ブレンデッドファイナンス
サステイナブル・ファイナンスへの取り組みが国内外で本格化しています。今、民間セクターの資本を呼び込む投資のストラクチャーとして公的資金や民間の投資、融資を組み合わせたブレンデッド・ファイナンスが注目されていますので、それについていろんな観点から掘り下げていきたいと思います。
ブレンデッドファイナンスとは
「ブレンデッドファイナンス」とは、気候変動の対策に資金を供給するためのアプローチの一つです。このアイデアは、元英国中央銀行総裁のマーク・カーニー氏によって提唱されました。彼は、金融システムが気候変動のリスクにどのように対応すべきかについての議論を主導してきました。また、国際的な気候関連の金融情報開示タスクフォース(TCFD)の支持者としても知られています。マーク・カーニー氏は、当時の金融安定理事会(FSB: Financial Stability Board)の議長として、企業が気候変動に関連する金融リスクをどのように考慮し、公開するかに関する国際的な枠組みの必要性を感じていました。彼の提案とリーダーシップの下で、FSBは2015年にTCFDを設立し、業界の専門家やステークホルダーからなるグループがこのタスクフォースの枠組みと勧告の作成に取り組んだのです。そして、彼が推し進めているブレンデッドファイナンスは、気候変動への対策に必要な膨大な資金を調達するために、公的資金と私的資金を組み合わせることを指し、現在、発展途上国の開発ファイナンスに利用されています。COP28には、ドバイという土地柄、昨年よりもファイナンス分野のトップが集まることが予想されていますので、話題の一つになることと思います。
気候変動は世界が一つになって取り組むべき課題であり、年々、温暖化や極端な気象事象などの影響がますます顕著になってきています。気候変動を防止し、適応するためには、再生可能エネルギーへの転換や排出削減プロジェクトの展開など、多くの取り組みが必要です。しかし、これらのプロジェクトには膨大な資金が必要であり、政府だけでは賄いきれないことが大きな課題となっています。
ブレンデッドファイナンスによって可能になったこと
資金調達の多様化: ブレンデッドファイナンスは、公的資金と私的資金を組み合わせることで、資金調達の多様化を促します。これにより、気候変動対策に必要な資金を確保するための柔軟性が高まります。
リスクの共有: 公的資金は通常、私的資金と比較してリスクが低いとみなされます。ブレンデッドファイナンスでは、公的資金がプロジェクトの初期段階でリスクを軽減し、私的資金が後続段階で投資することで、リスクを共有します。これにより、私的セクターの投資意欲が高まります。ここでいう私的セクターは、①商業銀行(融資やその他の金融サービスを提供)、②投資銀行(資本市場の取引や企業のM&Aアドバイザリーを行う)、③投資ファンド(プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、インパクト投資ファンドなど、特定のセクターや地域、テーマに投資)④保険会社(リスクの共有や分散のために、ブレンデッドファイナンスのプロジェクトに関与)、⑤特定の産業やセクターで事業を展開する企業(事業戦略やサプライチェーンの持続可能性の一部として行われることがあります)⑥個別の投資家(大口の個人投資家やファミリーオフィスが、社会的・環境的なインパクトを持つ投資に関与することがあります)などです。私的セクターの参加は、ブレンデッドファイナンスの成功において重要な役割を果たします。③の投資ファンドのイメージがつきにくいかもしれませんので、以下に例を挙げておきます。
Convergenceでは、ブレンデッドファイナンス取引の設計と資金調達をサポートするための知識やツールを提供しています。
The Global Impact Investing Network (GIIN)はインパクト投資に関するリソースやリサーチを提供する組織で、ブレンデッドファイナンスの領域での取り組みもサポートしています。
Climate Finance Partnership (CFP):これはBlackRock、フランス政府、ドイツ政府、日本の政府機関、およびフィランソロピック団体が共同で設立したブレンデッドファイナンスのイニシアティブです。クリーンエネルギーの導入をサポートすることを目的としています。
IDB Investは、インターアメリカン開発銀行の私的セクター部門で、ブレンデッドファイナンスの手法を活用して、ラテンアメリカとカリブの地域の持続可能な成長を促進しています。
Green Climate Fund (GCF)は、途上国における気候変動対策を支援するための国際的なイニシアティブとして設立。ブレンデッドファイナンスのアプローチを取り入れている部分もあります。
