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熊野の新宮、たそがれて瓶ビール。

「一本早い特急で来てホテルにチェックインしました」
夕方、新宮駅を出て歩き始めると、清水さんからそんなメッセージが届きました。
「清水さん、何してたんやろ」と思いつつ、ホテルに向かって私はぶらぶら歩き始めます。翌日は三重県熊野市で取材だったので、その日は前乗りで、それぞれ新宮入りしたのです。(新宮市は和歌山県のいちばん南にあり、熊野川を渡るともう三重県です)

見上げれば山の中腹に、神倉神社の御神体・ゴトビキ岩が…。熊野権現(熊野の神々)はまず、この巨岩に降臨し、その後、2キロほど離れた熊野速玉大社に遷られたと伝わります。ゴトビキ岩が「元宮」であるのに対し、熊野速玉大社は「新宮」です。

「どっかで晩御飯食べません?」
清水さんにメッセージを送ると「はい、私はいつでも食べられますよ」とすぐに返ってきたので、嬉しさのあまりちょっと早足に。(私はお酒を好みますが、清水さんは飲まないので夜は別行動のこともあります)

チェックインして重いリュックをおろし、軽装になって二人で町に繰り出しました。どこで食べます? なに食べます? と話しつつ。

店を決めてしまうと楽しい町歩きが終わってしまうので、「ここは高そうじゃないですか?」などと言いながらぐるぐる。

そして結局、落ち着いたのはホテルのそばの食堂でした。
それがもう、めちゃくちゃ良かった!

老夫婦でやっている昔ながらの小さな店で、店内には地元のおじさんがぱらぱらと三人。
天ぷら定食を頼み、冷蔵庫から勝手にお刺身とビールを一本取り出します。グラスが運ばれてきたら、後ろの席のおっちゃんが振り向いて「おおっ、なかなかやるなぁ」と褒めてくれました。
ビール一本ぐらいで何をたいそうな、と思いつつまずはグイッと。

「何しに来たん? 仕事か?」という質問にあれこれ答えていたら、その方がビールを一本おごってくれました。
「よそから来た人には、おごっとかなあかん」
おっちゃんが照れ隠しのように言うと、奥で一人飲みをしていた作業服姿の男性が、「ワエもよそから来たんやけど」とぼそっと言う。

おかげでテーブルの上にビール瓶が2本になったので、「じゃぁ私もちょっと飲みます」と清水さんが付き合ってくれて喜ぶ。飲みながら笑い話をいろいろした気がするけど、何を話したのかもう忘れました。
ああ、そういえば。
ビールをおごってくれたおっちゃんと、固く握手はしましたね。(清水さんもしてたと思います)


( iPhone 写真・清水いつ子 文・北浦雅子)

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