【ネタバレ有】映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』レビュー&少し考察
【7/1 少し追記】
2023年に公開された映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』。2018年に公開された映画『スパーダマン:スパイダーバース』の続編です。前作よりさらに、マルチバースの世界に踏み込んだ内容になっていました!
今回もネタバレありの感想と考察を少しだけ。
ヒーローとヴィラン、スパイダーマンとザ・スポット
本作のヴィランは「ザ・スポット」。かなりユニークな悪党です。よくいる、変なパワーを持った小悪党、という印象。マイルスとの戦闘も、コミカルで思わず笑ってしまいます。スポット本人もめちゃくちゃ悪い奴という感じでないのも素敵です。「このパワーで世界を征服するぞ!」ではなく、「こんな見た目じゃ働き口もなくて……ATMからちょっと拝借したくて……」という犯罪なのもユニーク。
犯罪は犯罪ですし悪い奴なのですが、犯罪の規模も小さく、人を直接傷つけたいわけでもない。なんだか愛嬌のあるやつなのです。憎めないキャラクターなのも魅力的。
彼はこのパワーで悪いことをしたい人ではありません。彼は「自分を認めてほしい」「自分の居場所がほしい」だけ。もし、彼に友達がいれば……もし彼のパワーも彼自身も認めてくれる人間がいれば……。そして、もし彼を導いてくれる人間がいたら。スポットはヒーローにもなれたかもしれません。
彼はもしかすると、「自分と同じように人間を超えたパワーを持った人間・スパイディなら自分のことを理解してくれるかもしれない。助けてくれるかもしれない」と考えたのかも。
しかし、実際はスパイダーマンに「よくいる小悪党の1人」として扱われます。こんなに自分は他の人間と違うのに。自分は何者なんだ? 無視できない相手だと認めてくれ! とスポットの感情は爆発します。
ヒーローとヴィラン、バットマンとジョーカー
このスポットとスパイディの関係に既視感を覚えませんか? この2人は、バットマンとジョーカーの関係に似ているように思います。
DCコミックスのヒーロー・バットマンとヴィランのジョーカー。2人は表裏一体の存在として描かれています。2人は似たような狂気を持ちながらも、1人はヒーロー、1人はヴィランとしての道を選びました。似ているからこそ、ちょっとしたきっかけでヒーローはヴィランに、ヴィランはヒーローになるかもしれない。そんな危うさが2人にはあります。
そんなバットマンの作品で印象深いのが、映画『レゴバットマン ザ・ムービー』。ジョーカーは、「自分はバットマンにとって無視できない存在だ」と思っていますが、バットマンに「ただの悪党の1人だ」としか認識されていないと知り傷つきます。そして、自分を認めさせるためにとんでもない作戦を立て……。
バットマンとジョーカーは似ていて、コインの表と裏のような存在。しかし、一方に拒絶されることで、片方のアイデンティティが揺らいでしまう……というストーリーです。
マイルスとスポット、コインの裏と表
本作のマイルスとスポットの関係にとても似ています。ユニバースをまたぐ特別なヒーローと特別なヴィラン。
スポットは「自分は何者なのか」探していますが、それはマイルスも同じです。仲間は別のユニバース、メイおばさんも引っ越して、家族にも相談できず、この町でただ1人のヒーローとして孤独に戦っています。私生活でも、どの進路に進むべきか迷っているところ。「自分は何者なのか」「自分の居場所」を探している最中なのです。
マイルスが気付いていないだけで、マイルスとスポットは似た者同士なのかもしれません。でもスポットを拒絶したことで、スポットは不安定に……。
同じくマイルスも、ほかのスパイダーマンに拒絶され、友人からも離れてしまいます。さらに、自分は本来「スパイダーマン」になるはずがなかったことを知ってアイデンティティが揺らぎます……。
スパイダーマンとスポット、ヒーローとヴィラン。他の作品のヒーローとヴィランと同じように彼らはコインの表と裏のような存在なのかもしれません。
数あるユニバースの中でも仲間外れの2人は、この先どんな結末を迎えるのか……。
「スパイダーマン」の心の中
本作にはたくさんの「スパイダーマン」が登場します。そして、そのほとんど全てのスパイダーマンが同じ経験をしていることが明かされました。
「愛する人の死」。スパイダーマンをスパイダーマンたらしめているのは、この悲しみと苦しみ。これがあるからこそ、「スパイダーマン」になるのです。
しかし、マイルスは「何か道があるはず」と否定します。そしてグウェンも「何か別の手があるのでは」と悩んでいる様子。スパイダーマン・インディアもマイルス側につきました。愛する人を失わなかったことを否定されるのはたまらないでしょう。
多くのスパイダーマンは理性的に「愛する人を失うことを受け入れ」、でも少数のスパイダーマンは「そんなのおかしい」「何か道があるはず」と感情を前に出す。
多くの理性が感情を抑え込む。
スパイダーマンたちがマイルスを追いかける構図は、1人のスパイダーマンの心の葛藤を映し出しているように感じました。
どのスパイダーマンもマイルスと同じ感情を抱えているのです。「大いなる力には大いなる責任がともなう」ことを知っているから、1人の命ではなく多くの命(世界)を救う選択をします。でも心のどこかでは「別の方法があれば……」と願っていることでしょう。
99%の「ヒーローとしての決断」、1%の「1人の人間としての期待」。この1%がマイルス・モラレスです。
マイルスのスパイダーマンたちとの対立は、スパイダーマンの心の中の葛藤でもあるのかも。
どのスパイダーマンも本気でマイルスを抑え込もうとしていますが、どのスパイダーマンもマイルスに希望を持っているのかもしれません。
マイルスの選択とその結末を、私たちだけでなく、他のユニバースのスパイディたちも固唾をのんで見守っています。
まとめ
マイルスがスポットと、自分とどう向き合うのか? 他のユニバースに影響を与えずカノンイベントを回避できるのか……。マイルスが数多くある世界でどんな影響を与えるのか? 続編への期待が膨らみます。
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