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2028年、なぜ「会社員のふつうのお仕事」が「お金を払って楽しむための娯楽」になるのか?AGI時代のお仕事エンタメシフト

2028年、なぜ「会社員のふつうのお仕事」が「お金を払って楽しむための娯楽」になるのか?AGI時代のお仕事エンタメシフト

背景

2025年以降、AGI(汎用人工知能)の実用化により、私たちの働き方は根本的な変革を迎えようとしている。

McKinsey Global Instituteの2023年のレポート「The State of AI in 2023: Generative AI's Breakout Year」によれば、生成AIの発展は既に仕事の本質的な変革をもたらしつつあり、この傾向は加速することが予測されている。

現在も続くリモートワークやハイブリッド勤務の議論、会議の効率化といった課題は、より本質的な変革の前の過渡期的な議論に過ぎないかもしれない。

この変革の波は、単なる技術的な進歩を超えて、人間の活動の本質的な意味の転換を示唆している。特に注目すべきは、従来の「仕事」という概念が、AGIの台頭によって大きく変容し、新たな価値を持つ可能性である。

本稿では、この変容を「会社員の普通のお仕事の娯楽化=エンタメ化」という観点から分析し、その可能性と課題を探る。

さらに、この変革を理解する上で重要な視点として、ロジェ・カイヨワの遊戯論を取り入れる。カイヨワの提唱する遊びの4つの基本要素(アゴン、アレア、ミミクリ、イリンクス)は、AGI時代における仕事の再定義に重要な示唆を与えるものである。

本研究では、これらの理論的枠組みを基に、2028年までの日本における仕事の変容を予測し、その過程で生じる課題と機会を明らかにする。特に、現在の日本の働き方の特徴(出社とリモートワークの混在、デジタル化の遅れ、長時間労働など)が、どのように新しい価値へと転換されうるかを考察する。

30秒で読めるまとめ

Frey & Osborne (2013)の研究「The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?」では、将来的に47%の職業がAIによって自動化されるリスクが高いと指摘されている。特に知的労働分野において、その傾向は顕著になると予測される。本稿では、現在の「仕事」が将来的に娯楽化するという斬新な仮説を提示し、歴史的な産業変革の事例分析と未来予測を通じて検証する。

カイヨワの遊戯論を基に、仕事におけるアゴン(競争)アレア(運)ミミクリ(模倣)イリンクス(眩暈)の要素を分析し、これらが新しい働き方にどのように統合されうるかを考察する。さらに、日本の現状(2024年)における働き方の特徴を踏まえ、AGI時代への移行過程を詳細に検討する。

World Economic Forumの「Future of Jobs Report 2023」を参考に、2025-2028年における日本の会社員の意識改革と行動変容への実践的アプローチを提案する。この過程で、従来の仕事の生産性や効率性の概念が再定義され、創造性や芸術性、エンターテイメント性を含む新しい評価基準が確立されることを予測する。

目次

リサーチクエスチョン

AGI社会の到来により無価値化する現代の仕事様式は、どのように価値を再定義され、娯楽・エンターテイメントとして再構築されるのか?

生成AIと壁打ちしてできた問い

この問いは、単なる技術的な変革を超えて、人間の活動の本質的な意味の転換を示唆している。

Brynjolfsson & McAfee (2014)が『The Second Machine Age』で指摘するように、技術革新は単に既存の仕事を置き換えるのではなく、新しい形態の人間活動を生み出す可能性がある。本研究では、特にこの「新しい形態」としての会社員の普通のお仕事の娯楽化・エンターテイメント化の可能性に注目する。

さらに、この問いは以下のような副次的な疑問を含んでいる:

  1. AGIによって自動化される仕事と、人間にしかできない仕事の境界線はどこに引かれるのか?

  2. 仕事の娯楽化は、社会的な生産性や経済的価値とどのように両立するのか?

  3. 日本特有の労働文化(長時間労働、集団主義など)は、この新しいパラダイムにどのように適応または変容するのか?

