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【考察】映画『ザ・クリエイター/創造者』/勝利したのは人間か? AIか? (ネタバレ有)

2023年に公開されたSF映画『ザ・クリエイター/創造者』。近未来の地球を舞台にしたこのSF戦争映画は、SF好きならきっと刺さる作品でしょう。
SF映画のオマージュ等も多く、ギャレス・エドワーズ監督の「好き」が詰まっているのも素敵なところ。

さて、本作のラストシーンを見てこの戦争がどちらに傾いたのか気になった方も多いのではないでしょうか。ギャレス・エドワーズ監督はこの戦争の終わりをどう描いたのか……。
少し考察していきます。

※映画『ザ・クリエイター/創造主』のネタバレがあります


【考察①】フィリップ・K・ディックの世界観


画像出典:映画『ブレードランナー』公式サイト

本作にはフィリップ・K・ディックの作品に強く影響されているように感じました。原作はもちろんですが、映画版のビジュアルにも近いです。
他のAIたちと違って成長する・進化する特別な救世主AIの子ども、日本語・アジア文化のある街並み、自由を夢見るAIたち……。まさに映画『ブレードランナー』(小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)、映画『ブレードランナー2049』の世界です。

ここで気になるのが、フィリップ・K・ディックの作品には、不気味な終わり方が多いこと。AIの勝利と共に、利用した利用された人間の敗北……フィリップ・K・ディック作品のラストにゾッとした方も多いのではないでしょうか。そして、もうひとつフィリップ・K・ディック作品で印象的なのは「信頼できない語り手」の存在。

フィリップ・K・デッィクのSF目線で、本作を考察してみます。

【フィリップ・K・ディックの世界観から観る①】信頼できない語り手

画像出典:映画『ザ・クリエイター/創造者』公式サイト

『ザ・クリエイター/創造者』には回想シーンがありません。主人公ジョシュアは爆発の影響で、潜入捜査時の記憶が薄れているようです。悪夢やフラッシュバックして、過去の「回想」のようなシーンが映し出されますが、それはあくまでもジョシュアの「頭の中で流れた映像」にすぎません。それが「本当の過去」なのか「誇張された悪夢」なのか「記憶が混濁した結果生み出された、無意識に捏造された記憶」なのか分かりません。私たち観客はもちろん、ジョシュア自身にも分からないのです。

「核によるあの事件は、人間の入力ミスだ。人間がAIにミスを押し付けたんだ」とハルンは語ります。しかし、それを言っているのはハルンだけ。その話が本当なのかどうか不明です。
また、ハウエルの言う「息子はAIの「愛している」を信じたら、裏切られて殺された」も本当か分かりません。

AIの話す「AIは無実だ」も、人間の話す「AIは残酷だ」も、回想シーンが全くないことにご注目ください。映画であれば、回想シーンによってその世界の「事実」を私たちは知ることができます。しかし、本作は現実世界と同じように、相手の話だけで「事実」を決めなくてはいけません。この演出にゾクゾクします。

本作は、ジョシュア自身だけでなく、周りのAIや人間たちも「信頼できない語り手」となっているのです。
一体「事実」はどこにあるのか……。
何を信じたら良いのか。

【フィリップ・K・ディックの世界観から観る②】ラスト


画像出典:映画『ザ・クリエイター/創造者』公式サイト

この戦争でアルフィーが生き残り、AIたちは勝利しました。
果たして、本当にAIを勝利させて良かったのでしょうか? 

「AIの勝利がハッピーエンド」と信じてジョシュアやニューアジアの人々、世界中でデモをしていた人間たちは行動していました。
でも、本当に? 

ここで気になるのは大佐の「私の子どもはAIに恋をして「愛している」と言われてそれを信じた。でもそのAIとその仲間たちに殺された」という話。AIも人間と同じように嘘をついて「利用」するのです。
また、人間の進化の話もひっかかります。「道具や文化を持つ原人は他にもいたのに、人間というより最悪な生物によって他は滅んだ」という話。
AIは人間よりも残酷で最悪な「新たな人類」なのかもしれません。

ラストでアルフィーはAIの勝利を見て、屈託のない笑顔を見せます。母親や父親の死を感じさせない表情、涙の後が全くない綺麗な肌。
戦争はどちらかが完全に正しくて、どちらかが完全に間違っている、というものではありません。きっかけがどうであれ、戦いが長引けば長引くほど、正義と悪は混沌としていきます。
勝利しても手放しに喜べるものではなくなってしまいます。
そんな戦争の最後に見せる、善悪の区別のつかない子どもの輝く笑顔のカットは不気味に心に残るのです。

アルフィーは子どもの見た目ですが、中身は高性能のAIです。本当に5歳の子どもなのかどうかは分かりません。自分の見た目も言動もすべて計算のうえだったのなら……。
「子ども」としてジョシュアに近づき、「懐く」ことで感情移入させて、AIの味方にさせて、唯一AIたちが出来ない「マザーの殺害」をさせ、敵内部まで案内させた……。そう考えてしまうと、最後のジョシュアとの会話の「愛している」の意味も変わってしまいます。

その「愛している」は、本当の「愛している」なのか。大佐の息子にAIが言った「愛している」なのか。

物語にある不気味な余白を読んでしまうと、本当にAIを勝利させて良かったのか不安になります。この選択は正解だったのでしょうか。

この先、人類はAIのために「分身」を提供する家畜になってしまうのかもしれません。でも「友人」のように「愛して」もらえるなら、これも悪くないのかも……

【考察②】ギャレス・エドワーズの世界観


画像出典:映画『ザ・クリエイター/創造者』公式サイト

ここまで、フィリップ・K・ディックの世界観で、「バットエンドだったのでは?」と考察してきました。しかし、私はこの作品は善良なAIと人間の勝利だったと信じています。

本作のパンフレットによると、ギャレス・エドワーズ監督は、幼い時に映画『スター・ウォーズ』を見て「反乱軍に入りたい」と願ったのだとか。そして、映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の監督を務めました。
人種どころか生き物も生き方も違う者たちが集まり、「世界の正しさと自由」のために戦う真っすぐなストーリーを愛し作ったギャレス・エドワーズ監督のこのSF作品。「AIが悪者だった」というラストに持っていきはしない……と信じたいです。

まとめ

語られない余白によって様々な解釈ができるSF映画です。
信頼できない語り手たちや真実が分からず、それでも「信じる」ことを選択するストーリーに胸を打たれます。
映画の中の「事実」と同じように、私たちの未来もどうなるのか予想できません。もしかして、本当にこんな未来が待っているのかも……なんて。

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