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【読書感想文】吉田親司『作家で億は稼げません』

最近読んだ平山瑞穂さんの『エンタメ小説家の失敗学』(2023)への当てつけかと思った。

というくらい見事に『〜失敗学』の逆を行ってるんだもの。平山さんはこの本を読まれたのだろうか。

実際は松岡圭祐さんの『小説家になって億を稼ごう』(2021)(未読)の向こうを張って書かれたそうだ。

自分の才能を見極め、謙虚に、労を惜しまず、人を恨まず、ときどきグチは言うけど、感謝の気持を持って、したたかに、好きなことを仕事にするために最大限の努力をし、それを惜しげもなくこうして披露しながら、生き残りをかけて守備範囲を広げもする。

言うは易しだけど、なかなかできることじゃない。

この場合はインターバルが長すぎるため、売り上げは正直あまり期待できません。編集者と相談し、二巻で終わる可能性に備えて、ひとまずのオチを用意しておきましょう。 中途半端な格好で打ち切られては、物語と読者に失礼だからです。(p.105)

吉田親司『作家で億は稼げません』(2021)

売ってなんぼの商売だから忘れられがちだけど、どんなに売れなかった本にも産みの苦しみはあるし、読んで楽しんだ人はいるだろうし、何よりその本にも命がある。

作家さんと比べるのもおこがましいけれど、こんな駄文にも生み出した以上責任は生じるし、愛着はあるし、ページビューや「スキ」はささやかな数字に過ぎないとはいえ、その向こうには個々の人間がいる。そんなことを気付かされもした。

著者のような人に成功してほしいけど、こういう人が成功できるとは限らないのが難しいところ。

架空戦記(注1)、ほとんど手つかずの領域だけど、本書のおかげで読みたくなった。

92点。


注1. 全然視界に入っていなかった分野だが、ディックの『高い城の男』とか半村良の『戦国自衛隊』がまずあって、膨大なノベルスやライトノベルやWeb小説に架空戦記や異世界転生チートものがある、という状況は、オースティンの『高慢と偏見』とかブロンテの『ジェーン・エア』がまずあって、書店にハーレクイン・ロマンスのコーナーがあったり、脈々と少女漫画の伝統がある、というようなものなのだろうか。

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