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匂いのない世界のエロティシズム【日本語】膚体(宮城谷昌光『太公望』)

逢青は全身で望をうけいれ、男の愛と毅さとを知った。膚体がうるおい、心が感動で鳴った。ふるえるような幸福をはじめてあじわった。(p.489)

宮城谷昌光『太公望』

後に太公望と呼ばれることになる青年の最初の妻との交わりの場面である(2人目以降がいるのかはまだ知らない)。

宮城谷さんの小説を読むのは『晏子』に続いて2作目だが、唯一無二の作風、文体が確立しているのに感心する。

個人的な印象だが、良くも悪くも、作品世界に匂いがない。

登場人物たちが毎日風呂に入っていたわけはないだろうが、汗臭さがなく、激しい戦闘が描かれても血の匂いがない。みんなイケメンでイケオジで美女で、みんなスキンケアしていそうなのだ。ヒゲを生やしている人が時々いるが、胸毛や脇毛はなさそうだ。

エロチックなシーンもないではないが、つとめて抑制されていて、熱量はない。宮城谷さんの小説で劣情をもよおす人はまれだろう(宮城谷さんの小説でしかもよおさないという人はいるかもしれない)。

そんな彼の小説の中で、初めて見た単語がこの「膚体」である。とりあえずググっても出てこない。でも意味は分かる。物理的に分かるのはもちろん、官能的でさえあると言える。絶妙なチョイスだ。

品位を失わないギリギリのラインでエロティシズムを表現しつつ劣情をかきたてない(かきたててしまう人もいるかもだが)、その絶妙な着地点が「膚体」ではないかと思うのは、私だけだろうか(お前だけだ)。


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