これらの問いに答えることで、AGI時代における人間の役割と、仕事の本質的な意味を再考する。

理論的枠組み:カイヨワの遊び理論からの考察

遊びの4つの要素と仕事の転換

ロジェ・カイヨワの遊戯論によれば、遊びには以下の4つの基本要素が存在する:

  1. アゴン(競争):技能や能力を競い合う要素

  2. アレア(運):偶然性や予測不可能性の要素

  3. ミミクリ(模倣):役割演技や模倣の要素

  4. イリンクス(眩暈):知覚の混乱や陶酔の要素

これらの要素は、AGI時代における仕事の再定義において重要な示唆を与える。特に注目すべきは、現代の仕事がこれらの要素を既に内包しているという点である。例えば、営業活動におけるノルマ達成(アゴン)市場の変動への対応(アレア)組織における役割遂行(ミミクリ)没入的な作業体験(イリンクス)などが挙げられる。

AGI時代においては、これらの要素がより明確に、そして意図的に仕事に組み込まれていく可能性がある。例えば:

  • アゴン:AIとの協働における人間特有の創造性の競争

  • アレア:AIの予測を超えた偶発的なイノベーションの重視

  • ミミクリ:多様な役割を演じることによる柔軟な問題解決

  • イリンクス:没入型テクノロジーを活用した新しい仕事体験

日本の働き方の現状(2024年)から見る変革の可能性

2024年現在の日本の働き方は、依然として以下のような特徴を持つ:

  • 出社とリモートワークの混在による働き方の二重構造

  • デジタル化の遅れと旧来の業務プロセスの残存

  • 長時間労働と低生産性の継続

  • 会議文化における形式主義の存在

これらの特徴は、一見すると非効率的に見えるが、カイヨワの遊戯論的観点からは、むしろ「遊び」としての再構築の可能性を秘めている。例えば:

  • 形式的な会議 → 創造的なロールプレイングセッション(ミミクリの要素)

  • 出社という儀式 → 社会的交流のゲーム(アゴンとアレアの要素)

  • 書類作成 → デジタルアート創作(イリンクスの要素)

これらの転換は、単なる効率化ではなく、仕事そのものの意味と価値を再定義する可能性を持っている。

価値観の劇的転換:メタファーによる考察

プログラマーの地位変遷

1980年代、プログラマーは「暗い部屋でコードを書く変わり者」というステレオタイプで語られていた。しかし、インターネットの普及とデジタル革命により、創造的な問題解決者として社会的地位と認知が劇的に向上した。この変遷は、AGI時代における従来型オフィスワーカーの変容を予見させる。

具体的には、以下のような変化が想定される:

  • 単純作業の実行者 → 創造的なAIプロンプトエンジニア

  • データ入力者 → データアーティスト

  • 中間管理職 → クリエイティブファシリテーター

その他のメタファー的事例

  1. 農業従事者

  2. 産業革命期:時代遅れの象徴

  3. 現代:サステナビリティの担い手

  4. 職人

  5. 大量生産時代:非効率の代名詞

  6. 現代:付加価値創造の象徴

  7. アーティスト

  8. かつて:不安定な職業の代表

  9. 現代:クリエイティブ経済の中核

これらの事例は、AGI時代における従来型の仕事の再評価可能性を示唆している。特に注目すべきは、一度は時代遅れとされた職業や技能が、新しい文脈の中で高い価値を持つようになるという点である。

この観点から、現在のオフィスでの普通のお仕事や管理業務も、AGI時代には新たな文脈の中で再評価される可能性がある。例えば、人間同士の直接的なコミュニケーションや、感情的知性を活かした判断など、AIには容易に模倣できない要素が、むしろ希少価値を持つようになるかもしれない。

3つの挑戦的仮説

上記の理論的枠組みと現状分析を踏まえ、以下の3つの挑戦的仮説を提示する。これらの仮説は、AGI時代における仕事の本質的な変容を予測し、その可能性と課題を探るものである。

仮説1:オフィスワークのラグジュアリー化

現在の「オフィスへの出社」は、2028年までに高級レジャー、つまり娯楽やエンタメとして再定義される。かつての乗馬が移動手段から趣味へと変貌したように、満員電車での通勤、オフィスワークはお金を払ってでも楽しみたい「プレミアムなワクワクするノスタルジックな社会体験」として価値を持つようになる。つまり、昔は仕事だった馬乗りが現在のラグジュアリーなレジャーである乗馬となったような変化である。この変化は、単なる働き方の変化ではなく、人間の社会的活動の本質的な再構築を意味する。

