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【ショートショート】猛毒

執行人は男の前に一錠のカプセルを置いた。

「これより刑を執行する。これは最先端の毒薬だ。非常に猛毒だが、直ぐには効かない。飲んだ本人が幸せや安心を感じると毒が回り、この上なく幸せだと感じると死に至る。」

男は震える手で錠剤をつまみ上げ、喉奥に放った。

「これで刑は完了だ。出てもいい。ただ一つ、どうしても辛抱ならなかったら、解毒薬を渡すから来なさい。」
執行人は顔色変えず男を見送った。

男は困窮した。幸せになってはならぬのだから。
安心すら毒になる。おちおちと食事も出来ないだろう。

街の者が男を見つける。
「おお、やっと出てこれたか。ご無事で!」
者共の声にも答えることは出来ない。
涙が出てくるからだ。

「喜んだら死ぬ毒を盛られたのだ。安心したら死んでしまう。もう金輪際関わらないでくれ。」
男は怒鳴り捨て、足を進めた。

男の釈放はかつての婚約者の元にも届き、涙ぐんだ彼女は声をかけた。
「会いたかったわ。心配してたのよ。」
だが男は言い放つ。
「幸せになると死んでしまう毒を盛られたのだ。お前は俺を殺したいのか。お願いだから消え失せてくれ。」
こうしてる間にも毒が回っているかもしれない。
動悸で肩が震える。
涙する彼女に背を向け、男は足を進めた。

男は思い出した。
「どうしても辛抱ならなかったら、解毒薬を渡すから来なさい。」

そうだ。解毒薬を貰おう。
男は必死の思いで執行人のもとを訪ねた。

「思ったより早かったようだな。」
男は執行人に縋り寄る。
「薬を。俺は十分この上なく苦しんだ。懺悔もしている。もういいだろう。」

執行人は笑いながら放った。
「なぁに。薬なんてただのビタミンさ。毒なんて入っちゃいない。だいたいそんな毒あるわけが無いだろう。だがしかしどうだ。お前は全ての幸せを捨てたのだ。この先の人生は毒よりも辛いだろうよ。誰もお前に関わろうとしないのだから。お前を殺したくないからな。」


【ショートショート】猛毒
751字

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