パンゲア
パンゲア(SuperLite1500シリーズ)
――懐かしい、思い出深いゲームだ。
このゲームはSIMPLEシリーズの一環として、ディースリー・パブリッシャーから発売されたPlayStation用の廉価版ソフトだ。
今回紹介する「パンゲア」は、当時1500円で売られていた。どんなゲームかと言えば、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊の4人パーティーを組み、ダンジョンを攻略するRPGだ。
ただし、このゲームの独特な点は、ダンジョンの構造、敵の種類、攻撃の結果、さらには宝箱に関する全てがダイスの目によって決定されるところにある。最大4人でプレイ可能だが、普通のすごろくゲームのようにライバル関係はなく、全員が同じパーティーとして協力し合う。ただ、自分のターンが来た時にダイスを振るだけのシンプルなプレイスタイルだったと思う。
近年では、このゲームのようにローグライクRPGとランダム要素を掛け合わせたインディーゲームが流行している。実際、そういったゲームは面白いものが多い。
だが、この「パンゲア」については正直に言おう――退屈なゲームだった。
アイデア自体は悪くないが、ゲームに欠かせない爽快感や独特の雰囲気がなく、決定的にエンターテインメント性に欠けていた。当時、「ドカポン!怒りの鉄拳」のようなダイスを使ったRPGを想像していたが、現実の「パンゲア」はそれとはまったく異なるものだった。
しかし、SIMPLEシリーズはもともとそういうものだ。価格が安い分、過度な期待をしてはいけない。
だが、この「パンゲア」については少しだけ事情が違った。
「パンゲア」を購入したのは、中学生の頃の土曜日の夜だった。
いつもならば、休日の夜はゲームで過ごすのが常だったが、この日は特にやりたいゲームがなく、私はいつも以上に退屈していた。財布には2500円。話題作や新作のゲームを買うには足りないが、適当なソフトなら手に入る。私は、夜中に自転車でゲーム屋へ向かうことにした。
普段からよくゲーム屋を巡回していたので、どんなゲームがいくらで並んでいるかは大体把握していた。欲しいソフトが手に入らないことは分かっていたが、この日はあえて情報のないゲームを買おうと決めて、いつもとは違う視点で店内を物色した。
そして、その中で選んだのが「パンゲア」だった。
値段はシリーズ名の通り、1500円。
もしかしたら意外と面白いかもしれない、そんな淡い期待を抱いて店を出る頃、気づけば店内には閉店間際の蛍の光が流れていた。時刻はすでに23時を過ぎていた。私は自転車に乗り、急いで家に向かった。
地元民しか通らないような狭い路地を抜けて家に向かう途中、私はあることに気づく。
後ろから誰かが私を自転車で追いかけていることに。
距離は少し離れていて、相手はそれほど速度を出していない。
最初は思い過ごしかと思っていたが、この誰も通らないような路地を通るのはやはり怪しい。
私が少し速度を上げて自転車を漕ぐと後ろの男も速度を上げて追いかけてきた。完全に追われている。
ヤバイ、逃げよう。
そう思い私はさらに速度を上げて自転車を漕いだが道が暗く、速度を上げた状態で段差に前輪が乗り上げてしまった。その衝撃で自転車のかごに入っていた「パンゲア」が派手に飛び、地面に落ちてしまった。
パンゲアを拾うか、このまま逃げるか一瞬迷ったが、私はパンゲアを拾いに戻った。するとその間に、後ろの自転車の男が追いついてきた。彼はロン毛で茶髪、上下ジャージ姿の、いかにもヤンキー風の男だった。
ヤンキーは自転車を降り、私に迫りながらこう言った。
「ねぇ、電話したいから10円貸してくんない?」
この人は電話ができなくて困っていたのだ。
あー、びっくりした。小銭ならあるので貸してあげよう。
なんなら返してもらわなくてもいい。
さっさと帰ってこのパンゲアをプレイしよう。
そんなこと考えながら財布を取りだす。
その瞬間、ヤンキーは慣れた手つきで私の財布を奪い取ると、「札、持ってるじゃん」と言って1000円札を抜き取り、財布を私に放り投げた。そして、何事もなかったかのように自転車に乗り、来た道を戻っていった。
私が驚いてビビっていたというのもあるが、今思えばあのヤンキーのカツアゲはとても洗練された。
寝静まった夜の街とはいえ住宅街なので、騒ぎになればヤンキー側にもリスクはある。それならば1000円で十分と考えて次のカツアゲに行ったのか。
詳細はわからないがたった5分のやり取りで私はカツアゲされた。
幸い、手元にはパンゲアが残っている。
ちょっとした放心状態になりながら家路を急ぐ。
家に着き、何事もなかったように振る舞い、プレステにパンゲアをセットして電源を入れる。
無慈悲にもパンゲアはつまらなかった。
この世に救いはない。
こんな事なら「パンゲア」もヤンキーに取られておけばよかったのだ。
そうしたら少しでもヤンキーに仕返しができたのに。
完