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#264 『正欲』を読んで、自分が無自覚に相手の領域を侵していたことをメタ認知できた話
こんにちは!けーたです。今回は朝井リョウさんの著作『正欲』を読みましたので、自分の心に深く刺さった内容などを率直に共有いたします!
まず、中身の詳細に触れる前に、読了後の感想を一言でまとめると…
「これまでに出会った本の中で、価値観を揺さぶられ方が一番激しい本でした」です。
この本は、世間一般の「常識」とされるマジョリティーの視点と、それに対して「自分たちにとっての当たり前ではない」と抗うマイノリティーの視点が交互に切り替わりながら進む物語です。
その構造が本当に秀逸で、読んでいるうちに自分の中にあった「分断」という無意識の世界観に気付かされました。
そして、この無自覚な「当たり前」という構造によりマイノリティーはブルドーザーのようにマイノリティーを「当たり前」の世界から追いやられていく(マイノリティーにとって良かれて思っての善意の行動などにより)。
最初は抵抗していたが、それも時間が経つごとに何をやっても無駄だという諦めと無力感により、抵抗をやめ心を閉ざしていく。
この世界観を知った時、極限状態の中で人間の心がどのように揺れ動くかを描いた名著『夜と霧』を思い出しました。
こちらはアウシュビッツという極限状態という非日常ではありますが、本当に心に響く作品なので読まれていない方は是非お手に取られることをオススメいたします!
ここからは物語から得られた、新しい気づきや学びの内容について詳しく触れていきたいと思います。
○心に響いた表現達
作中には、心に深く刺さる表現が多すぎて、すべてを取り上げ、その時に感情を残すとnoteの読書メモには正直収まりきらないほどです。
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そこで、特に気になった表現をリスト化してみました(自分でも簡単に振り返れるように)
・いま自分は、息子を正したくて話をしているのか、その浅はかな思考への嫌悪感をエンジンにただ加虐しているのか、よくわからなくなった。
・早くうまくいかないことに気づいて、学校に通う人生に戻ってほしい。
・両親との会話はいつだってこうだ。会話は成立していても、対話は成立していない。
・人間は思考を放棄した時によく「こんなときだからこそ」とかいうんだよ
・正しい命の循環の中にいる人たち
・精神的にも肉体的にも適応能力が半端ない。で、周りの人間も自分と同じようなもんだと思っている。
・昔からずっとそうだ。私はこんな秘密を明かしたよ、だからあなたの秘密をちょうだい。そうじゃないとフェアじゃないでしょ。そんな風に、欲しくもない情報をいきなり突きつけてきたくせに、見返りを求める人ばかりだ。
・「地球に留学している感じなんだよね。わたし」
・頼んでもいないのに、とっておきの秘密を明かしてきて、お望み通り聞き役に徹していたらあるとい突然そのお返しがないとキレられる。
・性的対象は、ただそれだけの話ではない。根だ。思考の根、哲学の根、人間関係の根、世界の見つめ方の根。遡れば、生涯の全ての源にある。そのことに多数派の人間は気付かない。気付かないでいられる幸福にも気付かない。
・多様性とは都合よく使える美しい言葉ではない。自分の想像力の限界を突きつけられる言葉のはずだ。時に吐き気を催し、時に目を瞑りたくなるほど、自分にとって都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。
・二十歳を超えてもなお異物を排除する力が強いのは圧倒的に男子の方だ。男は男であることから降りようとする男を許さない。嫌うでもハブるでもなく、許さないのだ。
・その呼吸とはすなわち自分が想像し得なかった世界を否定せず、干渉せず隣同士、ただ共にあるということだった。
・同じフェチでもグラデーションがあること、自分の好みとピッタリ合致する人とであう難易度の高さを学んだ。
・「あなたのその、大きな答えにまとまろうとするところ、不安になる」
・まとも。普通。一般的。常識的。自分はそちら側にいると思っている人はどうして、対岸側にいると判断した人の生きる道を狭めようとするのだろうか。
・「そもそも、お前みたいな人間にわかってもらおうなんてこっちは端から思ってない。お前にはお前のことしかわからない。お願いだからまずそのことをわかれ。他者を理解しようとするな。俺はこのまま生きさせてくれればそれでいいから。」
・沈黙は彫刻刀に似ている。冷蔵庫の音や隣の部屋の生活音、外の世界を人や車が通り過ぎていく音。それまでずっとそこにあった音たちを、空間からはっきりと削り出す。
・誰が命令しなくとも、まとも側の岸にいる人は、その岸の治安を守ろうとする。まともである、すなわち多数派であることに執着する者は、異物を見つけ出し排除する活動に、誰から頼まれなくとも勝手に勤しむ。
これらの言葉にピンときた方は、ぜひ本作を手に取り、"当たり前"の光と影が織りなす世界観に触れてみてください。
本書を通じて、あなた自身の中にある「当たり前」にも新しい視点が生まれるかもしれません。
○まとめ
読み終わったあと、ふと考えさせられました。『ダイバーシティー』という言葉を聞かない日はない日常において、結局自分はどういう振る舞いを日々選択して生きていくのか。そんな重く、深い問いが残りました。
しかし、その答えを簡単に出すことはできません。そして、それでいいのではないか。と今の私は思っています。
『正欲』本当におすすめの一冊です。このnoteが誰かの選書の参考になれば幸いです。
ではでは。
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