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今、この瞬間の自分と向き合う(#未来のためにできること)

「そんなのダメだよ」

夫に言われた瞬間、胸がギュッと苦しくなる。「攻撃された」と感じるから、言い返したい言葉が喉元までこみ上げる。深く吸った息を、固く縮こまった胸へと送りこむ。息を吐きながら、緊張が少しだけ、緩んでいくのを感じる。苛立った自分をもう一人の自分が観察しているうち「やり返したい」という尖った衝動が和らいでいく。そうしてじっと佇んでいると、空を流れる雲のように、不快感が身体を通り過ぎていく。

黙り込んでしまった私のそばで、夫は私のしていることーー今、この瞬間に経験していることを、評価や判断をせずただ意識するーーことに気づいている。マインドフルネスと呼ばれるこの状態を自身も日々練習している夫は、同じように呼吸を錨として一瞬一瞬に留まり、自分の内面を見つめている。

マインドフルネスを実践している私たちの間に、諍いはない。相手に傷つけられたり不快にさせられたと感じても、感情に任せて言い返すような自動的「反応」をするのではなく、自分の心と体に注意を向けて荒立った感情が和らいでいくのを見つめ、最適な「対応」を意識的に選択する。うっかり自動反応してしまっても、それを素直に認めて謝ることができる。

生まれつきマインドフルだったわけではない。一人目の夫とはどなり合いの喧嘩をしたし、不安から胃が痛くなったり、ひどく落ち込んでしまったことも過去にはあった。今でも時折苛立ち、悲しみ、恐れ、焦りなどの苦痛に襲われるが、マインドフルネスのおかげでそれを乗り越えることができる。この誰もが培えるスキルを教えること、広めることが私の仕事だ。その一環として、世界中で6500人が修了したオンラインによる無料マインドフルネスコースの、日本語版を制作している。

マインドフルネスの実践とは、いかに心が揺すぶられようと「内なる静寂に触れて調和を取り戻す」選択をすることだ。その穏やかなエネルギーは周囲に広がり、他者の平穏を喚起する。家族の内一人がマインドフルネスを実践すれば、家庭全体が平和になる。マインドフルネスを実践している社員が一人いれば、職場が安らぐ。

一人一人が今という瞬間にしっかりと存在して自分の中の平和とつながることが、すべての人が平和に暮らせる未来へとつながっていく。

「平和と公正をすべての人に」というSDGの大きな目標は、私の平和、そしてあなたの平和から始まる。


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