Mirova:Mirovaは、持続可能な投資に特化した資産運用会社で、ブレンデッドファイナンスの手法をいくつかのプロジェクトで採用しています。持続可能性への奨励: ブレンデッドファイナンスは、気候変動に対する取り組みが持続可能であることを奨励します。公的資金は環境への影響を評価し、持続可能なプロジェクトへの支援を優先的に行います。
社会的インパクト: ブレンデッドファイナンスを活用することで、気候変動対策に関連するプロジェクトが地域経済にポジティブな影響を与える可能性が高まります。再生可能エネルギープロジェクトは雇用を創出し、地域社会に恩恵をもたらしている事例もあります。例えば、ドイツは再生可能エネルギーの普及を推進する「エネルギー転換」政策を進めており、これにより数十万人の雇用が創出されています。アフリカの電力供給が不安定な地域や、電力網が未整備の地域では、オフグリッドのソーラーシステムが導入されており、そのシステムは、地域の電力供給を安定させるだけでなく、新しいビジネス機会や雇用の創出をもたらしています。
ブレンデッドファイナンスの懸念事項
透明性と説明責任: 資金の混合使用が透明でない場合、資金の適切な使用が確保されない可能性があります。透明性と説明責任を確保するためのメカニズムが必要です。
公的資金の圧力: ブレンデッドファイナンスを用いることで、公的資金の圧力が増加する可能性があります。政府は予算の制約や他の緊急課題に直面することもあるため、気候変動対策に十分な資金を供給できない可能性があります。
Princess Abze Djigmaは、再生可能エネルギー分野でのリーダーです。Delft University of Technologyで学んだ電気工学と情報技術の専門知識を活かしてMAMA-LIGHT Initiative for Sustainable Energyを設立し、低所得の家庭や地域社会に持続可能なエネルギーソリューションを提供しています。世界銀行とも連携し、アフリカの再生可能エネルギー分野でのプロジェクトの推進や、地域社会への持続可能なエネルギーソリューションの提供をサポートしています。彼女は、モシ王国の最後の王、エンペラ・モロ・ニャバの曾孫で、その背景を利用して地域社会の発展と女性の権利向上のための取り組みを推進しています。(19世紀末、フランスの植民地支配が進むにつれ、モシ王国はその独立を失いました)
ブレンデッドファイナンスと世界銀行の関係
世界銀行は、国際的な開発金融機関で、主要な使命は世界中の貧困削減と持続可能な開発の促進です。世界銀行は開発途上国への資金提供、技術支援、政策アドバイスなどを通じて、多くの開発プロジェクトを支援しています。その際、ブレンデッドファイナンスは重要な要素の一つとして活用されています。
世界銀行は以下のようにブレンデッドファイナンスを活用しています:
公的資金と私的資金の組み合わせ: 世界銀行は、公的資金(例: 国際開発協力機関や政府からの融資)と私的資金(例: 商業銀行や投資ファンドからの投資)を組み合わせてプロジェクトを実施しています。この組み合わせにより、開発途上国のプロジェクトへの資金供給が拡大し、リスクを分散させることができます。
リスク共有: 世界銀行は、プライベートセクターが投資に参加する際のリスクを一部引き受けることがあります。それにより、新興市場や発展途上国におけるプロジェクトに投資しやすくなります。世界銀行の存在が、プライベートセクターにとってのリスクを軽減します。ここでいうプライベートセクターとは、①自らのビジネスを経営する個人、②小規模〜大手の多国籍企業、③金融機関(銀行、投資銀行、保険会社、投資ファンドなど)④投資家(個人投資家、機関投資家、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティなど、資金を投じる事業体や個人)です。世界銀行グループの一部の国際金融公社(IFC)などは、プライベートセクターの投資を促進するため、特にリスクが高い地域やプロジェクトにおいて、投資のリスクを一部引き受けたり、保証を提供したりすることがあります。これにより、プライベートセクターが参加しにくいプロジェクトや地域への投資が促進されることが期待されます。
開発プロジェクトのサポート: 世界銀行は、再生可能エネルギー、インフラストラクチャー、教育、保健などの分野で開発プロジェクトを支援しています。これらのプロジェクトには、ブレンデッドファイナンスの要素が組み込まれ、持続可能な発展を促進しています。
世界銀行は、気候変動への対策や貧困削減などの特定のグローバルイニシアティブにおいてもブレンデッドファイナンスを活用しています。
