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いつでも取り出せる怒り

基本的に温厚な部類に入る私だが、ひとつだけ、いまだに思い出すたびに怒れる出来事がある。

あれは数年前、彼女と吉祥寺に行った日のこと。
彼女が有名なステッカー屋に寄りたいと言うので一緒に店に入った。

吉祥寺の有名な公園へ向かう通り沿いにあるその店は若い客で賑わっており、店頭にはスターウォーズのストームトルーパーの等身大フィギュアが飾られていて、なんとなく繁盛しているのがうかがえた。

店内を見てみると、そこにはステッカーや缶バッジがずらり。
初めて入った店なのに、どこかで見覚えのあるようなデザインのものが多い。
「あれ?このデザイン、どこかで見たことあるぞ」と記憶をたどれば、どうやら文房具屋でも見かけたことがあるステッカーだ。
少年ジャンプの人気マンガとのコラボ商品もあって、ブランド的にはそこそこ有名らしいが、正直なところオジさんの自分にはさほど魅力を感じるものでもなかった。

ちらりと彼女を探してみると、店内の少し離れた場所でまだ物色中らしく、思いのほか時間を持て余してしまった。
スマホでも見て時間をつぶそうかとポケットに手を入れた、ちょうどその時だった。

どこからともなく店員が現れ、「今、入れましたよね?そのポケットの中を見せてください」と、まるで確証を得ていたかのように私に声をかけてきた。どうやらずっと影に潜みながら「コイツは盗むぞ」とでも思って監視していたのだろう。

気を悪くしながらも、私は怪しい動きを疑われぬよう、ポケットに入れた手をゆっくり差し出し、スマホを取り出して見せた。さらに、空になったポケットの中も見せてやった。

なんなら手品師ばりの「タネも仕掛けもございません」の動きで堂々と見せてやった。「じっと落ち着いて、堂々と見せるのが一番荒立てない方法」と、今までの職務質問で学んだ悲しい教訓を生かしながら、ポケットの中を開いてみせた。

当然、中身は空っぽ。さっきまでの勢いはどこへやら、店員は「すいませんでした」とだけ言って、そそくさと去っていった。

まぁ、もしポケットにビックリマンシールなんかが入っていたら面倒だったが、それにしてもムカつく。
はっきり言って、『あげると言われても全然欲しくもないシールを盗んだ』と思われたのが今でも思い出すとムカつく。せいぜい100円~200円の商品を盗むようなセコい男と思われているのもめちゃめちゃムカつく。

その時は「ハイハイ」と流して済ませたが、今となっては「こんなもん全然ほしくねーよ!」のひと言くらい言っておけばよかったと思う。

それ以来、私は「いつでも取り出せる怒り」としてこの出来事を心にしまい込んでいる。そしてたまに文房具店であのブランドのステッカーを見かけると、あの日のことがフラッシュバックしてムカつき、そっとその場を離れる。

もう何年も前の話なので、あの店員はすでにその店を去っているかもしれないが、もしこれを見ているなら言わせてほしい。

全然ほしくね~~~~~~~よ!

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