も知らなかった人も含めて、周囲のあらゆる人に様々な傷を与えてしまうセクハラ・パワハラに対する多面的で複眼的な描き方も現代的。一面的な良い人も悪い人も出てこない、魑魅魍魎が蠢く「ジャーナリズム」の世界はおぞましくてロクでもないが、それでも残るかも知れない本物のジャーナリズム精神も、ないわけではなさそう。脳にこびりつく不気味なハミングとポリリズムが印象的なオープニングも、そんな人間社会の複雑さとややこしさを表現しているようで大好き。
10:令嬢アンナの真実(リミテッド)
『オザークへようこそ』で野心的な白人貧困層を演じていたジュリア・ガーナーが、本作ではドイツの資産家令嬢アンナ・デルヴェイを演じ、NY社交界の富裕層を騙しまくった実在の女性アンナ・ソローキンを演じる。彼女の美しい目鼻立ちや鼻にかかった高めの声が、異常に高いプライドに突き動かされて成功者を目指す役柄に見事にハマっていた。高度な教育を受けているはずの富裕層の人たちも含めて、人間は「なんとなくイケてそうな人」「なんとなくセンスありそうな人」に異常に弱いというのが、面白いと同時に恐ろしい。結果的に彼女は逮捕されたが、その面白い事実にNetflixが大金を払って映像化し、我々はそれを観て面白がり、彼女は前科だけでなく金も知名度もまんまと手にしていると考えると、ほんとに「悪名は無名に勝る」んだな〜、と複雑な気持ちにさせられるところまで含めて、このドラマの鑑賞体験。
その他、印象に残った作品たち。
『カモン カモン』
『わたしは最悪。』
『燃ゆる女の肖像』
『サウンド・オブ・メタル』
『西部戦線異状なし』(Netfilx版)
『ブラックバード』(リミテッド)
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
『サイバーパンク エッジランナーズ 』(全1シーズン)
『平家物語』(全1シーズン)
『Five Days at Memorial メモリアル病院の5日間』(リミテッド)
『Slow Horses 窓際のスパイ』(シーズン1まで)
『二つの夏』(リミテッド)
『セヴェランス』(シーズン1まで)
『マリグナント 狂暴な悪夢』
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』(シーズン1まで)
『グレイマン』
『パチンコ』(シーズン1まで)
『SWALLOW/スワロウ』
『ブロンド』
などなど。
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映像ディレクター。自主映画監督。 映像作品の監督・脚本・撮影・編集などなどやっております。