【新春ショート】トラを起こすな
「あ、そこ、トラがいるから、気をつけて」と言われて、ぼくは「あぁ」となった。こたつの中にトラがいた。ねこはこたつで丸くなるけど、トラもそうなのだろうか。でも、トラは大きすぎて、こたつから頭と脚がはみ出している。
トラの呼吸音が聞こえる。寝ているみたいだ。
「何日か前から、住み着いているんだ」と、友達は言った。
「平気なのかい?」と、ぼくは聞いた。
「平気じゃないさ。寒いもの」
どうやら友達は、トラのせいでこたつに入れないらしい。
そこへ、トコトコと白いねこがやって来た。友達の飼っている猫だ。
ねこは、寝ているトラの耳のところを、ピッとパンチした。
「大丈夫なの?」と、心配になって、ぼくは聞いた。
「うーん」と、友達は腕を組んで考えている。その間に、またねこはトラの頭をパンチした。
「こら、やめなさい、トラ」ようやく友達が、注意した。この、トラというのは、今寝ているトラのことではなく、白いねこの名前だ。白猫なのに、トラという名前をつけてしまったばっかりに、今のこの状況は、より複雑になってしまっている。と、ぼくは思った。
「にゃー」と、トラがこっちを見て、反抗的な顔をした。
そして、トラも、目を覚ました。
トラとトラはみつめあい、何かを話しているようだった。
やがて、トラは、また目を閉じた。
トラは、こちらにやって来た。白いほうだ。そして友達の前に来ると、報告した。
「そうか。わかった」と、友達は言った。
「なんて?」と、ぼくは聞いた。
「トラはね、悩みが一つなくなっても、また次の悩みが出てきてしまって、その悩みがなくなっても、また、次の悩みができてしまって、その繰り返しばっかりで、もう、嫌になってしまったんだって。だから、どうせ悩みを解決しても無駄だとわかったから、もう、悩みを解決しないことにしたんだってさ。そうしたら、もうやることがなくなって、寝るしかないんだってさ」と言った。
トラにも悩みがあったんだなぁ。ぼくはそう思って、寒さに震えた。