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半分の人は半分も知らないし、半分以下の好きな人は半分しか好きくない(J.R.R.トールキン『旅の仲間』)

I don’t know half of you half as well as I should like; and I like less than half of you half as well as you deserve. 
ここにお集まりの皆さん方のうち、半数の方々については、私が知りたいと思うことの半分も存じ上げてはおりませんし、仲良くさせていただいている方はこの中の半分にも及ばないばかりか、お寄せするべき好意の半分しか持ち合わせてはおりません。

J. R. R. Tolkien / The Fellowship of the Ring (1954)

ファンタジーの名作『指輪物語』第一部より。

冒頭、ホビットの村を去ることに決めたビルボが、自らの誕生日パーティーで行ったスピーチより。

上にあげたのは比較級と否定文を織り交ぜたなかなか難解な文章で、私にはとても1回や2回読んだくらいでは理解できない。それにこの調子でかみ砕いて訳していたら、上下巻どころか中巻が必要になりそうだ。

だが、聞いているホビットたちも困惑しているところを見ると、英語話者でも一筋縄にはいかない文章らしいことがわかり、ちょっと安心する。

This was unexpected and rather difficult. There was some scattered clapping, but most of them were trying to work it out and see if it came to a compliment.
それは思いもかけない言葉で、いささか難解だった。まばらな拍手が起きたが、ほとんどの者はこれが褒め言葉なのかそうでないのか決めかねていた。

私も正確にその意味が掴めているのか自信がないが、親しいものには褒め言葉に、そうでないものにはそうでないように受け止められうる、あるいは、親しいと思っていた者にもそうでないものにもそのことを疑わせうる、クレバーで皮肉っぽい言葉だ。

実際、ビルボの村での生活は、必ずしも幸せなものではなかった。そうでなければ冒険には出かけることもなかっただろう。

あえて言うなら正確な意味などわからなくてもいい。

彼の人柄と人間関係の微妙さがにじみ出るような、見事なスピーチなのだから。








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