仮説2:会議のゲーミフィケーション

従来の会議は、人間同士の高度なエンタメ要素満載のコミュニケーションゲームとして進化する。高度に発達したAIエージェント的ななにかが基本的な意思決定をほぼ全て担う中、人間による現在の形式のようないわゆる普通の会議は創造的な遊びの場として再構築される。このプロセスは、ビジネスコミュニケーションの本質を変革する可能性を秘めている。

仮説3:デスクワーク(普通のお仕事)の芸術化・アート化

定型的なデスクワーク(普通のお仕事)は、個人の創造性を表現する芸術活動として昇華される。パソコンでのデータ入力やWord、Excel、Powerpoint等でのドキュメント作成は、自己表現やナラティブ・ストーリーを交えたデジタルアートのような創造的活動へと変容する。この転換は、仕事における人間の役割の本質的な変化を示唆している。

これらの仮説は、一見すると現実離れしているように見えるかもしれない。しかし、カイヨワの遊戯論的視点や、過去の技術革新による職業の変容事例を考慮すると、十分に実現可能性のある未来像として浮かび上がってくる。以下、各仮説について詳細に検討する。

仮説1:オフィスワークのラグジュアリー化

歴史的類似性

産業革命以降、多くの労働活動は必需から娯楽へと転換を遂げてきた。最も顕著な例として、乗馬が挙げられる。かつては貴重な移動手段であった乗馬は、自動車の普及により実用的な価値を失ったものの、競技スポーツや趣味として新たな価値を獲得した。

同様に、家庭内での裁縫は、既製服の普及により生活必需から創造的な趣味活動へと変容した。料理もまた、調理済み食品や外食産業の発展により、単なる生存手段から、ガストロノミーという芸術的活動へと昇華された。

これらの事例は、技術革新によって必需性を失った活動が、むしろ高付加価値な娯楽として再定義される可能性を示唆している。World Economic Forumの2023年レポート「The Future of Jobs Report 2023」が指摘するように、AIによる自動化は既存の仕事を消滅させるのではなく、新しい価値の創造につながる可能性がある。この観点から、オフィスワーク、デスクワーク、普通のお仕事のラグジュアリー化は、単なる仮説ではなく、技術革新に伴う必然的な進化の方向性として捉えることができる。

未来予測分析

2028年までに、オフィスワークは以下のような変容を遂げると予測される。

プレミアム空間としてのオフィス
従来の機能的なオフィス空間は、豪華なインテリアと最新技術を備えたプレミアムな空間として再構築される。これらの空間では、AIが日常的な業務を処理する一方で、人間同士の創造的な対話や協働が中心的な活動となる。

McKinseyのAIレポート(2023)が示すように、AIの発展により、ルーチンワークの大部分が自動化される中、人間同士の直接的なコミュニケーションや創造的な協働の価値は、むしろ高まることが予測される。このトレンドは、オフィス空間自体の価値定義を変える可能性がある。

  1. 社交クラブ化するコワーキングスペース
    従来のコワーキングスペースは、会員制の社交クラブのような性質を帯び、知的交流の場として進化していく。これらの空間では、異なる背景を持つ専門家たちが集まり、AIでは生み出せないような創造的なアイデアの交換が行われる。

  2. 希少価値としての「人間らしい働き方」
    AIやロボティクスでは代替できない「人間らしい働き方」自体が希少価値を持ち、それを体験すること自体が特別な価値を持つようになる。例えば、手書きのメモを取ることや、対面でのブレインストーミングセッションなどが、プレミアムな体験として再評価される可能性がある。

  3. ウェルビーイングとの融合
    オフィスワークは、単なる仕事の場ではなく、個人のウェルビーイングを高める場としても機能するようになる。最新のバイオフィードバック技術やメンタルヘルスケアサービスが統合された、総合的な「人間体験」の場としてのオフィスが登場する。

これらの変化は、カイヨワの遊戯論における4つの要素(アゴン、アレア、ミミクリ、イリンクス)を巧みに取り入れたものとなる。例えば、創造的な協働はアゴン(競争)の要素を、予測不可能な知的交流はアレア(運)の要素を、異なる役割の体験はミミクリ(模倣)の要素を、そして没入型の仕事体験はイリンクス(眩暈)の要素を体現している。

