【小説】西日の中でワルツを踊れ⑲ 人殺しの「名前」をぼくは口にする。
前回
運転席に山本が座り、ぼくと田宮は後部座席に並んで座った。田宮は、とりあえず町中を走れと山本に言った。
「分かりました」
車が走り出してから、田宮は運転席を蹴った。
「おい、運転手。お前、なに者だよ? チャンさんと顔見知りみてぇだけどよぉ?」
山本は何の動揺もなく返答を口にする。
「私は少し前まで中学校の校長をしておりました。なので、この町に残った元生徒の成長を地肌で感じており、顔も広いのです。チャンさんとは、うちの生徒が一度お世話になったことで知り合いました」