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虹を指し示す猫

コテージからみえる午前五時の海。潮騒がかおり、たっぷりとふくらんだ水平線が藍色にひろがります。
猫は誘います。ふたりですがすがしい砂浜をゆくと、遠くの沖合で雨が降っていたのでしょう。
夜明け前に雲は消え、洗ったばかりの緑の大気に海の虹がかかり、猫もわたしもうっとりしてしまうのです。

ねぇ、ゆうむ? どうしてあなたは虹がかかるタイミングでいつもわたしを誘ってくれるの?
すると、猫は教えてくれます。海辺の白い花をふみ、砂に足あとをつける謎の人がいることを。
幽霊じゃないけど、みえない人がみえない空気の階段をのぼり、地上で集めた色彩を空に届けるんだよ、と。

そのみえない人とは、コテージのうしろの森に古くからすむ、人間ではない女の子でした。
花の赤や青、蜜蜂の黄色、草のつゆに反射する緑、蝶の紫、黄昏の橙や夜明けの藍色を集める少女。
そして胸いっぱい色を吸い込んだら、それを空にデリバリーする役割をになっているのです。

色は雲に濾過され、虹となり、雨となって地上に降りそそぎ、ぐるぐる、ぐるぐる、循環してる。
ゆうむに、どうして虹の秘密を打ち明けてくれるの? とたずねたら、猫は、くすりと笑います。
だってぼくたちの芸術をみてもらいたいの。はかない命の人間だけど、永遠にふれて欲しいの、と。

VOICEROID2の紲星あかりによる朗読です。ぜひ、お聴きになってくださいね。


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