佐々木麦

謎のお題係Wが出したキテレツなお題で小説を書いています。日常、不思議な話、言葉遊びなど。読んだ小説の感想や考察を書いたブログもやっています。ブログ:https://www.mugitter.com/

佐々木麦

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マガジン

  • 佐々木麦のそそそ

    趣味で書いたショートショートです。作品はすべてとある人物からもらった「お題」を題材にしています。

  • 自選集「佐々木麦の手前みそそそ」

    これまで書いた作品の中から好きなものを集めました。

  • 不思議な仕事をしています

    人体模型との交渉から閑古鳥の羽毛採取まで不思議な仕事をしている人たちの日常小説シリーズです。

最近の記事

掌編小説316 - 新しい鳥

カナリアという鳥を、金成はまだ見たことがなかった。 スズメ目アトリ科カナリア属の小さな黄色の鳥だということは知っている。アフリカ大陸北西にあるカナリア諸島にちなんだ名だが、もともとの語源はラテン語の「canis(犬)」であることも。就職が決まってたった一ヶ月の研修期間のうちに身につけた知識だが、それ以前から鳥をながめるのは好きだった。スズメ。ハト。ミュージックプレイヤーのアプリを閉じ、イヤホンを外してしばしさえずりに耳をかたむける。好きなものを仕事にできることは幸福なことだ

    • 掌編小説315 - 十月の化けものたち

      仕事は相変わらずいそがしく、九月を過ぎても延々と暑い日がつづいていたため、十月も今日で終わりだということをすっかり忘れていた。 思いだしたのは、帰宅途中駅前の花屋で偶然カボチャを見かけたからだった。カボチャ。緑色のあれじゃない。あれに比べてやや大きな、それはオレンジ色のカボチャだった。 『食べられません』 と、手書きのポップには記されている。『ハロウィンの飾りに!』そういえば、ハロウィンといわれて緑のカボチャを想像したことはたしかになかった。なぜだろう。疑問に思ってその

      • 掌編小説314②(お題:コメント・モリ)

        森想太 記事を削除します。 本当によろしいですか? 本当によろしいですか。なぜそんなことをわざわざ訊くのだろう。そのせいで決心が揺らぐ。最初に決めたとおり一週間が経った。コメントはゼロ。誰も彼女のことを知らなかった。ぼく以外。本当によろしいですか? その問いかけは、まるで、ぼくがこの手で彼女を世界から抹消するみたいで。こわくてまだ押せない。この画面だって、もう一時間も表示されっぱなしなのに。 記事は、全然ゲームに関係のないものだった。 とりあえず内容を最優先にしなけれ

        • 掌編小説314 ①(お題:コメント・モリ)

          米戸ことは 以下の内容で退会処理を行います。 本当によろしいですか? 本当によろしいですか、だって。どうしてわざわざそんなこと訊くんだろう。まるで責められてるような気分で居心地が悪くて、むくれながら両手で素早くパスワードを打ちこむ。ていうか、最初からこのウィンドウだけ出してくれたらいいのに、退会理由とか書く必要ある? 書いたけど。 必須っていうから、退会理由の欄には「このままじゃいけないと思って」と書いた。 ふざけてるわけじゃない。このままじゃいけないと思って。それは

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        • 佐々木麦のそそそ
          315本
        • 自選集「佐々木麦の手前みそそそ」
          74本
        • 不思議な仕事をしています
          11本

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          掌編小説313(お題:プレッツェル知恵の輪)

          日曜日、よく晴れた午後のことだった。 街の中心にある噴水広場のベンチに老人が一人で座っている。普段なら気にも留めないあまりにありふれた光景。なのにわざわざ足を止めたのは、老人の持っているものがプレッツェルだったからだった。 一個ではない。両手に二つ。大きなお世話だと思いつつ、ご高齢の紳士が食べるには少々難のあるチョイスだと思った。歯が欠けてしまうかもしれないし、のどにつまらせてしまうかもしれない。ちょっと心配だった。それでなんとなく、老人がまずその一口を無事に食べきるのを

