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下北沢のカレー

先日、下北沢のカレー屋でカレーを食べていた。
下北沢といえば、カレーの激戦区。どの店も大体美味しい。
今回行った店も例に漏れず、行列ができるだけあってかなり美味。
食べ終わる頃には「次はエビとチキンのあいがけにしよう」と、もう次回のメニューを考えていた。

そんな風に満足していると、厨房から女性の声が聞こえる。静かに、しかし確実に怒っている声だ。
どうやら、調理担当の女性がホール担当の女性に説教をしているらしい。
私はカウンター席にいたので、ほぼ丸聞こえだ。盗み聞きするつもりはないが、これは仕方ない。

説教の内容は「黙々と仕事をこなすのはいいけど、何かするたびに報告してほしい」というもの。
そして、そのホール担当の返答が気に食わなかったようで、調理担当が「じゃあ、もういいです」と説教をバッサリ終了。

わかる。学生時代、先生にこんな感じでキレられたこと、何度もある。
このタイプのキレられ方は厄介だ。正直、速攻で「すいませんでした!」と頭を下げるのが一番安全だが、説教の内容によっては(いや、これ本当に俺が100%悪いの?)と疑念が湧き、謝るタイミングを逃すこともある。
その場合、もう時間が解決してくれるのを待つしかない。

ホール担当の女性も、まさにその「謝罪チャンス」を逃したようだ。
先ほどまで和気あいあいとしていた厨房の空気は気まずくなり、場の温度がぐっと下がっていた。

そういえば、私の注文を取りに来た時の彼女の様子はどうだったか?
思い返してみたが、特に問題があるようには思えない。
むしろ、自分も忙しい時は黙々と仕事をこなすタイプなので、彼女の立場なら同じく怒られていたかもしれない。

その後、説教から10分ほど経って、会計を頼むと例のホールの女性が出てきた。
スンスンと涙声混じりで「3500円です…」と言われ、私は一万円札を差し出す。
しかし、彼女はお釣りの5000円札をうっかり落としてしまい、「スイマセン…」とさらに小さな声で謝りながら、新しい5000円札を渡してくれた。
もうかなりへこんでいるようで、これは「頑張ってね」と励ますべきか?と一瞬考えたが、一部始終しか知らないおじさんが声をかけても、かえって迷惑かもしれない。
それに、もし厨房の女性がその場にいたら、余計にイライラさせてしまいそうだ。彼女のためにも怒りが再燃するのは避けたい。

そうやって自己正当化し、無難に「ごちそうさまでした」といつもより少し大きな声で言って店を後にした。
これが私にできる最大限のエールです。スンマセン…。

さて、一般論としては「客に聞こえるところで説教するなよ」ってのが正論だろう。
でも、カレーは本当に美味しかった。
だから、また来ようと思う。なんなら、厨房担当の女性がホール担当にイライラしながら作っていたその怒りや不満、それらが私のカレーに「とっておきのスパイス」となり、味の決め手として一役買っていたのかもしれない。

クミン、クローブ、カルダモン、シナモン、黒コショウ、カイエンペッパー…。
きっとそれらだけでは出せない味、それこそがこのカレー激戦区で生き抜くための秘伝のスパイスかもしれない。

絶対にまた行こう。
次は大盛りだ。


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