日本における特殊性と課題

日本の文脈では、このオフィスワークのラグジュアリー化には特有の課題と機会が存在する。

  1. 集団主義文化との調和
    日本の集団主義的な企業文化は、一見するとオフィスワークのラグジュアリー化と相反するように見える。しかし、この文化を活かし、「集団的な創造性」を育む場としてオフィスを再定義することで、独自の価値を生み出す可能性がある。

  2. 「おもてなし」精神の活用
    日本の「おもてなし」文化は、高級化したオフィス空間における人間同士のインタラクションに新たな次元を加える可能性がある。AIでは再現困難な、きめ細やかな気配りや心遣いが、オフィスワークの付加価値となりうる。

  3. 働き方改革との整合性
    現在進行中の働き方改革との整合性を図ることが課題となる。長時間労働の是正と、オフィスワークのラグジュアリー化をどのように両立させるかは、重要な検討事項となる。

  4. デジタル格差への対応
    オフィスワークのラグジュアリー化が進む一方で、デジタル技術への適応が困難な層が取り残される可能性がある。この格差をどのように解消し、包括的な変革を実現するかが課題となる。

これらの課題に対応しつつ、日本独自の文化的背景を活かしたオフィスワークのラグジュアリー化を実現することが、2028年に向けた重要な戦略となるだろう。

仮説2:会議のゲーミフィケーション

転換のメカニズム

MIT Work of the Futureの2020年レポート「The Work of the Future: Building Better Jobs in an Age of Intelligent Machines」が指摘するように、企業における意思決定プロセスの多くがAIによって最適化される中、人間による会議は本質的な変化を迎える。データ分析や論理的判断に基づく意思決定はAIが担い、人間の会議は直感や創造性、感情的知性を活かした対話の場へと進化する。

このプロセスで、会議自体が創造的な対話を促進するゲームのような性質を帯びていく。さらに、人間同士のコミュニケーションがもつ予測不可能性や感情的な要素が、むしろ価値ある「遊び」として再評価される。

Brynjolfsson & McAfee (2014)の研究『The Second Machine Age』が示唆するように、技術革新は人間の創造性をより重要なものとする。会議のゲーミフィケーションは、この創造性を引き出すための有効な手段となる可能性がある。

新しい会議様式

従来の形式的な会議に代わり、以下のような新しい会議様式が確立されると予測される:

  1. 即興型ブレインストーミング
    参加者は、予め設定されたテーマに対して自由な発想で解決策を提案し、その過程自体を楽しむ。AIがリアルタイムでアイデアを分析し、新たな視点を提供することで、人間の創造性がさらに刺激される。

  2. ロールプレイング型戦略会議
    参加者が異なる役割(顧客、競合他社、未来の自社など)を演じながら戦略を議論する。この過程で、多角的な視点が自然に取り入れられ、より柔軟な戦略立案が可能になる。

  3. シナリオシミュレーションゲーム
    AIが生成する複数の未来シナリオに基づき、参加者がそれぞれのシナリオでの最適な行動を競い合う。この過程で、予測不可能な状況への適応力が養われる。

  4. 感情知能コンペティション
    参加者が互いの感情や意図を読み取り、最適なコミュニケーション戦略を競う。AIが感情分析を提供することで、参加者の感情知能がさらに磨かれる。

これらの新しい会議様式は、カイヨワの遊戯論における4つの要素を巧みに取り入れている:

  • アゴン(競争):アイデアの質や創造性を競い合う

  • アレア(運):予測不可能な状況への対応力を試す

  • ミミクリ(模倣):異なる役割を演じることで多角的な視点を獲得する

  • イリンクス(眩暈):従来の思考の枠を超えた発想を促す

World Economic Forumの2023年レポート「The Future of Jobs Report 2023」が指摘する「ソフトスキル」の重要性は、このような新しい会議様式においてより顕著となる。感情的知性を競い合う要素が導入され、共感力や説得力を競うような新しい形式の会議が生まれる。

日本の文脈における課題と機会

日本の企業文化において、会議のゲーミフィケーションを導入する際には、以下のような特有の課題と機会が存在する:

