掌編小説213(お題:梅雨前線でリンボーダンスをしています)
「おまえが増本か」
どこもかしこもシャッターが閉まった寂れた商店街の路地裏。低い中年男の声がして、スマートフォンから顔をあげる。無精ひげの生えた口元には声高な嫌煙家の主義主張など屁でもないというように安い紙タバコがくわえられていて、パーマのかかった髪は顎のあたりまで伸び放題、カーキ色のモッズコートの下は毛玉だらけのスウェットにサンダル。カツアゲではない。カツアゲならどちらかといえばこの冴えない中年男のほうが狩られる側だし、紫煙を吐いた血色の悪いその唇は今、「ますもと」とたし