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「さるの尾はなぜ短い」を聞く人間と、時々くま。

一人ぼっちで寒くて、そして暗くって、誰も助けに来てくれな」い森の木に小さな電球を吊るして光を灯した。
 今日も眠れない。
 光の届く小さな輪の中にいれば、少しホッとする。
 そんな夢の中で。

 さるが林檎をかじりながら、言う。
「なぁ、人間さん。くまってのは、昔から嘘つきだって知ってるかい」
「そうなの?」
「そーなんだよ。ほら、人間さんのとこに来たくまも『ランプの妖精』だって言ったり、『私』って言ったかと思えば、『俺』って言って、しまいには『誕生日』だって嘘ばっかりさ」
「人を困らせない嘘じゃないか」
 さるが鼻で笑う。
「人は困らせないが、さるは困らせるんだよ、これが」
「困らされてるの?」
「いっつもさ」
「そっか。仲良くできないのかな?」
「どうかな。くまの方が魚を上手に取るしな」
「けど、木登りはさるの方が得意なんじゃないの?」
「木登りはそりゃあ、体格の違いだな」
「くまが魚を上手く取るのも、体格の違いじゃないかな」
「そりゃあ、そうだが、なんだ? 人間さんはくまの味方なのか?」
「味方ってほどじゃないけど、一緒にブランデーを飲んで、誕生日をお祝いした仲だからさ」
「じゃあ、おれとは何をしたら味方になってくれるんだよ」
「しばらく、一緒に喋ってくれたらだよ」
「いいね。よーし、なにを喋ろうか」
 そう言われると難しい。
「さるさんは、くまさんに昔も嘘をつかれたの?」
「酷い嘘をつかれたんだ。そのせいで、おれは顔が真っ赤になったんだよ」
「それはまた、どんな?」
 と尋ねると、さるは嬉しそうに笑って林檎を全部食べて、手についた果汁も綺麗に舐めとった。
「まずな、おれは三十三本の尻尾があったんだ」
「あれ? いまは?」
「一本だよ」
「三十二本の尻尾はどこにいったの?」
「これがくまのせいなんだよ」
 さるの主張は以下のようなものだった。

 くまがあまりにも綺麗に魚をとるので、さるは川の魚をたくさんとるにはどうすればいいか、くまに相談をした。くまが言うには、よく冷えた日の夜に川へ行って、岩に座り、さるの尻尾を水の中につけておくと良い。そうすると、魚が尻尾にくっついてくるよ、とアドバイスしてくれた。
 さるは喜んでくまの言う通り、うんっと冷えた夜を選んで川へ出かけていった。夜が深まっていくにつれ、段々としっぽが重くなっていき、さるは魚が食いついているんだと嬉しくなって待ち、充分と重くなってから、尻尾を引き上げようとした。が、まったく持ち上がらない。
 確認してみると、どうやら川面が凍ってしまったらしい。パニックになったさるは力任せに尻尾を引っ張ったところ、その尻尾が根元から切れてしまった。更に、その時に力を入れすぎたのか、翌朝さるの顔は真っ赤になっていた。

「つまりだ。この顔が赤いのは、くまへの怒りが続いているからなんだよ」
 とさるは熱弁する。
「うーん」
「なんだよ、人間さん。おれの話を聞いて、まだくまの肩を持つのかよ」
「さるさんの気持ちも分かるんだけどね」
「歯切れが悪いなぁ」
「そうかな? というか、昔のさるさんは素直だったんだね」
「ひねくれたのも、顔が赤いってリスや犬なんかにからかわれたからだよ」
「僕は顔が赤いのも可愛いと思うけどね。お風呂とかに入っている姿も様になるし」
「そうかな?」
「そうだよ。カラスは赤い顔は好きなんじゃないかな」
 実家の真っ赤に熟れたミニトマトをカラスが全部食べてったことあるし。
「カラスかぁ、アイツら雑食でグルメなおれとは話が合わないんだがなぁ。けど、今度メシでも誘ってみるか」
 顔は赤くなっても、根っこは素直なまんまなのね。
「今度、ここにもカラスと一緒においでよ」
「まぁマブダチになったら、一緒に来てやるよ。そん時は林檎、ちゃんと用意しとけよ」
「分かったよ。その時は焼き林檎を一緒に作ろう」
「焼き林檎! あれは邪道だよ。林檎は生が一番だよ」
「いや、中々美味しいけどなぁ」
「おれは、マクドナルドのメニューの中で唯一ホットアップルパイだけは許してねぇんだ!」
 さすがグルメ。
 というか、さるもマクドナルドとか行くのね。

 別の日。
 やっぱり眠れない夜、くまが姿を見せた。
「この前、さるさんが来ましたよ」
「怒ってました?」
「嘘つきだ、って思いっきり」
 くまは苦笑いを浮かべた。
 僕はそのまま続ける。
「本当に、くまさんは嘘をついたんですか?」
「魚の取り方の話ですね」
 頷くと、くまが言う。
「まさか氷が張るまで、尻尾を川につけておくとは思わなかったんですよ」
「よくばりだったんですね」
「更に、氷で尻尾が引き抜けなくなって、森の動物を呼ぶでもなく自分で引き抜いちゃうなんて、思わなかったんですよ」
「ちょっと、意地っ張りだったんでしょうね」
「まぁでも、言ったのは真実ですからね。今でも罪滅ぼしにさるが休んでいる木の下に毎日、林檎を置いているんです」
「生の林檎を」
「ええ、焼き林檎だと怒るので」

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