読後メモ:頭と口に美味しい本:『口福のレシピ』 原田ひ香
“家庭料理“小説と帯に紹介されている通り、全編に手軽に出来そうな料理のレシピのヒントやカケラが散りばめられている。また、お酒が好きな人もお酒とつまみの組み合わせを楽しめるだろう。それとは別に二つの(いや一つか)物語が進行してゆく。Twitter料理研究家の主人公がバズるような現代らしい日常と、西洋文化が少しずつ日常に入ってくる戦後当時の日常とのコントラスト。その両方の時代が、料理をつなぎにして書かれている。
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美味しい各章のタイトル
下ごしらえの日曜日
月曜日の骨酒
火曜日の竹の子
水曜日の春菊
木曜日の冷や汁
金曜日の生姜焼き
土曜日の梅仕事
日曜日のスープ
あとしまつの日曜日
既に美味しそう!これは期待できる(いや爆上げ過ぎはよくない)と読み進めた。主人公 留希子と同級生 風花、2人の人生話を読み進めながら、美味しい頁に次々と付箋を貼っていく。
竹の子ご飯
「夕飯の締めは竹の子ご飯」
「あー、いいにおい」
「だけど、ただ、竹の子と油揚げを刻んで、ツナ缶ドバッと入れて、めんつゆもどぼどぼっと入れただけだから」p. 78
生の春菊のサラダ
丸八で「生の春菊を葉だけちぎって、ごま油で炒めたニンニクのみじん切りと醤油を合わせたドレッシングで和えるとおいしいよ」と教えてもらった。 p. 106
新橋駅近くのマルハチ、シンプルごま油のサラダがそれに似ていそう
春菊蕎麦
春菊レシピは更に続く、
丁寧に洗った後みじん切りにして、ごく薄く塩を振ってしばらく置く。(中略) 留希子は蕎麦をボウルに入れて、オリーブオイル入りの蕎麦つゆと和え、二等分して平皿に盛った。その上に軽く塩をした生の春菊をのせる。
「さ、春菊蕎麦のできあがり。よく混ぜて、すりごまや粉チーズをお好みでかけてください」p. 105-110
スペイン風オムレツ
人参、じゃがいも、玉葱、ピーマン、ブロッコリーをフライパンで炒めるというより、揚げ焼きのようにしてじっくり焼き目をつけ、塩こしょうをしたところに、やはり味付けをした卵を流し込んだ。硬めに焼き上げて、スペイン風のオムレツにした。p. 147
野菜のパウンドケーキ「ケークサレ」
それからしばらく考えて、密閉保存容器に人参、ジャガイモ、サツマイモなど少し火の通りにくい野菜を入れて、数分電子レンジにかけた。その間、ホットケーキミックスに牛乳と卵、ピザ用チーズ、マヨネーズを入れて混ぜる。
パウンドケーキ型にチンした野菜と他の野菜、一センチ幅に切ったウィンナーを容器の半分くらいになるまで入れて、混ぜたタネを流し込んだ。p. 147
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そして、文中に出てくるレストランや喫茶店の記述が興味を引くのも面白い。また違う方向の楽しみ方ができる。
コーヒー味のソフトクリーム、バタークリームを使ったケーキ
中目黒から数駅、横浜寄りの駅前の喫茶店だ。坂崎が「ちょっと行きたい店があるんです」と指定してきた。(中略) 「ここ、コーヒー味のソフトクリームが人気なんです。それからバタークリームを使ったケーキも有名で」p.182
気になったので、調べてみた。ここかな。こういう探偵行為は楽しい。
フォアグラのTKG
「スリジェの卵かけご飯!」つい声が漏れてしまった。
代官山の「スリジェ」は創作フレンチのレストランである。開店当時、留希子の母が知り合いから紹介されて以来の行きつけで、特に、「フォアグラのTKG」という料理がスペシャリテなのだった p. 94
(フォアグラのTKGの写真あり)
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どれも美味しい!脳内で美味しく頂く。他にも鯛の頭の干物、冷や汁、梅のジュース、生姜焼き…。鯛の頭の干物は、新鮮で安く手に入るスーパーが近所にあるのでトライしてみたいし、冷や汁用の味噌をコンロで直接炙って焦がすところは口の中に広がる香ばしい匂いと味を想像してしまった。特に生姜焼きは、10年以上前に切り抜いた雑誌のレシピで作るスペシャリテがあるので、また近いうちに作ることに決めた。美味しい頁をつまみに、最後までリラックスした気持ちで2人の物語を読むことができた。次は風花の不動産・インテリアの話が読んでみたい。