見出し画像

モンスター婆さん来たる

認知症の母には、年子の姉がいます。

車で20分ほどの場所に住むこの伯母は、92歳になった今でも自分で車を運転しますが、我が家に来る途中で事故でも起こされたら大変なので、最近はなるべく私が母を伯母の家に連れて行くようにしていました。
それでも連れて行けば行ったで、母は必ず不穏になって荒れるのです。

なので仕事が忙しいという理由にかこつけて、このところずっとご無沙汰していたのですが、先日私が仕事に出ている間に伯母は車でやってきました。

その日の夕方、私が会社から帰ると、母は廊下のピアノで【月の砂漠】を大音量にして弾いていました。

最近とんと弾く気のなかったピアノを弾いているのは、普段と違う何かがあったのでは?と、嫌な予感。

「もうすぐ夜だし、おしまいにしよう。」と言っても聞く耳を持たず、少し伴奏がズレている【月の砂漠】を弾きながら、酔いしれている様子。

その隙にこっそり母の部屋へ。
テーブルには、半分ほどに減ったクッキーの箱と二つのコップ。
そしてゴミ箱を見ると、違うクッキーの空き箱と小袋やパンの袋、それにジュースの空き箱などでパンパン。
(クッキーは、伯母が帰った後に母がほぼ食べたと思われる)

私はすぐに食べかけのクッキーの箱とコップ、そしてゴミ箱のゴミを全部片づけて、伯母のいた痕跡をすべて消し去りました。

そのうちピアノを弾くのをやめた母は、自分の部屋へ。
伯母が来たことを言うのかな・・と身構えていましたが、一切話さず
すぐにテレビを見始めました。
どうやらピアノを弾いている間に、伯母が来たことはすっかり忘れたらしい。
その日の夜、伯母から「〇〇(母)は、私が来たって言ってた?」と電話が。
「荒れるから来ないで欲しい」とは言えないので、せめて来てもらってもすぐに忘れる事を知ってもらうために、「全然言ってなかった。」と正直に答えました。

次の日、「最近、伯母ちゃん遊びに来てる?」と母に聞いてみました。
案の定「ううん、全然来ないねぇ。元気にしてるんだか・・」

長男である私のいとこ家族と暮らしている伯母は、頭も足腰もしっかりしていて、畑仕事もしています。
まだ家計の財布も握っており、家長とも言うべき存在で、自分の言うことは全て正しいと思っている人。
とはいえ、92歳。
いくら家族が免許返納を進めても「今まで一度も事故を起こしたことがない!」と、ガンとして譲らず。

そんな伯母は、家族にとっても我が家にとってもある意味モンスター。

そんな伯母と母を比べた時、私はモンスターよりは認知症の母でよかったな、と思うのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?