  1. 階層的な組織構造との調和
    日本の多くの企業に見られる階層的な組織構造は、自由な発想や意見交換を阻害する可能性がある。ゲーミフィケーションを通じて、一時的に階層を解消し、平等な立場での対話を促進する仕組みが必要となる。

  2. 「和」の文化の活用
    日本の「和」を重んじる文化は、一見すると競争的な要素を含むゲーミフィケーションと相反するように見える。しかし、協調的な競争や集団での創造性発揮など、「和」の精神を活かした独自のゲーミフィケーション手法を開発する機会がある。

  3. 言語バリアの克服
    グローバル化が進む中、言語の壁は依然として大きな課題である。AIによる高度な同時通訳技術を活用し、多言語でのゲーミフィケーション型会議を実現することで、この課題を克服し、さらなる創造性の発揮につなげることができる。

  4. 「本音と建前」の文化への対応
    日本の「本音と建前」の文化は、率直な意見交換を妨げる可能性がある。ゲーミフィケーションを通じて、「役割」として意見を述べる機会を設けることで、この文化的障壁を克服し、より自由な発想を促す環境を作り出すことができる。

これらの課題に対応しつつ、日本の文化的特性を活かした独自の会議ゲーミフィケーション手法を開発することが、2028年に向けた重要な戦略となるだろう。

仮説3:デスクワークの芸術化

パラダイムシフトの構造

デスクワークの芸術化は、単なる作業様式の変化ではなく、知的労働の本質的な再定義を意味する。Frey & Osborne (2013)の研究「The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?」が示すように、AIによってルーチン的な作業が完全に自動化される中、人間の役割は創造的な価値付加へとシフトする。

このプロセスで、従来のデスクワークに含まれていた創造的要素が純化され、より芸術的な表現として昇華される。また、デジタルツールを使用した作業自体が、職人技のような熟練を要する創造的活動として認識されるようになる。てをには修正や稟議書にはんこを押しまくるといったブルシット・ジョブの扱いをされているタスクは近い将来芸術活動になるかもしれない。

McKinseyのAIレポート(2023)「The State of AI in 2023: Generative AI's Breakout Year」が指摘するように、AIの発展は単純作業を自動化するだけでなく、人間の創造性を増幅する可能性を持つ。この観点から、デスクワークの芸術化は、技術と人間の新しい共生関係を示唆している。

芸術としての仕事

デスクワークの芸術化は、以下のような形で具現化されると予測される:

  1. データの視覚化アート
    データの視覚化は単なる情報伝達から、美的価値を持つデジタルアートへと進化する。複雑なデータセットを直感的に理解可能な視覚的表現に変換する能力が、新たな芸術形態として認識される。

  2. ドキュメンテーション as パフォーマンス
    ビジネス文書の作成は、レイアウトやタイポグラフィを含む総合的なデザイン活動となり、その美的質が評価される。さらに、文書作成のプロセス自体がライブパフォーマンスとして捉えられ、その創造過程が価値を持つようになる。

  3. プロセス最適化の美学
    業務プロセスの最適化自体が、複雑なシステムを美しく調和させる創造的活動として認識される。効率性だけでなく、プロセスの優雅さや美しさが評価基準となる。

  4. インタラクティブ・ナラティブ
    報告書や提案書の作成が、インタラクティブな物語創作として再定義される。読み手を巻き込み、感情的にも知的にも刺激する「体験」を創造することが求められる。

  5. アルゴリズミック・アート
    プログラミングやアルゴリズムの設計が、純粋な芸術表現として認識される。効率性や機能性だけでなく、コードの美しさや創造性が評価される。(これはある意味そうなっている界隈もたくさんあるしれませんね)

これらの活動は、カイヨワの遊戯論における4つの要素を以下のように体現している:

  • アゴン(競争):より美しく、より創造的な表現を競う

  • アレア(運):予測不可能な要素を取り入れ、偶発的な美を創造する

  • ミミクリ(模倣):現実世界の複雑性を芸術的に模倣し、再解釈する

  • イリンクス(眩暈):没入感のある視覚的・感覚的体験を創造する

MIT Work of the Futureレポート(2020)「The Work of the Future: Building Better Jobs in an Age of Intelligent Machines」が示唆するように、これらの活動は、従来の実用的価値に加えて、芸術的価値を持つものとして評価されるようになる。この変化は、仕事の価値定義自体の転換を意味する。

