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紙と活版印刷の相性がわかるすごい見本帳の話

相性ってありますよね。人や道具、なんと場所にもあるとか。

人と紙に相性はない(はず)ですが、紙と印刷には相性があります
オフセット印刷に適した紙、レーザープリンターに適した紙、そもそも印刷には適さない紙…。

そして紙は人以上に相性が重要です。
相性を知らずに印刷すると、「あれ?思ったのと違う…」なんてことも。
自分で試せればいいけれど、全部テストしていたらお金も時間も足りないですよね…。

そこで重宝するのが見本帳

見本帳は実際の手触りや厚みを確認したり、印刷上がりを比較したりできる、紙選びの必須アイテムなのです!そして紙好きにとっては、パラパラ見ているだけでも楽しい、おもちゃ箱のような存在でもあります。

実は、以前「活版印刷とコーヒーは似ている。」の記事でお話を聞かせていただいた桜ノ宮 活版倉庫さんが、今度は紙と活版印刷の相性がわかるすごい見本帳を作ったとのことで、先日見せていただきました!
残念ながら非売品だそうですが、せっかくなのでこのnoteで少しご紹介できたらと思います。

見本帳とは

いきなりすごい!と言っても比較になるものがないとわかりにくいと思うので、一般的な見本帳について簡単に触れてみます。

紙・印刷業界には大きく分けて2パターンの見本帳があります。

①紙の見本帳

製紙メーカーや紙屋が制作するのが紙見本帳です。実物の紙が綴じこまれ、色や質感、厚みを目と手で確認することができます。

この場合、商品=紙。白い紙はオフセット印刷で写真が印刷されていることもありますが、基本は名前や厚みなどの商品情報のみです。印刷との相性を知るというよりは、紙自体を調べるためのものになります。

家を建てられた方は、カーテンや壁紙のめちゃくちゃデカいカタログを見たことがあると思うのですが、その紙バージョンですね。

②印刷の見本帳

印刷会社が制作している見本帳もあります。例えば印刷通販・グラフィックの印刷見本はこんな感じ。

こちらの主役は印刷。紙による印刷上がりの違いを見るためのものです。
基本的には全ての紙に同じ画像が印刷されているので、紙による仕上がりの違いを比較できます。
例えば上記の写真を例にとると「コート90㎏の方が発色が良くてお肉が美味しそうに印刷できる」と判断できるわけですね。

印刷見本は各社の営業ツールでもあるので、その企業の売りである印刷もしくは加工が施されます。グラフィックであればオフセット印刷、そして桜ノ宮 活版倉庫さんの場合は活版印刷です。


活版印刷と紙の相性がわかる見本帳

前置きが長くなりましたが、桜ノ宮 活版倉庫さんが制作された見本帳がこちら!
紙はすべて平和紙業さんの特殊紙、デザインはオフィス ティ赤山さんが担当されています。

※活版された部分を目立たせるために写真を暗めに加工しています

この白い表紙の下に隠されているのは、色も風合いも様々な20種類の特殊紙×活版の印刷見本。つまりは20種類の紙と活版印刷の相性がわかるわけですね…!もちろん表紙も活版印刷です。

ここからはこの見本帳のどこがすごいのか、細かく見ていきましょう。

①黒、白、メジューム、活字の4種類の相性がわかってすごい

記念すべき1枚目の見本は特Aクッション!

おお~!カッコいい!!
黒、白、メジューム(透明インキ)、活字の4種類の印刷が一度に見れるデザインです。

黒はともかく白とメジュームはどこ!?と思われた方も大丈夫!巻頭にどのインキがどこに刷られているか一目でわかる図解があります。親切設計!

ちなみに活字はアルファベットの部分です。

赤丸で囲ったアルファベットが活字

活版印刷の見本で3種類もインキが使われているのはなかなかレアだと思います。なぜなら、3色刷るためには3回印刷機を通す必要があるからです。しかも今回は活字もあるのでなんと計4回!つまり1色に比べて時間も手間も4倍なわけですね…。

実際に印刷された活版印刷機がこちら。

ドイツ・ハイデルベルグ社製 T型プラテン活版印刷機

これだけ見ると大きいなあと思うのですが、オフセット印刷機に比べるととってもこじんまりしたサイズなんですよ。
この機械に、版と呼ばれる画像や文字が彫られたハンコのようなものor活字をセットし、インキを塗り圧力をかけて紙に転写していきます。
1つの紙につき4回印刷があって、それが20種類…。あわわ、想像するだけで大変です。

