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文学の特権(ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』)
The expression on her face, then, had been the one he’d seen, hours later, on her sleeping face in a portside coffin, her upper lip like the line children draw to represent a bird in flight. (p.9)
そのときの彼女の表情は、数時間後に棺桶みたいなベッドで眠っていた彼女の表情そのものだったし、上唇は子どもが描いた飛ぶ鳥のシルエットみたいだった。
おもしろい比喩だ。
海外小説での人物描写は、目の色や髪の毛の色にこだわったものが多く(日本の小説ではみんなどちらも黒だから取り立てて言うことがないわけだが)、唇も性的なアピールとして描かれることはあるだろうが、「子供が描いた飛ぶ鳥の絵」に例えるというのはめずらしい。
女性の唇の性的な要素を子供っぽく抽象的なもので中和して、無機的な世界を演出しているということだろうか。
女性との思い出をノスタルジックで無垢なものとするための象徴だろうか。
具体的な女性の顔は思い浮かばないけれど、このような描写一つでその人物を印象づけることができる。
これは作家の力量がものを言うのはもちろん、文学そのものの持つ特権の一つと言えるだろう。