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渋沢栄一の新紙幣で考える信用創造

本当の信用創造をおさらいしよう


前回、信用創造とは実際にはどのように行われているのか、ということについてお話しました。

普段、金融機関で融資やローンの事務に携わっている人にとってはとても分かりやすかったと思います。

一言で言うと、信用創造とはあの教科書に書いてあるような方法ではなく、・・・・

「銀行が貸出を行う際は,貸出先企業Aに現金を交付するわけではなく,Aの預金口座に貸出金相当額を入金記帳する。つまり銀行の貸出の段階で預金は創造される」・・・・

出典:全国銀行協会金融調査部編『図説わが国の銀行(2000年版)』

つまり、銀行が融資を行うと同時に同額の新たな預金が生み出される、ということでした。

教科書に載っている信用創造の説明は「又貸し説」とも呼ばれていて、「銀行は預金者から預かったお金を融資している」という考えに基づいています。ですが、実際には、そのような事実は確認できません。

信用創造を中心にお金の性質を理解できるよう、色々な側面から解説していきます。今日は、ちょうど新紙幣が出て数か月というタイミングでもありますので、現金と預金の関係についてお話します。

その新紙幣、どうやって手に入れましたか?


2024年9月時点では、私の財布には新紙幣と旧紙幣が混在しています。
新紙幣で揃えたい気分になりますが、レジで使うのは旧紙幣がいい、と思ってしまいます 笑

さて、あなたの財布の中にある渋沢栄一さんの1万円札は、どのようにしてあなたの財布の中に入ったでしょうか?1万円札は最高金額の紙幣ですので、お釣りとして受け取ることはありえないですよね。

ですので、その渋沢栄一の1万円札はみずほ銀行のATMからお金を引き出した時に入手できたのではないでしょうか?

次にあなたの財布の中にある旧紙幣の1000円札(野口英世)はどうでしょう。みずほ銀行のATMで引き出したかもしれませんが、お買い物をしたときにレジでお釣りとして受け取ったという可能性もありますね。

その1000円札が過去どのような変遷をたどって、あなたの財布に入ったのでしょうか。それは誰にも分かりません。

あなたの知り合いもその1000円札を使ったことがあるかもしれないし、コンビニのレジや自動販売機の中に入っていたことがあるかもしれないし、何度か預金口座へ入金されたことがあるかもしれません。

あなたの財布の中にある1000円札がたどってきた歴史を全て知ることはできないけれど、一つだけ確実に言えることがあります。それは、
その1000円札は、最低1回は預金口座から引き出されたことがある
ということです。実はここがとても重要です。

現金と預金の親子関係を理解しよう


あなたは子供のころ、親からもらったお年玉を銀行や郵便局に預けたことがあるかと思います。また、給料日にはみずほ銀行のATMで預金口座から現金を引き出すと思います。

一度引き出された現金は世の中を転々と流通していき、いつか、あなたとは別の誰かが三井住友銀行に預けるかもしれません。

つまり、預金と現金は交換することが可能で、現金を引き出すと預金残高は減り、現金を預け入れると預金残高は増える、という関係があります。銀行員でなくても理解できる、当たり前のことですよね。

さて、ここであなたにひとつ考えてほしいことがあります。
『ニワトリが先か、タマゴが先か』という言葉がありますが、現金と預金についてはどうでしょうか。

預金残高があれば現金を引き出すことができるし、手元に現金があれば、銀行に預けることで預金残高を増やすことができます。となると・・・

現金と預金はどちらが先にこの世の中に現れたと思いますか?

あなたはお店でお釣りを受け取ることがありますが、それはあなたが受け取る前から世の中を流通していた現金です。

今、問題にしているのは、そもそも最初に現金を手に入れるにはどうしたらいいのか、と言い換えることもできます。

答えを言うと、

現金よりも、預金が先に生まれています

現金のうち日本銀行券、つまりお札は国立印刷局が印刷を行い、日本銀行が発行するものです。

そして、一般人は日銀から直接お金を受け取ることはあり得ません。銀行などの金融機関を通じて現金は世の中に流通していきます。

また、当然のことですが、民間銀行もタダで日本銀行から現金を貰えるわけではありません。

日本銀行は『銀行の銀行』と呼ばれており、銀行が自分の名義の口座を持っています。具体的にはみずほ銀行や三菱UFJ銀行が日銀に預金口座を持っているということです。

この預金のことを「日銀当座預金」と言います。銀行は日銀当座預金から引き出す形で、現金を手に入れて手元に持っておきます。そうやって預金者からの引き出しに備えているのです。

要するに、民間銀行も日銀当座預金残高があるからこそ、現金を入手することができるし、一般の個人や法人も預金残高があるからこそ現金を引き出すことができる、ということです。

どうでしょう。ものすごく初歩的なことですので、誰でも理解できると思います。

ハッと、気が付いてほしいこと

現金を引き出すために預金残高が必要、そんなの当り前じゃないか、ばかにするな、と思ったかもしれません。

一般的に、銀行は預金者からお金を預かって、そのお金を誰か別の人に貸していると言われることがありますが、ちょっと落ち着いて考えてみましょう。

銀行に持ち込む現金が手元にあるということは、その現金はもともと銀行預金だった時代があるわけです。その時点から考えると、一度預金口座から引き出されたお金が再び預金の形に戻るだけだということに気が付いて下さい(引き出す銀行と預け入れる銀行は別かもしれませんけどね)。

一般の個人や法人が自分でお札や硬貨をつくって銀行に預け入れることはできません(やったら犯罪になります 笑)。

日銀から民間銀行、民間銀行から一般の個人法人へと渡った現金が再び銀行預金の形に戻される、というのが銀行への現金の預け入れの本質です。

具体的な金額も確認してみましょう。
2024年6月末現在、日本国内に現金は約124兆円、銀行預金は約1,734兆円、日銀当座預金は552兆円存在しています(日銀・資金循環統計)。圧倒的に多いのは銀行預金ですね。
銀行預金が大きいのはもちろん「信用創造」の結果です。

ただし、教科書に書いてあるような信用創造ではなく、融資と同時に生み出された預金です。
(銀行融資以外にも銀行預金が増える場合があるのですが、話がややこしくなるので、また今度書きます 笑)

今回はここまでとします。


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山岡さとる
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