
カルロスゴーンとイーロンマスクの明暗
『優れ力』と『異なり力』に関する、壮絶に美しいコンラストを描いた具体があるので、それをもとに今回はお話をしたいと思います。
結論から述べると、優れよう優れようとしたカルロスゴーン率いる日産が凋落し、異なろう異なろうとしたイーロンマスク率いるテスラが世界をリードする地位を築きはじめています。
カルロスゴーン(日産)とイーロンマスク(テスラ)のコントラストがすごい。
— さる@小学校教師|Y.SAKAMOTO (@saruesteacher) August 18, 2020
前者は無駄を省き合理化を進めて既存の価値を拡大しようとした(サイエンス思考)結果、今はとんでもなくジリ貧に。
後者は宇宙にロケット飛ばしたり直感に従い新たな価値を創出(アート思考)しまくって時価総額世界一。 pic.twitter.com/ESYZTLGZaZ
日産の栄枯盛衰 〜合理化の敗退〜
長年日産を率いたカルロスゴーンが金融商品取引法違反で逮捕され、ゴルフバッグに身を潜め、レバノンへ海外逃亡したニュースは世間の耳目を集めました。
日産は、日本が誇る、言わずとしれた世界を代表する自動車メーカーの一つでした。スカイライン、マーチ、エルグランドと、さまざまなセグメントで素晴らしい車を作り、日本の自動車業界を牽引してきたことは疑いようのない事実です。
しかし、成長が右肩下がりになってきました。そこでカルロスゴーンが会社のトップとなり、極めて合理的な方法で立て直しをはかろうとしました。
大規模なリストラ、採算コストに見合わない車種の撤廃、新興国への進出などです。結果として、数字的に好転した時期もありましたが、2019年度の決算では、コロナの影響も大きかったとはいえ、6700億円もの赤字を計上している状態です。
ただ、今年度はたくさんの新車種が投入される予定なので、復活の狼煙を上げることに、個人的には期待しています。
テスラの急成長 〜非合理の勝利〜
イーロンマスクのテスラについてあまり知らない方のために簡単に説明しておきます。
EV車(電気自動車)のメーカーとして2008年に初めて、製品を世に出した、まだ生まれて間もない会社です。それから12年経った2020年8月現在、会社の規模を表す指標であるテスラの時価総額は3820億ドルとなり、トヨタを抜き世界一となりました。なお、生産台数でいうとトヨタの1000万台に対してテスラは36万台しかありません。ただし、生産台数は過去の数字であり、株価は未来を表す数字です。世界中の人たちが、テスラの未来にはそれだけの可能性があると信じていることの表れだといえます。
テスラの車は、EV車という特性上、地球温暖化問題という人類の大敵に対して有効な対抗手段と見られています。その追い風に乗っている状態とも言えます。ただし、問題はバッテリー生産というコスト。そこでマスクはとんでもないことを考えます。
「田舎に世界中のバッテリーを全部作れるレベルの工場を作ったれ。ほな安くできるやろ」
という突拍子もないアイデアを考え、実際にネバダ州の郊外にギガファクトリーを建造しました。
事実、これにより世界中の自動車メーカーが生産する総電力を上回るバッテリーを生産できるようになり、テスラの車体価格もどんどんと下がっていきました。
また、オートパイロットという自動運転機能の開発に巨額の資金を投じています。ここも面白いのですが自動運転機能を搭載した車を売るというより、その自動運転システムをサブスクリプション(月額定額制)として売るという表現の方が正しいのです。
『月額100ドルの自動運転システムのサブスクリプションサービスで利益を得る』って、車産業におけるゲームチェンジが過ぎる。
— さる@小学校教師|Y.SAKAMOTO (@saruesteacher) August 3, 2020
車を手段としてサービスを売るってイメージ。発想がそもそも段違い。
テスラ、トヨタ超え本物か 利益の2割超ソフトで稼ぐ:日本経済新聞 https://t.co/qOFZyURaUp
現在、Microsoft社等がそうですが、売り上げのかなりのシェアをサブスクが占めるようになってきています。そういったゲームチェンジを見越した戦略なのです。
また、宇宙開発事業にも注力しており、マスクが設立したスペースX社が開発した世界初の民間有人宇宙船「クルードラゴン」も、もはや圧倒的に合理性を欠いていますよね。
学年3クラスの社会の授業をやってるんですが、コロナの影響でどうしても講義型になってしまって申し訳ないので、授業前に毎回タイムリーなネタを紹介しています。今日はスペースXの話。
— さる@小学校教師|Y.SAKAMOTO (@saruesteacher) June 4, 2020
pic.twitter.com/PGlI3BVsLV
日本を再浮上させるには?
このように、一見非合理に見え、異なるアプローチを撮り続けたテスラ社が、過去の成長社会で確固たる地位を築いた自動車メーカーを、今日の成熟社会においてことごとく抜き去っていったという具体が示すものは何でしょうか。
それは、『異なり力』でブルーオーシャンを切り拓くことが、これからの時代に圧倒的な優位性をもたらすということではないでしょうか。
もう、本当にしつこくて申し訳ないのですが、このマインドセットを我々教員が持つことはやはり大事です。しかし、この『異なり』を排他する空気感は、学校では明らかに存在しています。
だから、授業中の一見突拍子もないような子どもの意見を価値づけ、認めていくような雰囲気作りは必要だと感じます。
『異なり』を否定し続け、『優れ』を肯定し続けた結果、日本が新たなイノベーションを生む力を削がれていってしまったという仮説を、僕は持っています。
成熟社会という経済成長の踊り場に差し掛かった今、もう一度日本を浮上させてくための土台に教育はあるはずです。壮大なスケールで話してしまって今ちょっと顔が赤くなってしまっているのですが、そういった世界で起こっているゲームチェンジを見据え、『観』をアップデートし、教室で何ができるかを僕たちが考えていくことは未来をちょびっと明るくすることへとつながると、僕は信じています。