日本におけるデスクワークの芸術化:課題と機会

日本の文脈において、デスクワークの芸術化には独自の課題と機会が存在する:

  1. 職人気質の活用
    日本の伝統的な職人気質は、デスクワークの芸術化と親和性が高い。細部へのこだわりや完璧を追求する姿勢は、デジタル時代の新しい「職人芸」として再評価される可能性がある。

  2. 集団的創造性の促進
    日本の集団主義的な文化は、個人の芸術的表現と一見相反するように見える。しかし、集団での創造的活動を促進することで、独自の「集団芸術」としてのデスクワークを確立する機会がある。なんだか想像すると笑ってしまいますが。従来は誰もが従事していて当たり前だった農家や酒造や味噌づくりなどをお金を払って見学したり体験したりしている現代から想像すると、未来の娯楽に大企業の会社員の大量コピーからの7連チャン稟議押印とか、結論のでない無限社内会議みたいな集団芸術を見学しにいくコースが追加されていてもおかしくはないかもしれませんね。

  3. 美意識の融合
    日本の伝統的な美意識(例:侘び寂び、余白の美)をデジタルワークに取り入れることで、独自の芸術的表現を生み出す可能性がある。

  4. 技術と伝統の調和
    最新のAI技術と日本の伝統的な芸術表現を融合させることで、新しい形のデジタルアートを創造する機会がある。

  5. 教育システムの再構築
    芸術的なデスクワークに必要なスキルを育成するため、従来の実務教育と芸術教育を融合した新しい教育プログラムの開発が必要となる。

これらの課題に対応しつつ、日本の文化的特性を活かしたデスクワークの芸術化を実現することが、2028年に向けた重要な戦略となるだろう。

実践的アプローチ:意識改革と行動変容

短期的アプローチ(2025-2026年)

MIT Work of the Futureの2020年レポート「The Work of the Future: Building Better Jobs in an Age of Intelligent Machines」が指摘するように、技術革新に伴う労働市場の変化には段階的な適応が必要となる。初期段階での意識改革と実験的な取り組みとして、以下のアプローチを提案する:

  1. 価値観転換ワークショップの実施
    従来の仕事の定義を見直すワークショップを実施し、参加者が既存の価値観から脱却するきっかけを作る。カイヨワの遊戯論を基に、仕事における「遊び」の要素を再発見し、その価値を再評価する。

  2. クリエイティブスキル開発プログラム
    McKinseyのAIレポート(2023)「The State of AI in 2023: Generative AI's Breakout Year」が示すように、AIには代替困難な創造性やコミュニケーション能力の開発プログラムの導入が急務となる。芸術的表現技法やストーリーテリングスキルなど、従来のビジネススキル以外の能力開発に注力する。まあ、いまでもみなさんいろいろ試行錯誤されてはいますが。

    1. 実験的「遊び化」プロジェクト
      既存の業務の一部を実験的に「遊び化」し、その効果を検証する試みを行う。例えば、日常的な報告書作成を創造的なデジタルストーリーテリングに置き換えるなど、小規模な実験から始める。これはすでに私はよくやっていますが。本来まじめな自社プロダクトのマーケティング用ブログに小説の技法を取り入れてみるとか。生成AI登場により誰もがなんちゃってレオナルド・ダ・ヴィンチになれる時代。自分の中に眠れる才能や子供時代にしまっちゃっていたアーティストとしての本能を爆発させてみると面白いかもしれません。

  3. AIとの協働スキル訓練
    AIツールを効果的に活用し、人間の創造性を増幅させるスキルを育成する。特に、AIプロンプトエンジニアリングや、AIが生成したコンテンツの編集・キュレーションスキルの向上に焦点を当てる。かの知の巨人、松岡正剛さんの編集工学という実践的コンセプトはそういう意味ではかなり先進的取組だったのだなと感じます。すべては編集である。と。

