その愛しさに包まれる。「月闇の扉」【おすすめweb小説#1】
基本情報
月闇の扉 著:瑞原チヒロ
連載中長編小説
文字数:446,106字(2021/2/24・小説家になろうにて)
掲載サイト:(「月闇の扉」各小説ページへのリンク)
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あらすじ
四神が守護する大陸に≪月闇の扉≫が開く――。
時を同じくして、とある島国で王が亡くなった。第一子、王女ラナーニャは王の御霊を送るための儀式へと向かう――。
やがて来る王国の崩壊。島から弾き出された王女は記憶を失ったまま、とある旅人たちと出会う。
その出会いこそが彼女の運命の始まり、そして彼女は立ち上がる。
恋愛ちょこっと剣と魔法の旅モノファンタジー。
――作者さまあらすじより
レビュー
あぁぁ、もうこの作品はただただ好き。好きという感情しか持てないくらい好き。今回レビューを書くために軽く読み直してきたんですが、
結論:やっぱすごいすき、になってしまった。
けどそんなことばかり言ってても仕方ないので、特に好きな3要素について語っていきます。
まず、なんといってもすべてのバランスがよくて。
文章も硬すぎずやわらかすぎず、するっと読めてしまうような読みやすさ。いわゆる「文章のリズム感」もちょうどいい。どこか上品で耽美だけど、鼻につかなくてとっつきやすいところとか、シリアスだけどちゃんと楽しめるところとか、どこをとっても均整のとれたつくりだなと感じます。
だからこそ読んでいて心地いいし、永遠に読めるなーと。割と長めのお話ではあるんですけど、それを感じさせないというか。基本的には「文章が上手い」ってやつなのかもしれないけれど、それだけじゃない魅力があると思う。
あとは設定もすごい好きです。
この世界に住む人々は朱雀、青龍、玄武、白虎の《印》を持っていて、それぞれの四神に対応した力を使うことができます。すこし王道っぽいけれど、こういうのってなんか心躍りません⁉︎ ちなみに、この力を使ってる時の詠唱がめちゃくちゃかっこいいんですよね。
さらに個人的に好きなのが《月闇の扉》という作品の根幹となっている設定。これはお話のタイトルでもあるけれど、この世界では五年に一度《月闇の扉》というものが開き、そこから人間を襲う《迷い子》たちがでてきます。
黄金の光を湛えていた月の中央に、暗黒の扉が開く。
あらゆる狂気を孕んだ闇はあっという間に周囲の黄金を呑み込み、いつもならば夜の覇者である月が浸食されるように色褪せて行く。
――「月闇の扉」Side:Ranarnya 01《前》より
いつも私たちの上に浮かんでいる月に《扉》が開いて……という設定は発想だけで満点! ほんっとに!! 何というかこう、当たり前にそこにあるはずのものが崩れていくっていうのがぞわぞわして好きです。あと描写も素敵すぎる!
他にも隠された謎や真実があって、それらが少しずつ明かされていく様子も好き。世界の秘密に近付いていくのって無条件にロマン。
で、なによりも最高なのが感情の描きだし方。特に、悲しさとか切なさの描かれ方がやばい(やばすぎてやばいとしか言えない)。
他と比べても切なくなるシーンが多い小説ですが、その全てがすばらしく素敵。息ができなくなるくらい切ないけれど、決して押しつけがましくはない。主人公に、唐突に悲劇のヒロインかのようになられても困るだけだけど、そうではなくて自然とこちらもくるしくなるような。(個人的には「パレットの中の孤独」が最高峰に好きなので、ここまでは読んでほしい!)
人物の内面を描けるというのは小説の強みの一つでもありますが、それでもこんなに突出して素敵なのはなんなんだ……?
で、なんでこんなにもせつないのにすてきなんだ、と考えた結果、そこには愛があるからなんだという結論に至りました。愛があるからこそ、切なさ、やるせなさがうまれて、こちら側を苦しくさせているんだ、と。しかも、その愛は誰かの心を救いあげて、ぎゅっと抱きしめてくれるような「愛しさ」なんですよね。だからこの記事のタイトルを「その愛しさに包まれる」にしたんですが。どこまでも切なくて、どこか愛しい。
私は世界の誰にも愛されてないし必要とされてないんだ、みたいな、どうにも寂しくて闇堕ちしそうな日って多分どんな人にも訪れるけれど、そういうときにこそ、心によりそってくれるタイプのお話で、自己嫌悪とかで死にそうなときの心のおくすりになるなぁと勝手に思ってます。
と、後半にいくにつれて暴走しましたが、こんな感じにすごい素敵で好きになれる話なのでもっとたくさんの人に読んでほしいです。私の言葉では伝えきれない魅力がたくさんつまった作品だと思うので! 少なくともside:Ranarnyaの終わりまでは読んで!!
……とはいえ、人にはいろんな事情があるので同じ著者で他の作品として、
長編だと手が出しにくい人は短編「硝子の琴」
完結作を読みたいって人には「託宣が下りました」
をおすすめします。
くどいかもしれないけれど最後にもう一度「月闇の扉」のリンクも貼っておこう。おすすめです。
小説になろう版「月闇の扉」 ←こちらから
※レビュー内のリンクは全て小説家になろう版のものです
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