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姉との再会〜Japan 2022 夏#3

「ただいま。」
玄関を開けると、
「おかえり。迎えに行ったのに疲れたじゃろう?」
と姉の声が2階から響く。

この3年の間に、母は施設へ入り、姉は乳がんの転移で抗がん剤治療中、甥っ子は家を出て自立と、急に実家の様子が変わってしまった。以前は家族みんなで迎えに来てくれていたけど、もう迷惑はかけられない。
「自分達で帰れるから大丈夫よ」と連絡し、タクシーにするか悩みながら、徳山から久しぶりのバスに乗った。

路線バスの良い所は、その地の生活を肌で感じられる所だ。「よっこいしょ」と立ち上がるお年寄りに、ゆっくりと待ってくれる優しい運転手さん。
背中が丸くなった可愛らしいお年寄りを見ると母と重なり
「頑張って」とエールを送りたくなる。

ゆったりした時間
バスカード


急いで玄関へ下りて来た姉は、
「大人になったね!背も伸びた見たい。」と久しぶりに会った姪っ子の変わりように嬉しそうだ。

自分の少しだけ残ってる髪を見せて
「私はこんな感じよ。帽子かぶろうか?大丈夫?」

「ふわふわじゃろう?」

確かに以前の姉の髪は、どちらかと言うと硬いハリのある髪質だった。柔らかくふわふわしたそれを触りながら
「色も茶色くなった?」
と、不思議な事に凄く冷静に話している自分がいた。

日本に帰る数日前。
職場の友達が手を握り「Sisに会っても、あなたは泣いちゃダメよ。泣きたくなったらクローゼットに行って泣きなさい。大変なのはあなたじゃ無くて、お姉さんだからね。楽しんで最高の時間にするの。いいわね。」
それだけ言ってハグしてくれた彼女の目は涙でうるんでいた。
私も「Thank you」が声にならず
「分かってるよ」と彼女を見つめてうなずくのが精一杯だった。

母が玄関に飾っている娘の絵


「シーツも洗い立てで、布団も干しておいたから、とりあえずここに荷物を置いてゆっくりしてね。」そう言うと、姉はバタバタと仕事に出かけてしまった。

Welcome homeのケーキは姉の友達から

くつろぐ暇もなく、実家に着く時間に合わせて送っておいたスーツケースが、成田空港から届く。
2時以降の指定で、きっちりと2時過ぎに届くところは、さすが日本。今回は、母を気にかけて下さっていたご近所さんや、私の代わりにいろいろ手伝って下さった姉の友達へのお土産でスーツケースの中はいっぱいだ。

帰れなかった間、姉は乳がんの手術をし、翌月に義兄が心臓の手術。母の自律神経が不安定になり、介護をしながらのホルモン剤治療。休みの日には、母と自分の病院に施設探し。そして、母のグループホームへの引越し。それから一年後に遠隔転移してしまったのはストレスのせいではないか、私が帰ってあげられていたら…と今でも人生の中で一番の後悔をしている。でも、もう時間は戻らないし遠隔転移してしまったら、もう寛解は難しい。

今の状況は、最初の抗がん剤のゼローダが効かず肝転移が大きくなってしまい数ヶ月で断念。
認可されている抗がん剤が全て長く使えれば、5年生存の可能性も高いけれど、姉の場合はアルコールが入ったものは副作用が多くでるリスクで使えない。遺伝子検査をすると、治療効果が期待出来る分子標的薬がないとの診断。これはアメリカに送られて検査するので、検査結果が英語の書類だった。使える薬が思っていたよりも少なくなってしまったから、現在投薬中のドセタキセルが長く効いてくれている事を祈るばかり。
抗がん剤は、最初は効いていても体に慣れると効かなくなるらしい。姉の様に最初から合わない薬が沢山ある場合もあるし、初めてもいろんな理由で完走出来ない場合もある。進行性乳がんは寛解は無いから、今ある抗がん剤を使い切ると治療がなくなってしまう。辛い治療も「治るかもしれない」と言う希望があれば乗り切れるけれど 、人生の最後まで副作用で苦しめられると言う告知は、メンタルが強くないと鬱になる人も多いと聞く。現にポジティブな姉でも、そうなりそうだったから、病気よりメンタルのサポートが必要だった。だから、リラックス出来るお茶を買って送ったり、毎日電話して一緒に泣いた。

甥っ子や義兄にも会えて、彼らが私以上に悲しい思いをしているのが伝わった。私がしばらくいる事で少し安心した様子を見ると、家族の為にも本当に帰れて良かったと心から思う。

家族と一緒にコーヒータイム


今の姉は、生きていると感じたい。病気だからと気を使われるよりも、今動けるうちは立ち止まらず、やりたい事をやり続けたい。
休んでいる時間が勿体無いかの様に動き回る。それを見ていると、病気だからとやる事に制限を付けないで、やりたい事を思いっきりやらせてあげたい。そばでサポートしながら一緒に笑顔で楽しむ!
応援する側があきらめてはいけない。泣くなんて失礼なんじゃないか、と思えて前向きな気持ちになった。

薬の副作用で体重が増えたと気にする姉に、食事だけはなるべくヘルシーに、ランチとディナーは野菜たっぷりで作っている。でも食べたいものは気にせず食べる。

甥っ子も来てノンアルで乾杯

いつどうなるかは分からないから、今この瞬間が最高のものになるように、一緒にこの3か月を楽しむ。そんな二人三脚の生活が始まった。

実家から見える「ゆめ風車」が以前より輝いて見える


つづく。


前回の「久しぶりの福岡天神〜Japan 2022 夏#2」もnote公式マガジンに追加していただきました。ありがとうございます。

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