          掌編小説313(お題:プレッツェル知恵の輪)

          短編小説『メダカが降ってくるのを待ってる』【第60回「文藝賞〈短編部門〉」応募作品】

          メダカを飼うことにした。 春、四月の足音はもうすぐそこまで聞こえている。春は嫌い。新しくなにかと出会い、新しくなにかをはじめなければいけない雰囲気を押しつけてくる。だから一週間考えて、仕方なくメダカを飼うことにした。 なぜメダカなのかは自分でもよくわからない。なんとなく、小さくて、かわいくて、においがしなくて汚くない生きものといえばメダカという気がした。金魚や熱帯魚はだめ。あれは愛されようという魂胆が見え見えで、気持ち悪い見た目をしているから。 就職を機に実家を出てなん

          短編小説『メダカが降ってくるのを待ってる』【第60回「文藝賞〈短編部門〉」応募作品】

          掌編小説312 - 電子言霊の墓場送り

          「ここがきみのデスクね」 と、眼鏡の男性に案内されたのは意外にも普通の、どこのオフィスにもあるような本当に普通のデスクだった。ねずみ色の事務机にはデスクトップ型のパソコンとキーボード、マウスだけが置かれていて、椅子は今どき中古用品店でしか見かけないような肘掛けもない小さなビジネスチェア。 「巡回するSNSはあらかじめブラウザに登録してあるから。アカウントのパスワードもメールで送ってあるからまずそれを確認してもらって、ログインしたらすぐはじめちゃって。ノルマとかはないけど、

          掌編小説312 - 電子言霊の墓場送り

          掌編小説311 - アインシュタインの選択

          「鵜ノ沢海里です。趣味は天体観測。鵜ノ沢の『鵜』はペリカン目ウ科の鳥の総称で、日本では古くから漁業や観光業の友でした。というわけで、ぜひ鵜ノ沢とも仲よくしてくれたらうれしいです」 一礼して着席するとぱちぱちとまばらな拍手が起こった。自己紹介をするとき、僕はいつもこの定型文を使う。小学生のときにつくったひな形からほとんど手を加えていないので子供じみて聞こえるかなと不安もあったけれど、拍手はあたたかかったし、何人かの生徒は小さく笑ってくれている。よかった。先生が次を促して、うし

          掌編小説311 - アインシュタインの選択

          掌編小説310 - 窓から鳩を飛ばしています

          鳩山探偵事務所の「鳩山」はもちろん単純に俺の苗字だが、文字どおり鳩が山のように集まることも、じつはままある。デスクのうしろが大きな出窓になっていて、そこに腰かけて窓を開けると、頭に肩に腕に脚に、次から次へと鳩はとまった。 「へぇ、やっぱり浮気してたんだ」 ぐるるぽー。愉快な音でニヨは返事をした。便宜上「ニヨ」と名前をつけているが、あくまで従業員であって飼っているわけではない。二十四番目の従業員なのでニヨ。助手を手配するときはいつもこうして、番号からそれらしい名前をあてがっ

          掌編小説310 - 窓から鳩を飛ばしています

          掌編小説309 - 鵜の目鷹の目、鳩の目

          鵜ノ沢の「鵜」はペリカン目ウ科の鳥で、日本では古くから漁業や観光業の友でした――と、鵜ノ沢くんは自己紹介のたびに言うのだけど、あだ名はずっと「ハト」だった。ずっと昔に潰れた不動産屋さんのとなりに建つ古びた小さなマンションの三階、そのベランダに、いつもたくさんの鳩が群がっているからだった。 糞害に悩まされる近隣住民や相談を受けた役所の人が訪ねても、鵜ノ沢くんはもちろん、彼の両親も原因はわからないという。たとえばベランダに餌を撒いて意図的に呼びこんでいるとか、そういった形跡もな