  4. クロスファンクショナル・クリエイティブラボの設置
    部門や専門性の垣根を越えた創造的な協働の場を設ける。この「ラボ」では、従来の業務目標から離れ、純粋に創造性を発揮することに焦点を当てる。まあ、こういうのもすでに丸の内やら渋谷やらいたるところで大企業やスタートアップが開設されてますが。なんだかんだで同一気質の方々の集合場所になってる気もしますね。より日本の最先端のアカデミックな方々と最高峰のエリートと最凶のヤンキー集団を混ぜて新価値創造の試行錯誤をするとかなんかそれくらいのクロスファンクショナルな場があるともっと楽しくなるんだろうなと妄想しています。

これらのアプローチは、カイヨワの遊戯論における4つの要素(アゴン、アレア、ミミクリ、イリンクス)を意識的に取り入れたものとなっている。例えば、クリエイティブスキル開発はアゴン(競争)の要素を、実験的「遊び化」プロジェクトはアレア(運)とイリンクス(眩暈)の要素を、クロスファンクショナル・クリエイティブラボはミミクリ(模倣)の要素を体現している。

中期的アプローチ(2027-2028年)

World Economic Forumの2023年レポート「The Future of Jobs Report 2023」を参考に、組織的な変革と新しい評価基準の確立が求められる段階となる。以下のアプローチを提案する:

  1. 新評価基準の確立
    従来の生産性や効率性に基づく評価から、創造性や芸術性、エンターテイメント性を含む新しい評価基準を導入する。例えば、「アイデアの革新性指数」や「感情的インパクト度」などの指標を開発し、従来の KPI と並行して使用する。

  2. エンターテイメント型ワークスペースの構築
    オフィス空間の一部をエンターテイメント型ワークスペースとして再構築し、新しい働き方の実験場とする。没入型VR会議室や、インタラクティブなデータビジュアライゼーション空間など、従来のオフィス概念を覆す空間を創出する。個人的には会社=図書館&映画館&ライブ会場&レストランでいいんじゃないかと。タスクはAIが自律的にやるんだし。

  3. 創造的人材育成プログラムの本格展開
    従来の業務スキルに加えて、創造的表現力や感情的知性を重視した人材育成プログラムを展開する。芸術家やデザイナーとのコラボレーションによるワークショップや、没入型の創造性開発リトリートなどを実施する。

  4. AI共創プラットフォームの構築
    人間とAIが共に創造的な活動を行うためのプラットフォームを構築する。このプラットフォームでは、AIが提案するアイデアを人間が洗練させ、さらにそれをAIが発展させるという、創造的な対話のループを形成する。

  5. 「仕事as芸術」フェスティバルの開催
    従業員の創造的な仕事の成果を芸術作品として展示・評価する社内フェスティバルを開催する。このイベントを通じて、仕事の芸術的価値を社会的に認知させ、新しい働き方の可能性を広く発信する。

これらの中期的アプローチも、カイヨワの遊戯論の要素を取り入れている。新評価基準の確立はアゴン(競争)の要素を、エンターテイメント型ワークスペースはイリンクス(眩暈)の要素を、AI共創プラットフォームはアレア(運)とミミクリ(模倣)の要素を体現している。

まとめ:新しい働き方の展望

カイヨワの遊戯論的視点と日本の現状分析、そして歴史的な価値観の転換事例を総合的に考察すると、AGI時代における仕事のエンターテイメント化は、単なる予測を超えた必然的な進化の方向性として浮かび上がる。

特に日本の文脈では、この変革は以下の意義を持つ:

  1. 生産性のパラドックスからの解放
    長時間労働と低生産性のジレンマに悩む日本の労働環境において、仕事のエンターテイメント化は、創造性と効率性の新たな統合をもたらす可能性がある。従来の「頑張り」の概念を、より創造的で付加価値の高い活動へとシフトさせることで、真の意味での生産性向上が期待できる。「頑張ったら負け」とテレビ放送で言い放った昔のニートの発言は、当時でも現代でも生理的に受け付けない真面目な方々が日本人には多いと思うが、もしかするとAI前提社会の未来を無自覚に予言していたのかもしれない。さらにいえば生産性は頑張るという概念とは無関係であるだけでなく、反比例するものとも言える。頑張るという呪縛からいよいよ開放される時代が来ているのかもしれない。