ですが、紙を選ぶ側としては大変助かります…!
次の写真はディープマット アッシュの見本ですが、白やメジュームも使ってみたくなりますもんね。


②リアルな仕上がりがわかってすごい

この見本帳の面白いところが、美しさよりもリアルを追求しているところ。

いや、どの見本帳も実際の印刷がわかるように印刷されているわけですけど、でもやっぱり最大限のパフォーマンスで綺麗に見せたいじゃないですか?
テストであまり相性が良くないとわかったら省きたくなるのが人情…。

ですが、なんと「ケンラン ディープレッドの紙に裏写りしている」「コルクシートNにメジュームインキが定着せずに印刷できていない」などの見本がそのまま収録されているんです!

こちらがケンラン ディープレッドの表面です。
白のベタにちょっとムラが出ていますが、文字は全く問題ないですね。

裏返してみると…

黒い矢印が指しているあたりに裏写りが見える

確かに、少し紙に汚れが見えます。
この汚れは裏写りといい、印刷後の紙を重ねたときに、下の紙のインキが上の紙の裏に写ってしまう現象です。
紙が乾きにくい性質だと起こりやすい傾向にあります。

普通だったらケンランを外してしまうところを、あえてそのまま収録する心意気が好きです(笑)。

でもこういうの、大事だと思うんですよ。
普段目にする完成された印刷物は、綺麗で完璧なものばかりです。だから、ついつい印刷をオートマチックで狂いのないもののように思いがちではないでしょうか?でも実際は紙もインキも湿度などの周辺環境に左右されますし、同じクオリティで印刷し続けられるのは、人の力があってこそなのです。なかでも活版印刷は特に、人の力が重要な要素を占めます。

人の手に左右されるということは、少し気を付けるだけで対応できるということでもあります。(システムの入れ替えのような大掛かりなことをしなくても大丈夫!)
裏写りしやすい場合は、乾燥時間を長めにとる=納期を長くする、などの対処法が考えられます。

続いてはコルクシートN。コルクをシート状に加工した紙で、オフセット印刷には向いていません。

確かに、メジュームインキがあるはずの部分が、綺麗さっぱりなくなっていますね…!おそらくコルクが吸ってしまったのだと思いますが、この見本帳のおかげで「コルクシートNにメジュームインキは印刷できない」と1つ知識が増えました。

個人的には黒インキで印刷してコースターとか作ったらカッコよさそうだなと思います!

ちなみに一番印刷しやすかった紙を聞いてみたところ、特Aクッションとのことでした。活版の印刷物で一番使われているんじゃないかと思うくらい良く見ますもんね。さすが!


③定番とは違う紙の印刷が見れてすごい

この見本帳に収録されているのは平和紙業さんの特殊紙20種類です。
活版印刷によく使われている特AクッションやSSコースター、ディープマットはもちろん、先ほどのコルクシートNをはじめとするあまり活版では見ない紙も多数収録されています。

どれも個性があって良いですが、特に面白いと思った2つをご紹介!

まず1つ目が、レザック66 黒。

ちょっと写真ではわかりづらくてすみません。。
よく観察してみると、黒インキよりメジュームインキで印刷された部分の方がより深い黒になっているのがわかります。
メジュームインキの方はニス引きに似ていますね。ニスのような耐摩擦性はないですが、活版印刷にニスっぽい雰囲気を組み合わせたいときに活用できそうです。

2つ目はキュリアスメタル ライトグレー。
繊細なきらめきが高級感を醸し出すパール紙です。

キラキラした紙は箔押しのイメージが強いですが、活版印刷もカッコいい~!新たな発見になりました。

ちなみに桜ノ宮 活版倉庫さんでは、キュリアスメタルを使ってクリスマスカードも制作されています!箔押しよりもシックで大人っぽい雰囲気に仕上がる印象ですね。


最後に

ここまで色々と書いてきましたが、写真ではすごさを伝えるのに限界があります…。やっぱり実物を見るのが一番!!

とはいえ非売品なので、お近くにお住まいの方はぜひ、桜ノ宮 活版倉庫さんで見せてもらってください!!

桜ノ宮 活版倉庫さんは、大阪・桜ノ宮にある活版印刷所。ドイツ・ハイデルベルグ社のプラテン機が2台あり、名刺や結婚式の招待状のほか、自社でも様々なプロダクトを製作・販売されています。
誰でも訪れることができる「開かれた印刷所」ですので、気軽に問い合わせてみてくださいね。

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