          掌編小説309 - 鵜の目鷹の目、鳩の目

          掌編小説308 - 生死の境をうろうろしています

          古い集合住宅の一角。六畳の洋室の片隅で、猫が壁に爪をたてている。右の前足を引っこめるとまたわずかに壁紙がめくれた。がりっ。横顔はまるで用を足すときのような神妙な面持ちだ。 青みがかった黒の体毛に燃えさかるようなルビー色の瞳。それは、由緒ある一族の末裔たる証だった。 先祖はもともと風来坊だったそうだが、あるとき西洋の地で気まぐれに家猫となり、居候先には先住犬がいた。先住犬は代々、主人の家の墓を守るチャーチグリムーー誇り高きブラックドッグだった。その体毛と瞳はのちに先祖が「継

          掌編小説308 - 生死の境をうろうろしています

          掌編小説307 - 頭隠して口隠さずの巻

          数年前にウイルスが流行ってからというもの、この国もすっかりマスク文化というものが定着しましたね。 マスクは偉大な発明ですよ。我々にとってすこぶる都合がいい。口元を見られなくて済みますからね。……なぜってお嬢さん、人は嘘をつくとき、心理的に口元を隠したがるものなのですよ。 ゆえに我々がこのマスク文化の中で本当に注意しなければならないのは、マスクの下がどうなっているのかを観察し、想像することです。たとえばその口は裂けていないか。牙が生えていないか。彼らに手洗いうがいは効きませ

          掌編小説307 - 頭隠して口隠さずの巻

          掌編小説306 - Kid A

          ママは溜息が嫌いだった。 誰かの溜息が大嫌い。自分が満たされているときはそれを邪魔されたくないし、満たされていないときは最優先で慰めてほしい、どちらでもないときは相手もそうであるべきだと思っているみたい。 どこでも、溜息が聞こえてくるとママは容赦なく相手のことをにらんだ。相手がわたしだったときは「幸せが逃げていくわよ」とも言った。一緒にいないときもママは幻影になってわたしの溜息を監視している。いっそ、つくと幸せになれる溜息があればいいのにと思った。 だから、ハーモニカを

          掌編小説306 - Kid A

          掌編小説305(お題:コロコロ変わる名探偵)#ショートショートnote杯応募作品

          (394文字) ※ショートショートnote杯への応募作品です。

          掌編小説305(お題:コロコロ変わる名探偵)#ショートショートnote杯応募作品

          掌編小説304(お題:株式会社リストラ)#ショートショートnote杯応募作品

          最初にリスがきた。 「本日をもって、御社は弊社に吸収合併されることとなりました。これに伴い御社の社員は全員解雇とさせていただきます。というわけで、あなたはクビです」 次にやってきたのはトラだった。クビです、と社員の肩に乗って小首をかしげるリスのあとを悠然と追い、社員一人ひとりをじっと見つめ、気迫で彼らを追いだしていく。僕は最後だった。 「もうクビになってます」 僕は努めて冷静に言った。 「きれいに荷物を詰めているね。秋、地中にたっぷり貯蔵しておいたどんぐりを思いだす

          掌編小説304(お題:株式会社リストラ)#ショートショートnote杯応募作品

          掌編小説303(お題:違法の冷蔵庫)#ショートショートnote杯応募作品

          六時過ぎ、やってきたのは作業着姿の男だった。 「本日は冷象庫の点検ということで」 僕が普段そうしているように、自然な動作で男は冷象庫の扉を開ける。上段が冷蔵室、下段が冷凍室になっている、なんの変哲もない冷象庫だった。見かけは。 「んー」庫内に顔を突っこんだまま男がうなる。 「やっぱりいませんか?」 落胆したのもつかのま、 「この部屋幽霊っています?」 男は顔を引っこめておもむろに訊いた。 「象の、じゃなくても大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ」 「一応、洗面

          掌編小説303(お題:違法の冷蔵庫)#ショートショートnote杯応募作品