  2. 創造性と効率性の新しい統合
    AIによる効率化と人間の創造性の融合により、これまで二律背反と考えられてきた創造性と効率性の統合が可能となる。日本の緻密さへのこだわりと、AIがもたらす高速処理能力を組み合わせることで、新たな価値創造のモデルが確立される。

  3. 働く意味の本質的な再定義
    仕事を単なる生計の手段や社会的義務としてではなく、自己実現と創造的表現の場として再定義することで、働くことの意味そのものが変容する。これは、日本社会に根深い「働きすぎ」の文化を変革し、より豊かで充実した人生の実現につながる可能性を秘めている。経営は顧客志向だといっても社員の自己犠牲に成り立っていては持続性はないだろうし本質的な顧客価値は生まれない。仕事は自己表現やアートのための手段であると捉えれば、従来にない価値や眠れる社員の潜在能力をより発掘することすらできるだろう。

  4. グローバル競争力の新たな源泉
    仕事のエンターテイメント化を通じて培われる創造性と感性は、日本の新たなグローバル競争力の源泉となりうる。特に、日本の文化的特性(例:「おもてなし」の精神、美意識)を活かした独自の仕事スタイルは、国際的に差別化された価値を生み出す可能性がある。海外の観光客から見たら、酔っ払って道路で眠りこけているサラリーマンでさえもネタになるようでドキュメンタリー映画ができてしまっているくらいですから。まだまだ私たち日本人にとっては当たり前すぎて、あるいは無駄なもの、忌み嫌うものの中に眠れる価値が発見できるかもしれない。仕事しないで酔っ払って新橋の道路で寝ていること(危ないから推奨はしない..)がお金を有む仕事に昇華してしまうかもしれん。そういう意味のわからない活動にしか人間がタッチして価値をうめる領域はなくなっていくのではないだろうか。

  5. 社会問題への創造的アプローチ
    仕事を創造的活動として捉え直すことで、高齢化や環境問題といった社会課題に対しても、より革新的で効果的なソリューションを生み出す可能性が高まる。従来の枠組みにとらわれない自由な発想が、複雑な社会問題の解決につながることが期待される。

結論として、2028年に向けた日本の働き方の変革は、単なる技術的な適応を超えた、文化的・社会的なパラダイムシフトとなる可能性が高い。この変革を成功させるためには、技術革新への対応だけでなく、仕事に対する根本的な価値観の転換が必要となる。

カイヨワの遊戯論を基盤とした新しい仕事観は、日本社会に深く根付いた「真面目さ」や「勤勉さ」といった価値観と、創造性や遊び心を巧みに融合させる可能性を秘めている。この融合こそが、AGI時代における日本独自の競争力となり、より豊かで持続可能な社会の実現につながるだろう。

今後の研究課題としては、この新しい仕事観が実際の生産性や従業員の幸福度にどのような影響を与えるかを定量的に分析すること、また、教育システムや社会保障制度などの関連する社会システムをどのように適応させていくべきかを検討することが挙げられる。

AGI時代の到来は、私たちに仕事の本質を問い直す機会を提供している。この機会を活かし、テクノロジーと人間性の調和を図りながら、より創造的で充実した社会を築いていくことが、我々の世代に課された重要な使命であると言えるだろう。

出典・参考文献

  1. Frey, C. B., & Osborne, M. A. (2013). "The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?" Oxford Martin School.
    https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/future-of-employment.pdf

  2. Autor, D., Mindell, D., & Reynolds, E. (2020). "The Work of the Future: Building Better Jobs in an Age of Intelligent Machines" MIT Work of the Future.
    https://workofthefuture.mit.edu/wp-content/uploads/2021/01/2020-Final-Report4.pdf

  3. Brynjolfsson, E., & McAfee, A. (2014). "The Second Machine Age: Work, Progress, and Prosperity in a Time of Brilliant Technologies" W. W. Norton & Company.

  4. World Economic Forum. (2023). "The Future of Jobs Report 2023"
    https://www3.weforum.org/docs/WEF_Future_of_Jobs_2023.pdf

  5. McKinsey Global Institute. (2023). "The State of AI in 2023: Generative AI's Breakout Year"

  6. Caillois, R. (1958). "Les jeux et les hommes" (邦訳:多田道太郎・塚崎幹夫訳『遊びと人間』講談社学術文庫, 1990)

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