「告死病の遺志残し」で死に触れる【おすすめweb小説#3】
初めて読んだときの読後感をずっと忘れられないでいる作品。初読はおそらく3年ほど前で、最後に読んでからもだいぶ時間が経っているんですが、その鮮烈さがずっと心に焼けついているような気がする。ので、いつか作品紹介をするときには絶対に入れよう! と決めてました。
あらすじ
全ての生命が鉱石・貴石でできている大陸ペクシオロス。五大国の一つ群島国ダーズエに特殊な職に就くものたちがいた。
遺志残し、それは死にゆくものの念を読み取る存在のこと。
群島国ダーズエで遺志残しに就く少女・グリュテは遺志残しの任務についていた中、奇妙にも死に焦がれている自分に気付く。
遺志残しが稀にかかる『告死病』と宣告されたグリュテは、死に損ないの騎士・セルフィオと共に最後の任務の旅へと旅立つのだが……。
作者さまあらすじより
レビュー
まず最初にあげるべきポイントとしては、やっぱりきらきらとしたこの世界観!
あらすじにもあるように「全ての生命が鉱石・貴石でできている」という設定が軸になっているんですけど、これがたまらなく素敵だと思う。勝手に、星や花言葉とかって全人類がすきな要素だと思っているんですが、それと同じように宝石や鉱石もみんながもえる要素じゃないですか? 生命の核「殊魂」がそんな鉱石・貴石でできているだなんて、それだけでもう好きだなぁと思ってしまう。しかもそれぞれの殊魂を構成する鉱石によって髪や瞳の色も変わって、使える力の種類も変わるんですよね。本当にすてき設定。
さらに、この鉱石や殊魂にからんで、神様のお話がでてくるのも読んでてテンションあがります。独自の神話のある世界を読むのってすごく好きで、さらにそれが物語と深く関わっているのとかすっごくいいなぁとおもう。人々の日常生活にその世界独自の神話が出てくると、ファンタジーって感じがして楽しくないですか? わたしは楽しいです、はい。
あと、わたしはこのお話の中盤から終盤にかけての展開が大変に好みなんですが、どこまでネタバレになるのかがむずかしくて語れない……。最後いいよね! って一緒に語りたいのでぜひ読んできてください。(笑) これに関してはレビューするとかじゃなくて、ただ読んでとしか言えない。
まぁ簡単に説明すると、彼女の罹患している「告死病」がだんだんと進行していって、それと共に物語がもりあがっていく様子が非常にぞわぞわするんですよ。目が離せないし、読めば読むほど物語にするする引きこまれていくような。こういう引力のあるお話はやっぱり強いですよね。というか、この話の進み方が本当にすきなんですよねぇ……。
最初はゆったり始まって、折り返し地点くらいから急加速していくので、読むなら真ん中すぎまでは読んでほしい。そこからは展開がジェットコースター級ですから!
そして最後に、「告死病」という設定が天才的だなと思います。設定について2回語ってない? と思われるかもしれないけれど、告死病の描写のされ方とか、そこから思うこととか、もろもろ含めてすき。
告死病というのは、死を美しいと思い、焦がれてしまう病。死に日常的に触れる「遺志残し」が稀に罹る職業病のようなもので、主人公のグリュテも遺志残しとして働いているあいだに告死病となってしまいます。
この、告死病の症状の描写に 告死病であるグリュテは、死にまつわることに美しさを覚え、生を忌み、自分や自分に近しい人の死さえ甘美に感じてしまうようになります。その、グリュテの感情ひとつひとつにリアリティーがあって、グリュテの考え方に納得させられてしまうようなところがすごいと思う。私は基本的に死についてそういう考えを持たないんですが、グリュテの症状にはぐっと心が持っていかれるような気がする。
で、もちろん死という取り扱いの難しい話題がメインになっているわけですが、その扱い方のバランスがとれているなと思います。根拠もなく安易に「生きているってすばらしいんだよ!」というわけでもなく、けれど告死病患者のように死を礼賛するわけでもなくて、なんとなく明るい方向へ向かっていけるのがすきです。作品のあり方が誠実だからこそ、死生観に対して真っ直ぐ向き合わされるような。考えなしでもなく、押しつけがましくもない距離感がすごくちょうどいいと思う。かつ、重すぎるというわけではなく、鮮やかな読書体験を残してくれるので、エンターテイメント小説、よみものとしてもすごく楽しめます。
また長々と語ってしまいましたが、「告死病の遺志残し」本当に好きな作品なので、少しでも興味を持たれた方はどうぞ読んでみてください!
また、この作品と同一世界観の「玻瑠の娘 黒の王~カイン、あるいは殊魂の話」も、ハイファンタジーらしさが楽しめて面白いのでおすすめです。
基本情報
告死病の遺志残し 著:円月 おみ
完結済長編小説
文字数:152,425字 (2021/4/30 小説家になろうにて)
掲載サイト:
小説家になろう
カクヨム
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