唐揚げが先か、ビールが先か。
ジュワジュワと音がする。油に中で小さい気泡が上がってきて、「俺、いい感じだぜ」と茶色い塊が私に話しかけてきた。
私は、菜箸でその茶色い塊を摘むと、白くでこぼことしたお布団、すなわちキッチンペーパーの上で、彼を休ませる。
彼が休んでいる間に私がやることと言えば、冷蔵庫からきちんと冷えた缶ビールを取り出して、グラスに注ぐこと。私はビールに敬意を払い、必ず缶ビールをグラスに注ぐと決めている。これは、缶ビールと私との約束。この約束を果たすことで、ビールが美味しくなるかどうかは知らない。しかし、魔法がかかるのだろうか。約束を守ると、缶ビールのまま飲み干すよりも、数段、美味しくなる。それを人はプラシーボ効果と呼ぶのかもしれない。
さて、休ませていた彼とは、唐揚げのことである。
注いだビールと、休んでいた唐揚げ。私はどちらを先にいただくべきだろうか。
唐揚げが先か、ビールが先か。
答えは明白。ビールが先。グラスに注いだビールを口に流し込む。まず先に舌に苦味を感じ、その後じわじわと口の中に旨みが広がる。ふわあと鼻からビールの香りが抜けて、ごくんと喉を鳴らしながら飲み込むと、シュワシュワと喉をビールが駆け降りる。
正解。
ビールが先で間違いない。私はそこで、あんぐりと大きく口に開け、唐揚げを放り込んだ。下味をたっぷりつけて、片栗粉をふんだんにまぶした唐揚げから、カリっと威勢のいい音がする。私は大きな唐揚げの半分を口に入れると、中からじゅわ〜と鶏の旨みと醤油の甘み、その他諸々の美味しい何かが口の中に広がった。口の中がユートピア。肉汁と脂のビーチで、水着の美男美女がキャピキャピはしゃぎながら、バナナボートを楽しんでいる絵が見える。
うんまっ!
揚げたてを口に放り入れたら、間違いなく火傷。やっぱりビールが先で、唐揚げが後。しかしだ、これは間違いなくビールだろう。私はぐびっとビールを飲む。
サイッッコー!!
そこで私は気づく。唐揚げが先か、ビールが先かじゃなかった。唐揚げの後にビール。これに尽きる。しかし問題がある。この組み合わせに、終わりはない。