偽善でも、ヨシ!
夏が近づいてきたので、夏の話を…書きます!
高校生の時、一車両運行のワンマン列車で通学していた。
田舎は車文化なので、その列車はほぼ高校生しか利用していなかった。
時々おばあちゃんが乗ってくる程度で、基本は高校生専用みたいな列車だった。
その日は昼まで夏期講習で受験対策をし、その後は生徒会の活動があったので、いつも一緒に帰る友人には先に帰ってもらっていた。
(JRの3倍の値段をとる私鉄のくせに、1時間に1本しかなく、乗り過ごすとまた1時間待たないといけないので…)
生徒会が終わり、駅に向かうとめずらしくおじいさんが待合室で列車を待っていた。そしてその他に、こんなに暑いのに同じ高校だけど名前は知らない後輩が日陰から出たところで列車を待っていた。
「(こんなに暑いのに…)」と思って彼女の方を見ると、目が合ってしまった。私に気づいたその子は近づいてきて、「あの…さすらいさん…」と声をかけてきた。
少し驚いたが「どうしたの???」と聞くと小さな声で「あのおじいさん、ちょっと変なんですよ…だから屋根の外にいた方がいいと思います…」と教えてくれた。
変って….どういう変なんだろうと思った。
すると彼女はまた私から(というかおじいさんから?)離れて列車を待っていた。
なんか嫌なことされたのかな?とか考えていたら、そのおじいさんが私の方に近づいてきた。
帽子で気づかなかったが、首や鼻に何やらチューブがついている。
でもここであからさまに避けるのも気まずいので、「どう、されましたか?」と聞いた。
シュコー…シュコー…
目の前のおじいさんは、確かに話をしているのに声が聞こえない。
シュコー…シュコー…と謎の音がする。
私が困惑していると、おじいさんは自分の喉を指差し、見るように促してきた。首まわりに色々あるので気づかなかったが、喉に穴が開いていたのだ。おそらく気管切開か何かで声帯をとっているのであろう。
喉から息が漏れてさっきのような音がなっていたのだ。
「(あぁ、なるほど…まぁ、あの後輩の気持ちも分からなくもないな…)」と思った。
私はノートを取り出し、書いてもらうことにした。
おじいさんはペンを取り「〇〇(地名)に行きたいのですが、行き方を教えてくれませんか?」とノートに書いて私に見せた。
〇〇(地名)は私が乗る列車とは逆方向の終点から、さらに乗り換えないと行けない場所だった。
とりあえず紙にその場所までの乗り換え方法を書いた。
おじいさんは丁寧に頭を下げてお礼をしてくれた。
列車の時間までまだあるから、後輩の子含めて3人で筆談をした。
おじいさんは岡山県の倉敷から来ており、〇〇(地名)に本家?があるらしくそこに住む親戚に会いに行きたいとのことだった。
年は87歳で、数年前に手術で気管切開をしてこのポンプ・チューブ?がないと色々厳しいらしいということを教えてくれた。
「(そんな状態で…あまりにも無謀では…..?)」と思ったけど、元々旅好きらしく手術後もいろんな場所に一人で行っているらしい。
佐賀県にくるのも40年ぶり?とかで、おそらくその頃はこの私鉄もなかったので迷うのも無理ないなと思った。
色々話をしているうちになんだか心配になってきたので、乗り換えの駅までついて行くことにした。後輩ちゃんは先に帰った。まぁ当然である。
私が「乗り換え駅までついて行くよ」というと、おじいさんはかなり安堵して見えたので筆談しながら列車に乗り一緒に終点まで向かった。
この時間の反対方向はほとんど利用者がいないので、ほぼ貸切で終点まで過ごした。
道中、筆談をして過ごしたが書くのも疲れるのであまり会話はせずに二人とも窓からの景色をぼーっと眺めていた。
1時間ほどして、終点の駅に到着した。
さすがに〇〇(地名)までは行けないが、この駅からなら乗れば1本で行けるし、最終目的地は駅から徒歩1分の場所だったので、おじいさんだけでも大丈夫だろうと思った。
おじいさんに「水とか持ってますか?」と聞くと満面の笑みでオッケーサインをしてうなづいていたが、その後ノートに「水も、何もない」と書いたのでコンビニに寄った。
おじいさんがコンビニで買っている間に私は、親に帰りが遅くなる旨を電話したりしていた。
無事、コンビニで買い物を済ませたおじいさんが私にモナ王をくれた。
チョコモナカジャンボより、モナ王派なので、すごく嬉しかった。
モナ王をいただきながら改札まで送り、駅員さんに案内をお願いした。
おじいさんの目的地まで1時間ちょっとかかるそうなので、それを伝えた。
「1時間ぐらいかかるみたいです!大丈夫ですかね?」というと
またしても満面の笑みでオッケーサインをして、リュックの中から先ほどのコンビニで買ったであろう雑誌を見せてくれた。
「(あ、雑誌を読むのね…!)」と思って表紙を見ると「週刊SPA!」だったので、腹が捩れるぐらい笑いそうになったがなんとか耐えた。
週刊SPAて……………
なんだか、助けなくても別に大丈夫だったのでは……..?と思ったけど、普通に楽しかったので、それはそれでいいのだ。
別れ際に住所を教えてほしいと言われたので、筆談で使ったノートに書いてそれごと渡した。
おじいさんと別れ、私はまた列車に乗って家に帰った。
(2時間くらいかかった)
親には適当に学校に残ってみんなと勉強したと嘘をついたので、特に何も言われず、ご飯を食べてお風呂に入った。
でも慣れないことをして疲れたのか、その日はすぐに寝てしまった。
朝起きると、知らない番号から着信があり、かけ直すと予想した通り、おじいさんの親族だった。おじいさんは電話では話せないので、改めてその人から丁寧なお礼をいただいた。無事ついて何よりである。
その日も夏期講習があるので、朝同じ列車だった後輩ちゃんに「結局、終点までついて行ったよん」みたいなことをいうと、「ヘ〜もの好きですね〜…私だったら絶対無理ですよ〜…危ない…」と言っていた。(まぁ、わかるよ)
結局、そのおじいさんとの出会いがなければ、私はいつも乗る電車の終点まで行く機会もなかったので結果的によかったなと思っている。
ちなみに後日、突然そのおじいさんから私宛にとてもおいしそうな梨が送られてきたので、さすがにこれは…と思い親に説明したところ、こっぴどく叱られてしまった。トホホ。
以上が、私の夏のちょっとした思い出話です。
本当は、童貞の従兄弟が嘘ついて処女卒業サポートの裏垢男子オフ会やっていたことを書こうと思ったんだけど、あまりにも情けなくて泣けてきたので夏の思い出の話で感情を上書きしました。
これからだんだん暑くなるので、体調管理に気をつけて皆様どうかお過ごしください………!