東京の中心で平等を叫ぶ【読書感想文】奥田英朗『オリンピックの身代金』
【ネタバレあり】
初奥田英朗。
軽い読み物のイメージがあったので、思いのほか重厚なのに驚いた。
膨大な資料と取材をもとに60年代の東京を再現し、さまざまな階層の人々をからませ、時間軸をずらしながらクライマックスに向かって圧力を高めていく。
結果はみんな知っている。爆弾は爆発しない。しかし、面白くてやめられない。
ミステリー、サスペンスというより、時代を活写する群像劇として優れている。
95点。
とはいえ、優れているだけに、不満もある。
①犯人の動機が弱い。魅力的な人物ではあるが、動機が個人的に過ぎると思う。しかし、庶民はもちろん、搾取される出稼ぎ労働者も、地方の貧しい農家の人々も、ヤクザでさえもオリンピックの成功を願い、その開催を世界に対して誇らしく思っていたという挙国一致的な状況(注1)は、フィクションにしても面白い。犯人は孤独にならざるを得ないし、個人的にならざるを得ない。そこに村田という人物を配したのが素晴らしい。
②ラストはスタジアムでの落合の感慨で終わった方がよかったと思う。見事なクライマックスなのに。端役を務めた人たちを放ったらかしにするわけにもいかないのはわかるが、エピローグでもっと簡単にまとめてよかったと思う。
③タイトルが面白くない(ごめんなさい)。私なら、ふつう手に取らない。だって面白くなさそうなんだもの(ごめんなさい)。
というわけで、私が手に取りそうなタイトルを考えてみた。
『爆弾はどこへ消えた』
『赤いボマーと貧者の意地』
『ニッカポッカと秘密のタコ部屋』
『プロレタリア・セックス』
『アカの壁』
『24歳のハローワーク』
『ホームレス東大生』
『夢をかなえる若僧』
こういうのっていくらでも考えていられる。あなたはいくつ元ネタが分かりましたか?
※作品の時代背景に鑑み、一部不適切な表現があることをご了承ください。
注1. 直接関係はないが、駅のホームで新郎を胴上げするのは「戦争の出征式の真似事」(p.538)という一節にはハッとした。戦争が文化として定着していることって、知らないだけでけっこうありそうだ。
注2. Copilot に「世界の中心で平等を叫ぶアジア人青年」の画像を作ってもらったら、Tシャツに Equality って書いてあるのを出してきた。人間だったらダメにもほどがあるが、AIだったら許せる自分がいる。そっか、ムリ言ってゴメンね、って。