ブレンデッドファイナンスと保険の関係
リスク軽減と保険: ブレンデッドファイナンスと保険は、リスク管理と軽減において密接な関係があります。ブレンデッドファイナンスは、公的資金と私的資金を組み合わせてプロジェクトをサポートする際に、リスク共有が行われることがあり、保険がリスク軽減の役割を果たすことがあります。たとえば、気候変動に関連するプロジェクトでは、気象条件や自然災害からのリスクを保険でカバーし、私的セクターの投資を奨励します。
環境保護と生態系の保全: 保険業界は、環境保護や生態系の保全にも関与しています。ブレンデッドファイナンスが環境プロジェクトに資金を供給する際、保険会社は環境リスクに対する補償を提供することがあります。たとえば、自然保護地域や海洋生態系の保護プロジェクトにおいて、保険は生態系の損失や環境汚染に対するリスクを軽減するために活用されます。
開発プロジェクトの安定性: ブレンデッドファイナンスが開発プロジェクトに提供される際、保険はプロジェクトの安定性を向上させる役割を果たします。例えば、インフラストラクチャープロジェクトでは、建設中および運用中のリスクを保険でカバーし、プロジェクトの成功を確保するのに役立ちます。
気候変動関連リスク: 気候変動によるリスクは、保険業界にとって重要な課題です。ブレンデッドファイナンスは、気候変動に対抗するためのプロジェクトに公的資金を供給する一方で、保険会社は気象条件や自然災害からのリスクを評価し、適切な保険製品を提供します。これにより、気候変動によるリスク軽減ができます。
保険会社の具体例
Swiss Re:この再保険会社は、気候変動や持続可能な開発に関する多くのイニシアティブに取り組んでおり、ブレンデッドファイナンスの手法を活用したプロジェクトもサポートしています。
Munich Re:もう一つの大手再保険会社で、再生可能エネルギーや持続可能な開発に関するプロジェクトに投資する際のリスク転嫁の手段としてブレンデッドファイナンスを活用しています。
Zurich Insurance Group:持続可能な開発のための投資戦略を持つ保険会社の一つで、ブレンデッドファイナンスの手法を活用したプロジェクトやイニシアティブをサポートしています。
ブレンデッドファイナンスとフィナンソロピー投資の関係
フィナンソロピー投資は、超富裕層の投資資産を持続可能な開発や社会的な利益を追求する目的で活用するアプローチです。時には個人資産を通じて社会的な変革を促進し、投資における金融収益だけでなく、社会的および環境的なインパクトを追求します。例えば、環境への負荷を最小限に抑えた投資や社会的なイニシアティブをサポートすることが含まれます。
ブレンデッドファイナンスとフィナンソロピー投資の組み合わせ:
社会的な使命と金融リターン:
フィナンソロピー投資は、社会的な使命を追求することを主要な目的としながらも、金融リターンも考慮されます。
ブレンデッドファイナンスとフィナンソロピー投資は、社会的な変革と持続可能な開発に向けた異なるアプローチを示します。両者は時に連携し、持続可能な未来を築くための資源を効果的に活用する手段として利用されています。
ブレンデッドファイナンスの実例
Off-Grid Solar and Storage Facility
IFCと多くの投資家がパートナーシップを結び、オフグリッドソーラープロジェクトをアフリカとアジアで展開しています。The Global Energy Efficiency and Renewable Energy Fund (GEEREF) 欧州投資銀行と欧州委員会がパートナーシップを結成し、再生可能エネルギーとエネルギー効率プロジェクトのためのブレンデッドファイナンスファンドを提供しています。
Water Financing Partnership Facility (WFPF)
アジア開発銀行が設立したこのファシリティは、ブレンデッドファイナンスを活用して、アジア太平洋地域の水関連インフラプロジェクトの資金調達をサポートしています。
これらのプロジェクトは、公的資金と私的資金の組み合わせによって、多大な社会的・環境的インパクトを持つことが期待されるプロジェクトを実現させています。
The Currency Exchange Fund (TCX)のように、通貨リスクをヘッジするための独自のメカニズムを提供することで、途上国の通貨での長期融資を可能にするファンドもあります。このファンドでもブレンデッドファイナンスの手法を活用して、途上国への投資を促進しています。
ブレンデッドファイナンスがCOP28でどのように取り上げられるのかにも注目しています。