病気とアンビバレンス
はじめに
皆さんは、自分の心の中に2つの相反する感情が、同時に存在することを感じたことはありませんか?
例えば、「挑戦したいけど失敗が怖い」や「休日は休みたいけど遊びにも行きたい」といった感情です。
このような心理状態を心理学では「アンビバレンス」と呼びます。
一見すると矛盾しているように思えるこれらの感情ですが、実は人間の心の自然な一部です。私たちの感情の多様性や複雑さを表し、むしろそれが「人間らしさ」を形作っているのではないでしょうか。
今回は、「アンビバレンス」という言葉を紹介するとともに、私が経験したアンビバレンスと「病気」の関係についてお話しします。
アンビバレンスとは
アンビバレンスとは、簡単に説明すると「好きだけれど嫌い」「行きたいけど行きたくない」「一人になりたいのに誰かいてほしい」というような、相反する2つの感情を同時に抱く心理現象のことです。
この心理現象は日常生活の中で誰もが経験するものです。特に、困難な状況や大きな選択を迫られるときに、この感情が強く表れることが多いのではないでしょうか。
私自身、このアンビバレンスを強く感じる対象があります。それは、私が抱える病気「SLE(全身性エリテマトーデス)」です。
SLEという悪友
SLEは膠原病(自己免疫疾患の)一つで、難病に分類されます。免疫システムが自分自身の体を攻撃してしまうため、皮膚や関節、内臓など体のさまざまな部分に炎症を引き起こす病気です。
難病のため、現代の医療では一生付き合う必要がある病気であり、見た目には元気に見えても、関節痛や倦怠感など目に見えない症状を抱えることが多いです。
この病気を私は「悪友」と呼んでいます。それは、SLEが私の人生に深く根を張り、無視できない存在であると同時に、決して全てが悪いわけではないからです。
私にとってのアンビバレンス
SLEという病気を通じて、私は多くのことを学びました。
例えば、体調管理の重要性や、自分の限界を受け入れること、そして「無理をしない」という姿勢の大切さを痛感しました。また、この病気を通じて、同じ境遇にある人々と出会い、励まし合うことの大切さを知ることができました。
これらの経験が、今の私の価値観を形成し、SLEが私に与えてくれた「恩恵」のようなものだと思っています。
一方で、この病気がもたらす苦しみもあります。
例えば、突然の体調不良で予定をキャンセルせざるを得なかったり、周囲に迷惑をかけてしまうと感じたり、社会的な制約を強く意識する日々。時には夢を諦める選択をしなければいけないこともありました。
これらは時に、私の心が押しつぶされるような辛さを伴います。
だからこそ、私にとってSLEという病気は「恩人」であり「敵」でもあるのです。この病気がなければ私は今の自分になっていなかったかもしれませんし、同時にもっと別の人生を歩めたのではないかという思いもあります。
この矛盾した感情こそが、私の中に存在する「アンビバレンス」です。
アンビバレンスと向き合う方法
矛盾した感情を抱えることは、誰にでもある自然なことです。しかし、時にはその感情に戸惑い、どう受け止めればいいのか分からなくなることもあります。
アンビバレンスを受け入れ、向き合うことは、自分自身の内面を理解し、心のバランスを整えるために大切です。矛盾した感情を整理することで、物事を新しい視点で見つめ直すことができ、自分自身をより豊かに成長させるきっかけにもなります。
ここでは、私自身がアンビバレンスと向き合うために実践してきた方法をいくつかご紹介します。
1. 日記やブログを書く
自分の感情を書き出してみることは、とても効果的な方法です。
例えば、「何が好きで、何が嫌なのか」「何がしたくて、何が怖いのか」を箇条書きにしてみるだけでも、感情が整理され、心の中にある矛盾が少しずつ明確になります。
自分の思いを書く時間は、自分自身と向き合う大切な時間になるでしょう。
2. 信頼できる人に話す
自分の感情を誰かに話すことで、違う視点や新しい気づきを得られることがあります。
特に信頼できる友人、似たような境遇を持つ人々と話すことは、自分の感情を受け入れる手助けになることが多いです。
自分だけでは抱えきれない時には、誰かに頼ることを恐れないでください。
3. 心理学や哲学の本を読む
人間の感情や心について学ぶことで、自分の感情をより深く理解できるようになります。
「アンビバレンス」という現象が自然であることを知るだけでも、安心感を得られるかもしれません。
4. 自分の気持ちに優しくなる
矛盾する感情を抱える自分を否定せず、「そういう気持ちもあっていいんだ」と受け入れてみてください。
ポジティブな感情もネガティブな感情も、どちらも自分の一部です。どちらかを否定するのではなく、共存させることで心が少し軽くなるかもしれません。
まとめ
私にとって、病気とアンビバレンスの関係は非常に密接です。一見ネガティブに思える病気も、別の視点から見ると人生を豊かにする側面を持っています。ポジティブな感情とネガティブな感情が同時に存在することで、人は自分自身をより深く理解できるのかもしれません。
どんなに矛盾した感情を抱えていても、それはあなた自身が生きている証拠です。だからこそ、感情を否定せず、受け入れてみてください。その感情の中に、きっと「自分らしさ」が見つかるはずです。
アンビバレンスという複雑な感情と向き合うことが、あなたの人生をより豊かにし、未来への一歩を切り開いてくれると信じています。