図録とともに美術展を振り返る(4) 〜『ルノワールとパリに恋した12人の画家たち』
「場所もとるし、もう図録を買うのはやめよう」とずいぶん断捨離もしちゃったんだけど、あるきっかけで「やっぱり美術展の図録はなるべく買うことにしよう」と心変わりした。
このシリーズでは、行った美術展の図録を読み込んだり、家に残っているいくつかの図録を見返したりしていきます。他のはこちらにまとめていきます。
(※図録:美術展や展覧会で販売されるカタログのこと)
横浜美術館開館30周年記念「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」に友人たちと行ってきた。
会期は2020年1月13日まで。
パリは「オランジュリー美術館」の、主に印象派、新印象派、エコール・ド・パリなどの絵画を集めた「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム・コレクション」から69点の絵画作品が来ている。
行ったのは日曜(昨日)だったけど、なんか空いていた。
なかなか充実した展示だし、JR桜木町駅から5分くらいのところなので、行ける人はぜひ。
ちょっと題名がファンシーだけど(パリに恋した12人、って何?w)、いい展示でした。
例によって図録を。
2300円だったかな。いつもながら、この装丁と分厚さでこの値段は安い。図録はオトク。
図録にこの展覧会の主旨が書いてある。
一部、引用しよう。
ポール・ギヨームは1920年代のパリで最も重要な画商の一人でした。
彼はマティスやピカソの作品を扱い、モディリアーニやスーティンの才能を見出し、アフリカやオセアニア美術のマーケットを切り拓くことで流行を牽引しました。
狂乱の時代において彼が開催した先鋭的な展覧会の数々は、詩人ギヨーム・アポリネールやトリスタン・ツァラの助言や批評を糧に実現されたものでした。
そしてポール・ギヨームは、デ・キリコやローランサン、ユトリロらを紹介し、新しい具象絵画を擁護しました。それらの多くが、現在ではエコール・ド・パリの傑作として高く評価されているものです。
↓これがモディリアーニが描いた、ポール・ギヨームの肖像。
いい絵だ。若いときの伊武雅人か、んー、こういう顔の若い役者いるよね、誰だっけな。
さて、69点もの絵画が出展されているのだが、展示順にざっと作家名を挙げると、
アルフレッド・シスレー
クロード・モネ
オーギュスト・ルノワール
ポール・セザンヌ
アンリ・ルソー
アンリ・マティス
パブロ・ピカソ
アメデオ・モディリアーニ
キース・ヴァン・ドンゲン
アンドレ・ドラン
マリー・ローランサン
モーリス・ユトリロ
シャイム・スーティン
この中では、ボクの好みは、断然、セザンヌ、マティス、シスレーなのだけど、今回はそれに加えて、ふたり、発見というか、「いいなぁ」と思った。
アンドレ・ドランと、シャイム・スーティン。
69枚ある中で、どれを家に飾りたいか、と言われると、そのドランと、スーティンと、あと、セザンヌの3つ、かな。
その3枚を並べてみよう。
まず一枚目。
アンドレ・ドラン「座る画家の姪」The Painter's Niece,Seated
アンドレ・ドランとか、有名な『アルルカンとピエロ』の絵(↓下の絵)くらいしか知らなかったけど、この「姪」の絵はとてもグッときた。
なんかしっかり造形されている左腕に比べて右腕が背景に溶け出していて、その細かい効果が全体にとても影響を与えていると思った。
上の写真よりずっと繊細で美しく、ずっとこの絵の前にいたくなる。
アンドレ・ドランは、マティスやヴラマンクとともにフォーヴィスムを生んだ一人。
そのころの『チャリング・クロス橋』(↓)とか、とてもいいと思う(これは今回の展示にはないけれど)
ただ、いろんな作風を変遷していっている人で、1921年、41歳のときのイタリア旅行を機に作風が新古典に回帰したらしい。
このポール・ギヨームのコレクションは、そのイタリア旅行以降のもの。全体に落ち着いているし、とても抑制が効いている。
ドランでは、他に『台所のテーブル』や『美しいモデル』も良かったな。
個人的には、ドラン発見! という気分。
家に飾りたい二枚目はスーティン。
これも発見!な気分。
知らなかった。でも、えらくインパクトがあるのと、ちょっと狂気じみた絵がなんか目を離さない。
シャイム・スーティン「聖歌隊の少年」Altar Boy
有名という意味では、菓子職人の連作が出世作で、アメリカのバーンズ・コレクションが買い上げて、彼は一躍有名になる。
でも、ボクは菓子職人は少しあざとく感じて、この『聖歌隊の少年』のほうが感じるものがあった。服とかにいろんな色彩が細かく使われているのも好みに近い。
スーティンかぁ、知らなかったなぁ。
牛や七面鳥の屠殺体の絵も妙な迫力があって目を釘付けにした。
で、三枚目。
ポール・セザンヌ「りんごとビスケット」Apple and Biscuits
ボクはセザンヌの中でも、果物の静物が好き。
ゴリッとした存在感と重量感がすごい好き。果物に含まれた水分の重さがしっかり感じられるところがなんとも堪らない。
そして、この全体のバランス。
いやぁ、いいなぁ。。。
次点としては、これ。
マリー・ローランサン『マドモアゼル・シャネルの肖像』Portrait de Mademoiselle Chanel
ココ・シャネルはこの肖像画が気に入らず、受け取りを拒否。
それに対してローランサンが「シャネルは有能だけれど、オーヴェルニュの田舎娘よ。あんな田舎娘に折れてやろうとは思わないわ」と言い放ち、肖像画を描き直すことはせず、手元に置いていたらしいw
いいなw
ローランサンの色遣いとか、ちょっとファンシーめで好きではないのだけど、この絵はとてもいいと思った。
次点でもうひとつ。
アンリ・マティス『ヴァイオリンを持つ女』Woman with a Violin
マティスは本当に好きなんだけど、今回はそんなに好みの絵が来ておらず。
でも、これはイイな。
あー、マティス、集中的に見たい。
展示以外では、夫ポール・ギヨームと、妻ドメニカ夫人、それぞれの部屋の写真と模型が展示されていて、その方向性や飾ってある絵の対比がめちゃくちゃおもろかった。
というか、ポールとドメニカ、いろいろな逸話があるようでw
↓本当かウソか、裏を取ってません。
でも、アートを知るに従い、画商やパトロンとの関係がすごく重要だとわかってきた。そりゃそうだ、そういう人がいなければ画家も喰えないもんね。ある種のプロデューサーか。
とりあえず、今回のでポール・ギヨームがわかったし、コートールドも前回(↓)知った。面白いな、コレクションて。
・・・ということで。
実は横浜美術館の常設展示で川瀬巴水が出てて、それがとっても良かったので、そのうちちょっと追ってみたい。